第8話(8)葬送と処罰
デニアウムは…
神殿長と11人の神官の責任をたった1人で負って、力およばず命を落としたのか。
今ではなにもかも遅いが、わたくしを頼ってくれれば…
いや、第一王女の責を担うわたくしを、賢明な老デニアウムは頼るまい。死を覚悟して11人を戻そうと神との交渉を行ったのだ。
おそらく力の全てを差し出したのだろう。
そして力及ばず命を落とした。
それはデニアウムらしい潔さであり、未だわたくしへの思いやりがある師らしい行動だ。
ここで激高してデニアウムの志を無碍にしてはならない。
荒れる心を声色に出すまいと努めて命じた。
「全員立ちなさい。今すぐに。主たるテミル女神の名において命じます」
ピクリと全員が身じろぎする。
「聞こえたはずです。テミル女神によって、テミル・リディアの名を賜りしわたくしが命じます。疾く立ち、わたくしに従いなさい」
12人はうそうそと体を引きずり上げるように起こし、わたくしの前に跪いた。皆震えている。
「どうかお許しを」
「デニアウム様は自ら進んで…」
神官達の訴えをわたくしは遮った。
「詳細は後で聞きます。すぐに立って神殿と孤児院に食料を供出するのです」
神官長が弱弱しく言う。
「食料はありません。最後の供出をしてから我々はここに籠ったのです。デミアウム師に殉死の意を以って…」
わたくしはカッとなり厳しく言い渡した。
「殉死は禁じます!!最後まで生きて責任をとりなさい!!」
12人はその場に頽れた。
平和な世が続き、神殿は腐敗こそしなかったが様々な意味で弱力化したようだ。
聖女召喚もわたくしに対抗せんと起死回生を求めたのだろう。
愚かな。
わたくしこそ主たるテミル女神始め、万(よろず)の神々全てが認めた聖女であるというのに。
第一王女であるが故に神殿に仕えることは叶わないが、神殿管理大臣エイナイダ公爵の上に君臨する者である。
だからこそ、神殿の全権に采配を振るうことができる。
今までは報告を聞き、困難な事案に提案や助言をするに留めていたが、それが間違いの元だったらしい。わたくしも責任をとらなくてはならない。
「全員、沐浴し身を清めた上、自室で謹慎し沙汰を待つように」
儀式場から神官たちが出ていくのを確認し、わたくしはデニアウム師の躯に近づいた。
苦しんだ様子のない安らかな顔に安堵を覚える。
手を師の顔に添えると、その冷たさに涙が落ちるのを禁じ得なかった。
わたくしの涙がデニアウムの顔に落ちると、そこから金色の光が湧き、全身に広がった。光はほどなく消えたが、共にデニアウムの体も消えた。残されたのは儀式服のみ。
儀式場はそのままにし、退出した。
扉の外には謹慎を命じた神官達が待っていた。
怒りをおさえて、わたくしは言い渡した。
「そなた達はテミル・リディアの名の下に処罰します。罪状は身勝手に召喚の儀を行ったこと。わたくしの許しもなく神との交信を軽々に行ったことです」
次は個別の処理だ。
「神官長。そなたには地下牢での謹慎を命じます」
神官長は頽れた。
「食事は日に2回雑穀の粥を与えます。夜には牛の乳を添えるのがせめてもの温情です。日に1度監視の元牢から出て自らの汚物を処理すること。他の時間は己の所業を顧みなさい。期間は追って沙汰します」
連れてきた護衛に神官長の身柄を引き渡す。
「その他の11人は新たな沙汰があるまで最上階の反省房行きを命じます。日に2度の雑穀粥とパンを与えます。日に1度監視の元に裏庭に出て、自らの汚物を処理し沐浴するように。そして部屋の清掃用の水と自分の1日の飲用水を汲んで戻るように。部屋は常に清浄にたもちなさい」
神殿兵を呼び、11人を反省房へ送ると、わたくしは神殿の正常化にとりかかった。
上部の暴走のために下が、特に孤児院の子供達が飢えるのは絶対に許すことはできない。
わたくしの王女宮の予算がだいぶ余剰がある。これをあてれば秋の収穫祭まで賄えるだろう。
わたくしは忙しく計算しながら指示を飛ばし始めた。
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