第116話 割とミーハー
(……やっぱり、どう見ても女性冒険者の数が多いな)
あっさりとフォレストウルフを討伐することに成功した後も、特に苦戦するようなモンスターと遭遇することなく余裕を持って倒し、解体して帰還。
素材はギルドで売却し、懐が暖まったアストは速足でギルドから出て、適当に人が多い酒場へ入った。
(考えられる可能性は、女性冒険者の中に……ナツキさんレベルの強者と容姿を兼ね備えた人が現役冒険者として活動してる)
全体で見れば女性冒険者の数は少ないが、分母が少ないからといって、強者へと上り詰めるのに性別は関係無い。
(もしくは……この街を守ってる騎士団の中に、圧倒的な強さを持つ女性騎士か魔術師がいるかのどちらかだろうな)
なにも、戦闘職は冒険者だけではない。
職業が騎士であっても、そこで強者として登れるか否かに、性別は関係無い。
これまでの冒険者経験で、アストはどちらとも出会ったことがあった。
(とはいえ、ここまで戦闘職の女性が多いのは意外だな…………酒場の中で、性別が理由で喧嘩が起こらないところを見るに、男たちも女性たちの強さを認めてるみたいだな)
男尊女卑? 知るかそんなもん!!! 男の方が強いに決まってんだろ!!!! と、声高らかに宣言する者は決して少なくない。
だが、この街で活動する女性冒険者、騎士にそういった態度で接した者が返り討ちに合うといった光景は何度もあった。
(…………全員、ちゃんと強い。ミーハーな奴は……って言うか、戦闘職なんてミーハー的な理由でなるような…………いや、割とそういうものか)
戦闘職……つまり、モンスターや盗賊と戦って死ぬ可能性がある職業。
普通に考えればミーハー感情で就こうと思うものではないが、男の子であればドラゴンスレイヤーの称号を持つ騎士や冒険者に憧れることが多い。
女の子であっても、女性の数が多くない戦闘職の中で、男に負けない活躍をしている女性戦闘者に憧れの感情を抱くことはそこまで珍しいことではない。
(単なるミーハーじゃなく、しっかり目標に向かって努力出来るミーハーが多い……のかもしれないな)
そんな事を考えながら、黙々と一人で料理を食べるイシュド。
すると、不意に影が覆いかぶさってきた。
「よう!!!」
「? ………………あぁ、あんたか」
いきなり声を掛けてきた女性冒険者は、アストの知り合いではなかった。
だが、顔をよ~く見ると、クエストボードの前で依頼書を取ろうとした時に被った女性冒険者だと思い出す。
「そっちも仕事終わりでしょ。それなら、一緒に食べよう」
「それは構わないが、あんたのパーティーメンバーは良いのか?」
声を掛けてきた獣人族の女性は、三人の女性冒険者とパーティーを組んでいた。
「私は気にしないさ」
「同じくですわ」
「私も、同じ。冒険者として活動してれば、よくある」
「……それもそうか」
割合的に男性の方が多い冒険者社会。
そうなると、必然的に女性冒険者は男性冒険者と接する機会が多い。
「ぷは~~~~!! やっぱり仕事終わりのエールは最高!!! んで、あんたここ最近この街に来たでしょ」
「そうだけど、なんで分かったんだ?」
「そりゃ初めて見る顔出し、初めて嗅いだ強さだったから」
「…………俺、そんなに匂うか?」
前世が日本人だったアスト(錬)は入る余裕があれば大浴場でしっかりと汗を流していた。
「そういう訳じゃない。パーラは、そういうのが何となく解るんだ」
「スキルとかじゃなく、そういう嗅覚を持っているのか……凄いな」
「えっへっへ、自慢の鼻だよ。自分で言うのもあれだけど、これで何度か危機を脱せたからね」
相手の強さをある程度ではあるが見抜ける嗅覚は、人間だけではなくモンスター相手にも感じ取れる。
「そういうアストも……ソロで活動してるんでしょ。凄いじゃん」
「まぁ、数は多くないのは確かだな」
特別な嗅覚をしているパーラは、単純な嗅覚も優れており、意識すればアストに付いてる匂いの濃さに関しても多少把握出来る。
(多分、俺の体にパーティーで行動してると思えるほど同じ人間の匂いが付いてないんだろうな)
匂いでプライベート情報を探られたことに関して、アストは特に気味悪がる素振りを見せなかった。
アストにとって、ソロ活動は特に隠していることではない。
ただ、鑑定を使われれば喧嘩待ったなしである。
「それで……面白い感じに強い? って、普通じゃないよね。ここには、倒したいモンスターでもいるから来たの?」
「特に目的があった訳じゃない。ま…………俺は、旅の冒険者だからな。適当に移動して移動して、ここがしばらく活動するのに良さそうな街だと思ったんだ」
王都から移動した理由を話すのはめんどくさいと思い、適当にはぐらかした。
「今度は俺が質問したい。なんで、この街には女性の冒険者……戦闘職に就いてる女性が多いんだ?」
アストの質問に、パーラたちだけではなく、偶々質問内容が耳に入った冒険者たちも驚き過ぎて目が点になった。
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