第8話 メイドの新技!?

「えっとー、どちら様ですか?」



「妾は、エヴィリオン・ヴィクトール。このヴィクトール学園の学園長だわさ」



 幼い見た目にも関わらず魔性めいたものを感じる。アイナの心境はきっと、どうしてこんなところに年端もいかない女の子がいるの? 学園の教師陣が自分を試すために設けた試練なのかとか。色々考えているだろう。

 ゲームのテキストにも書いてあったし......



 テキスト抜きにしてもアイナの反応は私にも当然わかる。学園の最高峰の役職を持つ、学園長。イメージ的には威風堂々とした佇まい、創立八百年を今なお、存続させれる経営力。ヴィクドール学園が貴族主義ではなく、実力主義になっているのは、各国の権力者に負けない魔法力を学園長が保有しているからだ。

 そんなやり手の学園長がこんな小さくも偉そうにしている態度をとっているんだ。疑って当然。


 エヴィリオン・ヴィクトールが背伸びをしてアイナの顔に向かって手をひらひら動かす。


 驚愕して口と目が開っぱなしのアイナ。側から見たら、時間静止され身動きが取れない状態。アイナ自身がを積めば、も実現できる。かなりマニアックな趣向だったけど......




 落胆するエヴィリオン・ヴィクトール。


「ま、わかっていた事だわさ。おい、そこのメイド」


 声をかけられる。うん? 後ろ? 誰もいない......もしかして、見えない人が見える人物ですか。



「何、馬鹿な事やっているんだ。妾が話しかけているのはバロン。お前さんだ」



 ロリ学園長に認知されているとは、光栄だな〜〜(棒読み)。



「はい! なんでしょうか?」


「アホの子を正気にさせろ」



 未だに放心状態のアイナ。そういえば、ゲーム時もリアルに六十秒、止まっていたっけ。一瞬バグかとあの時は思ったけど、その後のアイナが動かない描写をプレイヤーに分からすための演出だったのだと気づくのに時間がかかっていた。



 さすがに今はゲームではない、現実。私が行動を起こさないとずっと石像のように動かないアイナが完成してしまう。

 そう感じた私は、アイナの耳元に囁く。



 推しに直接、言うのはなかなかに恥ずかしいが治すためだ、腹を括れ、バロン!!


「アイナ......元に戻らないと、にしますよ。後、超超超超超大好きです!!!」



「ホギャガャガァ!!?!?」



 アイナの体がバグった。具体的に言うと、反復横跳びを高速で行い、勢いよく体を回転しながら上へ跳び、飛び込み選手の如く空中回転しながら着地。顔を手で覆いながら、床を転がる。

 そして、力尽き、部屋の隅っこで縮こまり動かなくなった。体が火照っていて湯気まで出ている......


 こんな光景はカップル成立後に見れるシーン。よもや、こんな最序盤で拝めるとはファンにとって感慨無量......ハンカチ借りますね。



 一国の姫がなんともはしたない行動をとったのかと呆れ、同時に私に視線を向ける学園長。何めんどくさいことをやったんだ、と私を睨むエヴィリオン・ヴィクトール。

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