第109話 先手必勝
「アスト」
「っ、ヴァレア……どうかしたか?」
冒険者ギルドから出てきたタイミングでヴァレアから声を掛けられたアスト。
「ちょっと話したいことがあって。けど、これから依頼かしら?」
「あぁ、そうだ。ちょっと討伐依頼にな」
「そう……なら、手伝うわ」
「っ!?」
突然の同行宣言に、ギョッとした表情を浮かべる。
「いや…………何故?」
「別に良いでしょ。これまでだって、何度も他の冒険者とは臨時でパーティーを組んできたのでしょ」
「それはそうだが……別に大した討伐依頼ではないぞ」
特にヴァレアの力を借りるような依頼ではない。
そう伝えるも、門の方へ移動するアストに付いていくる。
「別に構わないわよ。達成報酬も折半してなんて言わないわ」
「…………解ったよ」
ヴァレアが何を考えてるのか解らない。
ただ、アストとしては自身が泊っている宿に訪れず、冒険者ギルド内で声を掛けられなかった配慮は嬉しく……ひとまずヴァレアの同行を受け入れた。
「それで、話したい事というのは、何なんだ?」
「ふふ、これに関してよ」
そう言うと、ヴァレアは自慢げな表情で自身が帯刀している刀を見せた。
「………ベルダーさんに造ってもらったのか」
「そうよ!! 遂に、私専用の刀を造ってもらったの」
「つまり、今試し斬りがしたくてうずうずしてると」
「大雑把に言えば、そういうことね」
アストは自分とヴァレアが関わった経緯は勿論忘れておらず、自分の刀をベルダーに造ってもらったと報告する表情を見て……嬉しい、よりもホッと一安心という感情の方が大きかった。
「そうか、良かったな。しかし、烈風竜の素材を使用した刀だろ……並みのモンスターでは、切れ味の細かさが解らないと思うんだが」
「まずは感覚を知るだけでも良いのよ」
「……そうか。まぁ好きにしてくれ」
ヴァレアの力量をある程度知っているアストとしては、本当にそこら辺のモンスターでは斬るだけ無駄だと思っていた。
(試し斬り自体は大事だと思うが、試すなら……Cランクモンスターぐらいの相手じゃないと、感覚の良し悪しが今一つ解らないだろ)
直感ではあるものの、アストは自身のグリフォンの素材をメインに作られた同じ風属性の刀よりも切れ味が高いと感じた。
(まぁ、本当にそれでヴァレアが満足するなら良いか)
結局数日間、アストはヴァレアと共に行動。
アストは無事に目的のモンスターを討伐することに成功。
ヴァレアも運良くCランクモンスターと遭遇することができ、自分専用の刀の切れ味を確かめることが出来た。
「んじゃ」
「えぇ」
王都に帰って来た二人は共に冒険者ギルドには入らず、適当なところで別れ、アストはそのまま冒険者ギルドに入って依頼達成を報告。
サクッと手続きを済ませて報酬を手に入れた。
そろそろ次の目的地を探す……もしくは、特に目的地など決めずに出発しようと考えていたところで、ある同業者たちに声を掛けられた。
「待て」
「? ……俺に、何か用ですか?」
「あぁ、そうだ。お前が、アストというCランクの冒険者だろ」
「そうだが……あなた達四人はいったいどちら様でしょうか」
アストに声を掛けてきた冒険者の数は四人であり、年齢はアストに近い者たちばかり。
勿論のこと、アストは自分に声を掛けてきた同業者たちを全く知らない。
「俺たちはノヴァに所属している冒険者だ」
「ノヴァ…………あぁ~~、なるほど」
ノヴァというのは王都を拠点とするクランであり、ヴァレア・エルハールトや彼女の師匠であるナツキも所属している超大手クラン。
「ヴァレアは、仲間でありつつもライバルであるあなた達の時間を、自分の為に使いたくなかったらしい」
「っ!? い、いきなり何を」
「何って、それについて聞きたいんじゃないのか?」
これまでの冒険者人生から、目の前の同業者たちが何故いきなり初対面の自分に声を掛けて来たのかある程度把握出来る。
「関わった理由は、目的が被ってしまった……で合ってるか? とりあえずそんなところだ。その後色々あって、ヴァレアから報酬金を貰う代わりに頼みに付き合うことになった」
「「「「…………」」」」
「さっきも言ったが、あなた達を頼らなかった理由は、自分の為に時間を使わせたくなかったかららしい。ちゃんと報酬金が貰えるのに、お前がヴァレアと一緒に行動するなんて恐れ多いと思わないのか、断れよ……なんて無茶過ぎる文句は言わないでくれよ」
特に……今のところ、一応アストは目の前の同業者たちに対して不満や文句はない。
ただ、彼らの視線に殺気こそ籠っていないが、全員僅かな怒り……敵対心が籠っていた。
故に、アストは先に逃げ道を塞いでいく。
「今回の一件に関して文句があるなら、俺ではなくヴァレアに伝えてくれ。もしまだ俺に何か用があるって言うなら……ちゃんと周囲の状況を確認してから発言してくれ」
「ぐっ……」
現在アストたちがいる場所は酒場や料理店や個室ではない。
通行人の眼があり……傍から見れば、ノヴァに属する冒険者が他の同業者を囲もうとしている、と捉えられる可能性が十分にある。
それが解らないほど四人はボンクラではなく、折角探していた人物を発見して声を掛けられたにもかかわらず……自分たちの内側を見透かされ、本当に何も出来ずに立ち尽くすしかなかった。
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