第30話 特別形式の体育

 五時間目は体育の授業。文雄は体操着に着替えて、運動場に向かった。


 運動場では、体育の教師、真心南の二人が立っていた。


「橘、真心、今日は3000メートル走でどうだ・・・・・・」


 無視を受けていた男の事情を考慮して、二人のみで体育の授業をする。少なすぎる人数だけど、寂しさを感じることはなかった。無視したクラスメイトと顔を合わせない時間は、心を休められるひとときになる。


 二人きりの体育なので、サッカー、ソフトボール、バスケットなどは無理。ランニングなどといった少人数でできるものに限られる。

 

「文雄、一緒に入ろう」


「南、わかった」


 二人の同意によって、長距離走と決まった。


「俺は職員室に戻るから、勝手にやっておいてくれ」


「わかりました」


 文雄、南はトラックを走り出す。空気抵抗の影響か、いつもより足取りは重かった。


「文雄、すっごく足が速いね」


「高校生になれば、男のほうが早くなるのは自然だ」


 男、女では筋肉などが異なる。スピードに差が出るのは、やむを得ないことといえる。


「南、ペース配分はきっちりしろよ」


「わかった・・・・・・」


 文雄は10分ほどで、3000メートルを走り終える。空気抵抗を受けていなければ、9分台で乾燥できていた。

 

 南は3000メートルを、12分ほどで完走。平均と比べると、相当に早いペースである。


「文雄、疲れた」


 南は息を完全に切らしていた。


「南、自分のペースで走れといっただろ」


「ごめんごめん。つい頑張りすぎちゃって・・・・・・」


 用事を済ませたのか、体育の教師が戻ってきた。


「なかなかいいペースだな。しっかりと休んだら、もう一回やってみよう」


 文雄は余裕あったけど、南は息をゼイゼイとしている。体育の授業が終わるまでに、回復させるのは難しい。


「橘は勉強もできるし、スポーツも万能なんだな。うちの学校にいるのがもったいないくらいだ」


「そうですか?」


「もっといい学校に通ってみたらどうだ。いろいろなライバルと切磋琢磨したら、さらに良くなりそうだ」


 文雄は首を横に振った。


「今のところは、ここでいいです。他の学校に通うつもりはありません」


 他の学校は遠く、電車で2時間以上もかかる。登校するのは現実的ではない。


 南は無理をしたのか、まだゼイゼイといっていた。


「南、だいじょうぶか」


「うん。おそらく・・・・・・」


「体調が悪いなら、保健室にいったほうが・・・・・・」


「しっかりと休めば、授業が終わるまでには回復できるはず」


「回復しそうになかったら、すぐに声をかけろよ」


 南は首を縦に振った。


「文雄、ありがとう・・・・・・」


 南のことが心配だったのか、文雄は走りに行くことはできなかった。教師は事情を察したのか、注意することはなかった。  

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