第3話(3)11人の処遇(最初の3日)
件の11人を迎えるに当たって用意した北奥の離宮は、庭園に囲まれた静かな場所だ。
今は亡き王太后が御隠れになるまで住まわれていたので、手入れはしていたものの人けがなくなって5年経つ。
懐かしきお祖母様。産褥で亡くなった母の代わりにわたくしを慈しみ導いてくださった。お隠れになった時、わたくしは12歳だったが今でも昨日のことのように優しいお手を覚えている。
北奥の離宮は静かであるし、王宮の中心から一番離れた場所にあるので、神殿で扱いかねた若い女性に適切な場所と思われた。
準備のための神殿への聞き取りは頭痛しかもたらさなかった。全く、問題の権化のような報告だったが、神殿の浮世離れした方々には手に余ったのかもしれないという一片の希望もあり、ある程度の優遇措置を以って受け入れようと思っていたのだ。
全員が王立学園への入学を希望しいるとのことなので、向上心はあるのだろうと思っていた。
そのための準備をこの北奥の離宮で行うつもりだった。
神殿からの報告では、この国の常識や初期教育、マナー、礼儀作法が白紙ということだったが、彼女達の要求を鑑みるとある程度の高い生活水準の下で育った方々のようだ。
ドレスの趣味は華美でありながら野暮ったいが、それはこの国の現在の流行をご存じではない故だろう。それもおいおいとお教えする。
それぞれの関係がよろしくないとのことなので、部屋は一人部屋を用意した。
ここの生活に慣れるまでの当面は侍女を2人つける。
まずはゆっくり休養していただきながら、基本的なことを身に着けていただこう。
出来得るならば、よろしきところに養女として遇してさしあげたい。
神殿で衣類をあつらえたので、全員のサイズは把握できた。それに基づき、生活に必要な衣類をこちらで用意した。
学園に入学するのは来年の秋になるので、1年近くの猶予がある。
もちろん公式な場に出る予定はないので、普段着のドレスを5着ずつ、肌着に夜着を数着ずつ、靴を2足ずつ。色は事前に伺った髪と瞳の色を参考に合わせた。
ここで驚いたのは11人のうち、3人の髪の色だった。
ホノカ嬢が淡い青、レイ嬢が紫、サヤカ嬢はピンクだった。
驚きだ。この世では有り得ない色なので、これも神による稀人所以なのだろうか。
さてお迎えに当たって最初から悪手だったのは、全員まとめてお話したことであった。
仲がよろしくないと聞いていたのに。
無礼打ちにしたくなった気持ちを押さえ、一旦侍女達に任せてしばらくは食事も部屋でとっていただくことにした。そこでの動向を聞いてから次の段階を考えた方がいいだろう。
しかし、初日から大混乱だった。
11人の娘達から苦情の嵐にわたくしは忙殺されることになった。侍女達はもっと大変だった。
わたくしは心の中で計算し、娘達への経費を削って侍女達の慰労手当をはじきだした。
苦労をかけます。
幸か不幸かよくわからないが、苦情の内容はほとんど同じだった。
食事と衣類と待遇への不満、学園にはいつ行けるのか、誰それと会いたい。
この3つが主な内容だ。
食事や衣類や待遇はそれなりに優遇したと思う。これ以上を求めるとなると高位で懐事情がかなり豊かなの貴族の晩餐並みか、国での上位の稼ぎのある有力豪商の秘密の愉しみ並みになってしまうので、希望に沿うことはできかねる。
話を聞く限り、よほど贅沢な生活をしていたのだろうことがうかがえる。しかしそれにしては態度ががさつである。
もちろん異界よりの稀人であるから、生活水準や状況が違うのだろう。
そこは我慢していただかなくてはならない。
学園は常識と初期教育と基本的な礼儀作法が追い付けば来年の秋の入学になる。
求められた面会相手はいずれも初対面の貴族男性であったので不可能だ。知りもしない異性といきなり面会はできない。
混乱と狂騒の3日が過ぎ、次女や離宮の使用人たちのげっそりした顔を見たわたくしは、彼らに申し訳なく思いながらも、一人一人に面談し説明するために重い腰を上げた。
今日1日で終わらせたいものだ。
それにしても11人!!
神殿の考えなしにも罰を与えたいが、今は11人のために神殿が悲鳴を上げるまで減った予算を放っておくことにとどめよう。
ああ、今日は憂鬱な公務だ。
公務になりますわよね?お父様?
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