第86話 個人的な礼
「店主。俺から、あなたに個人的な礼をしたい」
「個人的な礼、ですか」
「そうだ。あなたは自分の行動をあまり評価していない様だが、それでも勇気を出して得た結果であることに変わりはない」
アストが超謙虚であることを把握した上で、それでも自分はお前に礼がしたいのだと伝える。
そんなレブロの考えが解らないほどアストは鈍くなく、ピザに使う野菜を切りながら考え……そもそもな話、自分がコルバ鉱山に何をしに来たのかを思い出した。
「でしたら、樽一杯分の漆黒石を頂いても良いでしょうか」
「漆黒石か。分かった……しかし、一杯分で良いのか?」
「えぇ、樽一杯分で大丈夫です。ただ」
レブロに漆黒石を礼として渡す経緯を手紙に記してもらい、スルパーのギルドマスターのサインも頂きたいと頼んだ。
「では、明日の夕方までには手紙を届けよう」
「ありがとうございます」
必要な漆黒石が一気に手に入り、心の中でガッツポーズを取る。
その後、夕食も出来上がり、追加でカクテルを注文する二人は徐々にテンションが高くなっていき……互いの恥ずかしかった過去など、惜しむことなく話し始めた。
そんな光景を見て、アストはニコニコと笑顔を浮かべながら……二人の許容量ギリギリを見極め、切り上げさせた。
「アストさ~ん。お届け物ですよ~~」
「はい、ありがとうございます」
後日、レブロの宣言通り夕方前には樽一杯に入った漆黒石と、人肉大好きアイアンイーターの討伐をサポートしたからという内容証明書が到着。
「……さすがに明日から向かうか」
今回の採掘は、ただプライベートで訪れただけではなく、武器の購入を賭けた同業者との勝負。
その為、王都に到着してベルダーの店に到着するまで気は抜けない。
ただ……既に日が落ち始めており、今から街を出て出発するのはいくらなんでも危険過ぎる。
その日は仕事もせずぐっすり寝て休み、翌朝二度寝をグッと堪えて朝食を食べ、即出発。
「ぃよし! 走るぞ!!!!」
気合を入れてダッシュ。
猛ダッシュしたいところだが、ペース配分が考えられない程、焦りで埋め尽くされてはないかった。
そして王都に到着するまでの数日間……走って走って走って休憩して走って走って走って休憩してを繰り返し、同業者が聞けばバカだろとそうツッコみされる早さで王都に到着。
「ジースさん! ベルダーさん! いますか!!!」
王都に到着するや否や、通行人の邪魔にならない速さで歩き、ゴールにであるベルダーの店に着いた。
「あっ、アストさん。どうも……って、もしかしてその……も、もう親方が提示した条件を、クリアしたんですか?」
「はい。無事、条件をクリア出来ました」
店内に人がいないということもあり、アストはその場でグリフォンの素材の一部や樽一杯に入った漆黒石を取り出した。
「こ、こいつはグリフォンの魔石に、骨……ず、随分と綺麗な状態の翼……装飾は専門外ですけど、この状態なら非常に高く買い取られるかと。あれ、目玉はないんですか?」
「グリフォンを倒すときに、こう……結果として顔を潰してしまって」
「なるほど。随分ワイルドな倒し方ですね。それなら仕方ありませんが、何はともあれ、この勝負はアストさんの勝ちですね」
ベルダーが初めて色々と確認して勝敗が決まるのだが、ジースはまだ礼の小娘……ヴァレア・エルハールトが店に到着してないため、勝敗は決まったも同然だった。
「それにしても、とんでもない早さですね。何か特殊なマジックアイテムでも使用したんですか?」
「一応マジックアイテムは使いました。ただ、使ったのは体力強化と脚力強化のマジックアイテムだけです」
「それって……えっ、マジですか」
ジースは使用したマジックアイテムのラインナップを聞き、直ぐにもしやという考えが浮かんだ。
「はい、マジです」
そしてアストはその通りだと即答。
「…………その、アストさんはいったいどこまで移動したんですか?」
「コルバ鉱山があるスルパーに行きました」
「コルバ鉱山か。その間にBランクのモンスター、グリフォンを討伐した時間を入れて……ちなみに、グリフォンは何日で討伐されましたか?」
「頑張って一日で終わらせました」
「い、一日で、ですか」
最初からアストの事を、そこら辺の全く面白味もない冒険者とは一味違うと見抜いていたジース。
しかし、ベルダーが提示した条件をクリアした内容を聞く限り……自分の予想を大幅に超える大物だった事に驚きを隠せない。
「いやぁ~~~……なんと言いますか、お疲れ様です」
「どうも」
グリフォンを一日で討伐したが、ブレイブ・ブルを使ったとはいえ、アストは決してBランクモンスターを嘗めておらず、常に恐ろしさを抱いてる。
漆黒石に関しては結果として人肉大好きアイアンイーターの討伐サポートを行った事で間接的に樽一杯分を手に入れたが、あのまま採掘だけで手に入れようとしていれば……もう数日、五日以上掛かっていた可能性は十分にあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます