第70話 争奪戦?
「小僧が面白れぇ奴なのは解かった。けど、そっちの小娘にこの刀が買えるだけの金を貯める待ってやるって言ったのも事実だからなぁ……」
営業者としては、客との約束は守らなければならない。
しかし……生産者、職人の感覚的には、アストという小僧の方が面白いと感じてしまっていた。
(……黒髪ではない。ザ・金髪…………いや、でも金髪の美女が刀を持つのも……それはそれでギャップがあって良いかもしれないな)
その小僧であるアストは、全く関係無いことを考えていた。
「むっ……何なのですの」
「いや、失礼。じろじろ見過ぎた」
「…………」
やけに素直に謝られ、調子が狂う女性冒険者。
今……自分と彼は、ある商品を巡るライバル。
少なくとも小娘はそう思っているが、小僧の方からは全く焦りや執念の様なものを感じなかった。
「……そういえばあなた、刀以外にも買うらしいですわね」
「えっと、そうですね」
「なら、今回はこの刀を諦めてくれないかしら」
戦斧と刀、何故スタイルが異なる武器を一緒に購入しようとしているのか、あまり深くは尋ねない。
ただ、二つも買う必要はないのではないか……一つで十分ではないかと、交渉に移る。
(ん~~~~~~…………悩みどころ、だね)
アストが戦斧と刀を購入しようとしたのは、いざという時の切り札を手に入れる為。
その目的を考えれば、戦斧一つだけでも問題無いと言えば問題無い。
(……でもなぁ~~~~。なんと言うか…………やっぱり俺は日本人ってことか?)」
刀、という武器に対してロマンを感じる。
メイン武器として使うかは置いておき、それでもとりあえず欲しいという単純な欲があった。
「はっはっは!!!!! 小僧、その刀を随分と気に入ったみてぇだな!!」
「顔に出ていましたか」
「おぅよ。今にも涎垂らしそうな顔してたぜ」
「はっはっは、だらしない顔を見せて申し訳ない」
「別に構わねぇってことよ。そいつは俺が造った刀って訳じゃねぇが、客に商品をそんな眼で見られるのは悪くねぇ」
豪快に笑いながらも、ベルダーはこの場をどう収めようか悩む。
悩み、悩み……悩んだ結果、ある案を思い付いた。
「よし、お前らには争って貰おう」
「争う、ですか。つまり、俺と彼女がタイマンで戦う、と」
「ん~~~、それはそれでありなんだが、俺にとっても利がある争いにしようと思う」
ちょっと待てと……購入予定をしていたのは自分じゃないか!!! とツッコミたい小娘だが、目の前の鍛冶師が……彼女が所属している組織がどうこうしようと思っても、どうこう出来ない人物であることは把握していた。
故に、ベルダーが思い付いた案とやらを受け入れるしかなかった。
「お前らには、あるモンスターとある鉱石を取ってきてもらおうと思ってな」
「モンスターの素材と鉱石、ですか」
「そうだ。モンスターの方はBランクモンスターの素材。Bランクであれば、特に指定はしねぇ」
Bランク……小僧も小娘も若くして実力者と呼べる域に辿り着いているが、Bランクモンスターの討伐となれば、容易に……短時間でこなせるものではない。
「まっ、モンスターのランクによって差は生まれるかもしれねぇがな」
「ッ…………では、鉱石の方はいったい」
「ちっと、漆黒石の在庫が切れかかっててな。それの頼む。量は……そこの樽二個分だな」
ベルダーの弟子たちが造った武器が入れられている樽は、特別大きいわけではない。
どこにでもある樽だが……漆黒石はそれなりに珍しく、希少性がある鉱石。
こちらも容易に、短時間で手に入れられる物ではない。
「言っとくが、お前らがこれまで気付いてきた人脈を使うのは、基本的になしだ」
「っ!!! つまり、それは一人でベルダーさんが提示した素材を集めろ、と」
「早とちりするな。例えば親しい連中から借金してBランクモンスターの素材や漆黒石を買うってのはなし。親しい連中とそれらを取りに行くのもなしだ」
「……つまり、Bランクモンスターが出現するまでの道のりまで同行してもらうのはあり。そして現地では、現地で知り合った冒険者たちと共に行動してBランクモンスターを倒し、漆黒石を採掘して手に入れるのはあり……という事ですね」
「そういう事だ。良く解ってるじゃねぇか小僧。小娘、こいつの言う通りだ。これなら、不公平じゃねぇだろ」
「えぇ…………そうですね」
ベルダーから見て、小僧と小娘の戦闘力に、大きな差があるとは思えない。
しかし、小僧の方は初めて見る顔であり、頭の中に入っている有名どころの顔とも一致しない。
そのため……親しい同業者との連帯がありであれば、大きな差が生まれてしまうかと判断。
実際のところ、この判断がどちらの為になるのかは……神のみぞ知るといったところ。
小僧と小娘はベルダーの提案に乗り、早速その日から勝負が始まった。
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