本の虫文学少女と図書館で過ごす時間
カイト
第1話
昨日入学式を終えたばかりの学校に特に理由もなく早く来ていた。
別に誰かと会えることを楽しみにしていたわけでも、これから始まる中学校生活に胸を踊らせていたわけでもなく。
特に家にいてもやることがなかったし、しいて言うなら入学初日から遅刻をするのはなんとなくイメージが悪くなるかと思っただけだ。
誰もいない静かな廊下をただ1人特に何も考えず歩く。
物音一つない廊下を歩いているとこの世界にただ1人だけになってしまったんじゃないかと錯覚するがそんなことはない。
まだこの学校の先生には会っていないが先生たちは先に来て仕事をしているはずだ。
廊下を歩いているといつのまにかこの学校の図書館にたどり着いていた。
他の生徒たちが投稿してくるまでの時間本を読んで時間を潰せるかと思いゆっくりと扉を開け中に入る。
俺は少し驚いた。
なぜならこんなに早い時間に俺以外に生徒がいたからだ。
椅子に座り優雅に本を読んでいる1人の女子生徒が。
慌てふためきながらもなるべく自然にその子の横に置かれている椅子に近づく。
「あの…横に座っても…大丈夫ですか」
俺はたどたどしい口調で尋ねる。
「どうぞ」
短い言葉が返ってくる。
了解をもらったところで横に座る。
見た感じ図書館という割には本の数が少ないような気がする。
この場所がそもそも狭いから仕方がないのかもしれない。
中学校の図書館というのはだいたいこんなものなんだろうか。
小学校の時の図書館の知識しかないから何とも言えないが。
俺は一度心の中で大きく深呼吸をし尋ねる。
「あの…」
声をかけたはいいものの言葉に詰まってしまう。
「何でしょうか?」
彼女はずっと見ていた本から目線を外し俺の方に顔を向ける。
なんとか言葉を口にしようとすると、誰かに嘲笑われているような声が聞こえてくる。
いい加減に乗り越えろ過去のいじめにあった記憶なんて!
心の中でそう自分に強く言い聞かせる。
彼女はなかなか喋り始めない俺を見て目線を本に戻していいのかどうなのか迷っているようだった。
せっかく声をかけたんだから何か喋らないと。
「あの…その…名前を聞いてもいいですか?」
たった一言その言葉を発しただけなのに手から汗がじんわりとでてくる。
「名前…ですか?」
いきなりの俺の言葉に少し戸惑っているようではあったが答えてくれた。
「私の名前は
「俺の名前は
軽く頷き本の方に視線を戻す。
それにしてもこの人とても綺麗だな。
透き通るような綺麗な肌によく手入れがされているのであろう短い黒髪。
青みがかった黒色の制服に赤いリボン。
本のページをめくる一つ一つの
「あの…」
再び鈴原の方に顔を向け尋ねる。
「何ですか?」
今度は本のページから目線を外さずに言葉を返してくる。
このわずかな時間で高感度を下げてしまったのかと少し不安に思ったが、言葉を続ける。
「大した話じゃないんですけどさっきから何を呼んでいるのかなと少し気になって」
「あやかしとか幽霊をメインに添えた文学小説です」
俺が知ってるところで言うと可愛いあやかしたちが疲れたサラリーマンを癒したりしてくれるのか?。
本の表紙を見る限りそんな感じはしないが。
「家とかでもそういう本を読むんですか?」
「どちらかと言うと読む方ではあると思います」
ただ横に座ってこうしてずっと話しかけていたら嫌がられるかと思い一度咳をたち何か本を持ってくることにした。
適当に本棚に並べられている本を手に取りパラパラとめくってみるがどれも古い本ばかりでよく内容がわからない。
この図書館に入った時から感じていたことではあるがやはり本の数が少ない。
とりあえず面白い本がないかと探し、少し薄い本を手に取りそれを席に持っていく。
適当に手に取った本を開いて見てみる。
内容ははっきり言って都合が良すぎる展開ではあったがおそらく全年齢対象ならではの設定のぶっ飛びさが出ていて面白かった。
どうやら今まで読んでいた本を読み終えたらしい鈴原は席から立ち上がり本を元の位置に戻す。
俺も読み終わった本を元の位置に戻す。
「いつもああいう本を読んでいるんですか?」
いつのまにかそんな言葉が口から出ていた。
「ああいう本っていうのは?」
「ああいう何と言うか難しそうな本というか?」
「いつもは文芸小説だけじゃなくいろんな本を読みますよ」
「エンタメ小説とか恋愛小説とか色々です」
最初声をかけた時はそっけない印象だったが俺に話しかけられることに腹を立ててはいないようだ。
さっきと全く変わらない無機質な口調ではあるがどこか楽しそうだ。
「確かに文芸小説は難しそうって
「読んでみたらそんなに難しくない文章の小説もありますし」
「文章の書き方は作者によって十人十色でそれはそれで楽しいですよ」
その口ぶりから察するに家でもかなりの本を読んでそうだが。
「そうなんですね俺も小説を読むには読むんですけど、エンタメ小説ばっかりで文芸小説はなんだか読むのが気が引けちゃって」
若干の苦笑いを浮かべ答える。
「文芸小説はさっきも言いましたがそんなに難しい文章を使ってない作者もたくさんいます」
「なので何かの本を1冊買ってみてその作者の本が面白かったら別の本を買ってみるっていうのもいいかもしれませんね」
「あ!私ばっかり喋っちゃってすいません」
言って少し恥ずかしそうに頬を赤らめる。
「いえ色々と教えてくれてありがとうございます」
「聞くのを忘れていたんですけど鈴原さんって何年生ですか?」
もしかしたら俺より上の学年という可能性がある。
もし上の学年だったとしたら失礼な口の利き方を知らず知らずのうちにしていなかったかと不安になってくる。
「私は1年生です」
「俺も今年入学してきたばっかりで同級生なんですね」
そう言葉を口にしたところで一つの疑問が頭によぎる。
でも入学式の時鈴原さん体育館にいたっけ?
「鈴原さんてっ入学式の時計体育館にいましたっけ?」
聞いても大丈夫かと不安に思いながら話ができればと思い尋ねてみる。
「鈴原さんって入学式の時体育館の方にいましたっけ?」
「いたはいたんですけど入学式が終わってすぐこの図書館に来て本を読んでたので実際にお会いするのは今回が初めてです」
「終わってすぐ入学してきたばかりのこの校舎の中にある図書館に行くなんてすごいですね」
「道に迷ったりしませんでしたか?」
「入学式が始まる少しの間先生に言ってここに案内してもらって本を読んでましたから」
「本当に少しでしたけど時間が潰せてよかったです」
これは俺が想像していたよりもだいぶ本が好きだしい。
まさに本の虫だ。
「それに人の輪の中にいるよりは本を読んでた方がずっといい…」
「今何か言いました?」
「ええ何も」
少し慌てた口調で言葉を返してくる。
もしかしたらあまり聞かれたくないことなのかもしれない。
別の払いに切り替えようかとも考えたが 特に他に話題が思いつかない。
なんとなく時計の方を見てみるともうすぐ朝のホームルームが始まる時間になっていた。
後それじゃあ俺はこれで失礼しますと言って図書館を出て自分のクラスに向かった。
「まだ大丈夫かと思ったら結構時間経ってたんだな」
「それにしてもさっきの子少し不思議な子だったな」
「とりあえず俺は下手に波風を立てない学生生活を送ろう」
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