第5話(5)11人の言い分と特徴〈メグミ〉
2番目に召喚されたメグミは落ち着いた雰囲気のシルヴァー・ブロンドに青い瞳の、一見おとなしやかな娘だった。
「一見」とは失礼なことを考えた自分を心の中で諫める。
シャイロ、先入観はいけないわ。自分の目で見て耳で聞いて判断しなさい。
メグミのドレスは鮮やかなブルーに白のリボンを飾ったもので、スカートはマリほど膨らんでいない。しかしこれもふんだんに中にパニエかアンダースカートを入れてふっくらしている。袖はこれも流行遅れのパフ・スリーブ。なんと三段構造。
この袖だけを見ると200年以上前の隣国の貴婦人に流行したもので、確かそれは袖の部分が外れたという。袖は外して付け替えたり、当時辺境の戦場へ赴く心を寄せた騎士に贈られたとか。
わたくしは無意識に「この袖の布と仕立ての対価はいかほどか」と計算していた。
いけないいけない。悪い癖だわ。
ただ、この袖も流行遅れだからお直しすると、布地が大分余って、おそらくショールかボレロは作れるだろう。付け襟もいいかもしれない。
このドレスは胸元が開きすぎて寒そうだもの。
これから秋を迎えるからお辛くなるだろう。
先ほどのマリの反応から少し学んだわたくしは、単刀直入な物言いを控えることにした。
「メグミ嬢、ご機嫌いかがでしょうか?ご不自由を訴えられた聞きましたが、どのようなものでしょうか?」
柔らかく微笑んで尋ねるとメグミはポカンと口をあけた。
メグミもマリと同じところから来たのだろうか?かの異界では年頃の娘がこんなにも間抜け面をするのかしら?この年頃の女ならば多少内心の感情を隠すのが常識でありマナーである我が国とは違いすぎる。
感情を表に出し過ぎると足元を掬われましてよ?
「メグミ嬢?まずはお楽になさって?」
わたくしはエイベルにお茶請けのタルトを並べさせてすすめる。
メグミにつけた侍女が薫り高い紅茶を淹れてくれようとしたが手で押し留め、メグミだけにすすめる。
この後何人にも会うのだ。その度にいただいていたら大変なことになる。
「さ、召し上がって?」
わたくしは少し意地悪な気分になっていた。
お茶の飲み方、菓子の食べ方で相手のマナーの程度をはかろうと思っている。
メグミはマリと違い、いきなりフォークを刺すことはしなかった。タルトをフォークで一口大に切ろうとした。そして手が滑り、フォークが皿に当たってガチャンと音を立てた。
緊張しているのかしら?それとも…
真っ赤になったメグミを見て、この娘は多少は礼儀を弁えているのだと安堵する。
「公式ではないのでお楽になさってください」
再び促せば俯いてなにやらポツリと呟いたが聞き取れなかった。
しばし逡巡したが、まずはドレスの話からすることにした。
「メグミ嬢、今お召になっているドレスですが」
途端にメグミが顔を上げて「待っていました」というような喜色を示す。
「同じようなデザインのドレスをお持ちですか?」
「ええ、私の髪には青が似合うと思うの。そうでしょ?」
あら、そういう話ではないのだけど。
「ええ、濃い青がとてもお似合いです」
わたくしは素直に褒めて続けた。
「でも流行のものではありませんし、普段に着るにはかなり重くて動きにくいと思います。よろしければおあずかりしてお直しを致しますので…」
メグミはバッと立ち上がり自分を抱きしめるような仕草をした。
ああ、お袖が邪魔そう…
「私のドレスを取り上げるの!?」
わたくし、つい目を瞬いてしまったわ。
「いえ、お直ししてお届けします。それでは人に会うこともできませんから」
「なぜ!?いやがらせなの!?そうね!!」
本日2人目のいやがらせの思い込み発言。2人目で慣れてしまったわ。わたくし、順応力は高いと自負してますの。
「いえ、厚意ですわ。流行遅れと申し上げましたでしょう?」
「りゅ!!」
りゅ?
「流行は私が作るわ!!それが王妃の努めですもの!!」
わたくしもできるのならば口をポカンと開けたくなった。致しませんが。淑女ですもの。
それはともかく、メグミは父と結婚したいのかしら?年が離れているけれどいいのかしら?いえ、わたくしはこんな義母はいやだわ。
「父はもう誰とも婚姻いたしませんよ?王妃の座は今後数十年は空席の予定です」
メグミはクワっと顔を上げてまくしたてた。
「誰が!!私はジウン様と!!」
「兄と?」
思わず問い返す。
「な、なんでもないわ」
そうよね。兄と関係しても王妃にはなれないもの。
「兄のジウンとどこかでお会いになりましたの?」
メグミは黙り込む。
「お会いになりたいのならば許可はできません」
「どうして!?いやがらせなの!?」
稀人の異界の流行語は「いやがらせ」でしょうか?
すでに2人目で面倒になったわたくし。もう事務的に話を進めることにした。
いうべきことは3点。
「今以上の待遇は当面認められません。今の待遇は一般的なものより遥かに厚遇なのです。どうかお聞き入れください」
「初対面の異性との面談は出来かねます。理由はあなたがはしたないと後ろ指を指されますし、お相手も面喰います。また面会の必要もありません」
「あなたを異界よりの稀人として出来得る限り優遇いたしますが、これ以上はできかねます。どうか学園入学に向けて勉学に励み、作法を身に着けてくださいませ。
学園入学は早くて来年の秋になります。
ご不便なことがあれば侍女を通して申し付けてくださいませ。快適に過ごされるよう助力いたします」
そう告げて、メグミの侍女たちにドレスの着替えと回収を指示し部屋を後にした。
次は少しはまともでありますようにと願いながら。
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