第98話 からかい甲斐がない
「兄ちゃん、これは屋台……で良いんだよな?」
「えぇ、そうです。屋台バー、ミーティアです。いらっしゃいませ」
開店から約ニ十分後、二名の客が来店。
業種はアストの副業と同じく冒険者であり、年齢は二十代半ば。
「こちらがメニューになります」
「……マジでしっかりしてんだな」
メニュー表を受け取った客二人は驚きながらも、特に何かを疑うことなく適当にカクテルと料理を注文。
「店主はよぉ、もしかして冒険者もやってたりするか?」
「はい。こうして夜はバーを開き、昼から夕方にかけては冒険者として活動してます」
「若ぇのに随分とパワフル……いや、若ぇからパワフルなのか? そんならよ、店主もあれか、烈風竜を狙ってるのか?」
二人の客はアストとヴァレアが街に訪れるよりも前に烈風竜目当てで訪れており、今日初めてバーテンダーとしても活動している同業者と出会った。
「知人に誘われまして」
「へぇ~~~、そうか~~~~……これまた厳しいライバルが増えたもんだぜ。なぁ」
「そうだね。烈風竜の素材の価値を考えれば、当然と言えば当然だろうけど」
二人はアストが烈風竜に挑もうとしているという発言に対して、特にバカにする要は発言はしなかった。
アストという人間について、既に情報を持っている……という訳ではなく、アストの持つ雰囲気や体つきから並ではないと判断出来た。
「実は俺らも烈風竜を狙ってるんだよ。まっ、まだ遭遇すら出来てねぇんだけどな」
「中々姿を現さない個体、ということでしょうか」
「姿を現さないというよりも、姿を現した時には、既に殺されているといった方が正しいだろうね」
誇張……とは思えず、アストは一瞬だけお好み焼きを作る手が止まってしまった。
(強烈な刺突か、それとも斬撃か…………両方あると考えておいた方が良さそうだな)
アストとヴァレア、二人の戦闘スタイルを考えれば、防御して堪えるという選択肢は絶対に取れない。
営業フェイスを崩さないようにしながらも、アストはどうやって烈風竜を倒すべきかを考える。
「ドラゴン、というより狩りが得意な獣ですね」
「はっはっは!!!! いやぁ~~~、確かに店主の言う通りだな。遠くから狙われちゃあ、溜まったもんじゃねぇよな~~」
「お気持ち、良く解ります。それだけ速いという事は、逃げようとしても逃げられない可能性が高いという事ですからね」
アストと客二人は、冒険者であって騎士ではない。
騎士ですら、守らなければならない国民が背にいるといった状況でもなければ、一応撤退は選択肢の一つである。
「噂じゃあ、速度だけならAランクモンスター並みらしいぜ」
「速さはそれだけで武器ですからね……お待たせしました、お好み焼きです」
「ほっほ~~~。こいつがお好み焼きってやつか」
「熱いので注意してください」
「おぅよ!!!」
ちゃんと……ちゃんとアストは事前に忠告した。
にもかかわらず、せっかちな男は適度の冷まそうとはせず、速攻で一切れを口に放り込んだ。
「っ!!!!」
「どうぞ」
「~~~~~~っ!!! ぷは~~~~! あ、ありがとな、店主」
「いえいえ」
何となくこうなる未来が予想出来ていたアスト。
事前に氷が入っていたお冷を用意していた。
「直ぐに飲みこんじまったけど、こりゃ美味ぇな」
「そうなのかい? それじゃ、僕も一口」
そう言うと、優顔な冒険者はしっかり冷ましてからお好み焼きを食べ……満足気な表情を浮かべた。
「美味いね、店主」
「ありがとうございます」
「これだけ美味い料理を作れるなら、どこかの店にスカウトされたりするんじゃないのかい?」
「何度か、そういった話を提案されたことはあります。ただ、私は……冒険者と同じ様に、自由に店を開きたいので」
同じ冒険者である二人は、料理人や料理店のあれこれについては詳しく知らないが、なんとなくアストが言いたい事は解った。
「ふぅ~~~。しっかし、店主は……烈風竜の討伐に乗り気なのかい?」
「どうして、そう思いに?」
「なんつ~か、あんまり熱が感じられないからよ」
見た目通りの若造と侮りはせずとも、討伐に対する熱のなさには少し思うところがあった。
「発案は友人からなので、そう思われるかもしれませんね」
「……死ぬのが怖くない感じかな? それとも、もしかして……その友人って言うのは女性かい?」
「はい。今回一緒にパーティーを組んでる方は女性です」
「「…………」」
あっさりと「えぇ、その通りですよ」と答えられてしまい、二人としては面白みに欠ける反応である。
「店主は、そのパーティーメンバーに、友人にカッコつけたいって思いとかはねぇの?」
「ん~~~~……とても美しい方だとは思いますよ。ただ、冗談半分で手を出そうとすれば、絶対に後悔するはずなので」
「それは……立場がある的な女性、なのかい?」
「えぇ、そうです。お二人も冒険者として活動されてるなら、そういった話の一つや二つ、お聞きしたことはありませんか?」
「「………………ある」」
一つや二つどころではなく、アストより何年も上の先輩である二人は、確実に十以上は耳にしていた。
ちょっと素面に戻ってしまう話題になってしまったため、二人は勢い良くアストに重めのカクテルを頼み……約一時間後、千鳥足になりながら帰って行った。
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