第7話
「おはよう」
言って肩を組んできたのは進藤だ。
「今日から俺のことを呼び捨てで呼ぶ練習しようぜ!」
爽やかな笑顔でいきなりそんなことを言ってくる。
「えーとなんで…」
いきなりのその提案に動揺しつつ言葉を返す。
「俺が呼び捨てで呼ばれると嬉しいから」
「まあ…検討します」
学校の肛門から入ってくる生徒たちは一体何をしているんだろうと訝しんだ目で俺たちを見る。
この人まだよくわかんないけど多分悪い人じゃないんだよな。
「この前一緒に遊んだ時楽しかったよな!」
自分の席に座り思い出したような口調で言う。
「普段行かないところに行って色々新鮮で楽しくはあったんですけど、普段外に出ない俺にとっては少しきつかったです」
「いつも外に出かけない時とかって何してるんだ家で?」
「まあ基本的にはまだ読めてない本を読んだりとかゲームやったりとか色々です」
俺にとって家で過ごすことの方がいつもの状態なので、家の中で時間を潰すことに関しては困ったことがない。
「そういえば初めて隣になって話した時もそんなこと言ってたよな」
まるで咳が隣になってもうだいぶ経ったような口調で話しているがまだそんなに日は立っていない。
話をしているとまた不気味な視線を後ろから感じ慌てて振り返ってみるがやはり後ろには1人の女子生徒が座っているだけで俺の方を全く見ていない。
「どうかしたか?」
「いいえまた誰かの視線を感じたような気がして」
「誰かが噂してんじゃねえのか?」
「それってくしゃみした時じゃなかったでしたっけ?」
「そう言われてみればそっか」
面白おかしそうに笑う。
ホームルームが終わったところで進藤の隣の席の女子生徒が俺の肩を軽く叩く。
「ねえちょっと来て!」
この人は確か横の席の
苛立ちを含んだ口調で言われついてくるように促してくる。
俺は困惑しながらもここで反抗したら何をされるかわからないと思い大人しくついていくことにした。
「先生ちょっと私体調が悪いので篠崎さんに保健室までついてきてもらっていいですか?」
手を上げ先生に確認を取る。
「分かったついて行ってやれ」
「分かりました…」
教室の中がどよめいたが俺は気にせずについていく。
行き先も聞かずしばらく歩き続ける。
その女子生徒はしばらく歩いたところで足を止め俺の方を振り返る。
「あの俺は一体ここで何をすればいいんでしょうか?」
慎重に尋ねる。
相手が何に対して怒っているかわからない以上下手に会話をするのは危険だ。
ここは慎重に立ち回らないと!
「あぁ!」
尋ねると怒りを隠そうともしない言葉が飛んでくる。
ここはグラウンドの人目につきにくい場所。
しかも今は授業中だ俺たち以外人はいない。
俺と金井は大きな木の影に隠れてしまっているのでなおさらだ。
ホームルームが終わった直後に呼ばれてここまで連れてこられたってことを考えると、俺に対して何かをしようとしてるって考えた方が良さそうだな。
というか隠そうともしない怒りを含んだ口調を聞けば明らかだ。
「なんでなんでなんでなんでこんなやつが!」
さっきよりも強い怒りを含んだ口調で言いながらその怒りをぶつけるように地面を何度も何度も踏む。
「ああイライラする!」
頭をぼりぼりとかきむしりながら俺の方に視線を向け鋭く睨みつけてくる。
下手に刺激をしないように無言のままでいるとそれが逆に気に食わなかったのか詰め寄ってくる。
詰め寄られるとその怒りの視線にけをされ息を飲む。
「なんで進藤くんがじみでくらいあんたなんかと喋ってて何であんなに楽しそうな顔をするの!」
「いい、わかってる進藤くんがあんたなんかを相手にしてくれてるのは奇跡みたいなものなんだからねわかってる!」
まだよく状況を飲み込めていないまま怒りをあらわにした言葉をぶつけられる。
「何か言ってみなさいよほら!」
何かを言えと言われても俺は何も言わない何かを言えば火に油を注ぐ結果になることがわかっているから。
再び俺に詰め寄ると今度は胸ぐらを掴んでくる。
奥歯を強く噛み締めわずかに満をいた次の瞬間!
勢いよくひっぱたかれる。
今まで何でこんなところに連れてこられたのか分かっていなかったがそこまでされてようやく気がついた。
この女子生徒は進藤のことが好きなんだと。
私の方があなたのことをずっと見ているのに何でこんな地味なやつとずっと仲良くしているんだと今までのその怒りが募りに募ってこうしてその怒りを俺にぶつけた。
するとつかんでいた胸ぐらを手から離す。
叩かれた頬が熱を帯びじわじわと痛む。
俺は何もなかったかのように女子生徒の前に立つ。
「あなたが進藤くんと関わってるとどんどん株が落ちていくのよ!」
「すいません…」
さらにいら立たせるかもしれないと思いつつもできることはこれぐらいしかないと思いそう言って頭を下げる。
「あんたがいくら頭を下げたところで進藤くんの株を下げた事実は変わらないんだよ!」
俺が何も言わずに怒りが鎮まるのを待っていると今度は右フックを頬にくらわされ避けることができず地面に倒れる。
ゆっくりと立ち上がる。
ここ最近向けられていた視線はあの女子生徒の者だったんだと気づく。
進藤と俺が喋っているのを見てバレないように睨みつけていたというところだろう。
とうとう耐えきれなくなった女子生徒が俺を呼びつけ言いたいことを言ってたった今さって行った。
ひっぱたかれてからしばらく経っているはずの頬がまだ熱を帯びている。
口の中に血の味が広がっている。
それからなんとか教室に戻り自分の席に座る。
進藤からなるべく距離を取りながら午前の授業を終えた。
お昼休みの時間になりなんとなく図書館の方に行ってみるといつも通り鈴原が椅子に座って本を読んでいた。
「篠崎さんがこんな時間に来るなんて珍しいですね」
「ちょっと気分転換にと思って」
「鈴原さんはこの時間にもここに来てるんですか?」
「ええ私は暇さえあれば授業の時間以外ここに来てるんです」
「頬怪我してるじゃないですか!」
「もうちょっと近づいてよく見せてください」
「あ、はい」
俺は言われるがままに近づく。
俺の顔を両手で軽く挟むようにしてじっと観察する。
その瞬間心臓がドクンと脈打った。
「ちょっとすれてるので私の絆創膏を使ってください」
戸惑いながら逃げるように顔をそらす。
「これはちょっとさっき階段で転んじゃって」
とっさに口から出たのはそんな使い古されたごまかしの言葉。
制服のポケットの中から小さいポーチを取り出しその中からメルヘンチックなデザインのピンク色の可愛らしいうさぎの絵が描かれた絆創膏を取り出す。
「そんな悪いですよわざわざこんなの2、3日しないうちにすぐ治りますから心配しないでください」
「気にしなくていいですから少し大人しくしていてください」
その絆創膏を貼ってくれる。
「ちょっともう1回見せてください」
もう終わりかと思い少し離れたところでもう一度言われる。
さっきと同じように俺の顔を軽く両手ではさみ観察する。
「口の中も切れてるじゃないですか」
そう言って今度は制服のポケットからさっき貼ってくれた絆創膏と似たようなメルヘンチックなデザインのハンカチを取り出す。
そのハンカチを軽く当てて口の中の血を止めてくれる。
「ありがとうございます」
「よかったです血が止まって」
「あ…」
一瞬鈴原の目を見つめてしまい慌ててそらす。
「どうかしました?」
「いいえ何でもないです」
何なんだこの胸のざわめきは!
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