第39話 正直になってしまう
「同じルーキーたちにとっては、元騎士という戦力は非常に頼もしいでしょう。歳の差によるギャップはあると思いますが、打ち解けるのにそこまで時間はかからないでしょう」
「……その口ぶりからすると、そっちもそっちでダメな原因があるんだな」
「…………ルーキーたちの多くは、あまり物事を深く考えません。失礼な事を言っている自覚はありますが、実体験ですので正直に言わせていただきます」
バカとアホ、考え無しが多い。
多いが……正真正銘のバカはそこまでいない。
だからこそ、多少考えられる頭を持つルーキーであれば、直ぐにその可能性に辿り着いてしまう。
「それでも、解る奴には解ってしまいます。フランツさんと固定でパーティーを組んで活躍しても……その功績はフランツさんのお陰なのではと、言われてしまうのではないかと」
「っ、そうか………………はぁ~~~~。冒険者になれたのが嬉しくて、そういう事にまで考えが回ってなかった」
フランツは平民出身ではあるが、これまでの人生経験もあって、決して馬鹿ではなく鈍くもない。
「そして、その、これに関しては予想外かもしれませんが、女性がいるパーティーに途中加入すると……その女性たちが、フランツさんに惚れてしまう可能性が高いかと」
「お、おぅ。そう、なのか? 自慢じゃないが、俺は元同僚たちと比べれば全然面は良くないと思うんだが」
はい、そうですね。とは言えない。
と言うよりも、アスト(錬)から見て……フランツの顔は整っていない部類だとは思っていない。
顔は大き過ぎず、目や鼻のバランスも悪くない。
確かにザ・イケメンと言えるほど顔面偏差値は高くないが、良い意味で安心出来る柔和な顔を持っている。
「これは同僚の女性、お客様として来店された女性たちから聞いた話なのですが、あまり顔が良過ぎても、それはそれで警戒するところがあるようです」
「あぁ……なるほど。それは解らなくもない考え、か」
同じく平民出身であった元同僚の騎士が、可愛らしい顔を持つ嬢にあれよこれよとむしり取られ、懐がすっからかんになった出来事を思い出し、苦笑いしながら納得。
「ん~~~、けどさ、店主。そういう恋ってのは、憧れが混じるもんじゃないか?」
「自分の恋心に正直になってしまう歳ですから、思いが爆発してしまう可能性は十分にあるかと。そして若ければ、パーティーを組んでいる女子に大なり小なり想いを持ってしまうのが男子です。そういった事情を考えれば……パーティーが分裂、壊滅する場合も十分にあり得ます」
「…………人生、上手くいかねぇもんだな」
フランツも騎士時代に現役冒険者から、恋愛関係がもつれた結果、パーティー内で大乱闘が始まってしまったという話が聞いたことがあるので「そんなバカな事起こるわけないじゃないでうすか~~~」と笑い飛ばせない。
「若い奴らともパーティーを組んでみたいって思いもあったけど、そっか。そういう眼に見えない問題が一杯あるんだな」
「……今自分が伝えた事は、あくまで自分の主観が入ってます。必ずしもそういった結末を迎えるとは限りません」
「慰めてくれありがとな、店主。でも……俺もそれなりに騎士として活動してきたんだ。冒険者が偶に零すあり得ないと思っている事が、実際には起こり得るって言葉を体験してきた」
騎士もモンスターや盗賊と戦う戦闘職。
他の職業よりも、予想してなかったイレギュラーに遭遇する可能性が高い職業である。
「………………色々と偉そうに語りましたが、私が伝えた内容は、冒険中に……戦闘に関わる内容ではありません。何か問題が起こってしまったとしても、それが死に繋がることはありません」
「考えようによっては、そう捉えられるか……なぁ、店主。全く関係無いんだが、今
幾つなんだ?」
「今年で十九ですが、まだ十八です」
「……マジ?」
「はい、マジです」
珍しいマジックアイテムを使用すれば、もしくはスキルを手に入れることが出来れば、若返ることが出来る。
実際に若返ることが出来なくとも、若返ったように見せることが出来るマジックアイテムは、そこまで値段は高くなく、珍しくない。
「そ、そっか。なんか、俺と同じぐらいか、もうちょい歳上かなって思えるぐらい考えがしっかりしてるつーか、言葉に重みが乗ってる様に感じてな…………店主が大丈夫だって言ってくれんのは、素直に嬉しいよ。でも、若い奴らに苦い思いをさせてしまうかもしれない。それが解ってると、な……」
冒険者としてはルーキーであっても、人間としてはベテランの領域に突入している。
大人として、色々と考え込んでしまうのは致し方ない。
元教師ということもあり、自分が原因で若い子たちを傷付けたくないという思いもあった。
そんなフランツの思いは理解出来る。
一応前世では成人しており、人生二周目ということもあって尚更理解出来るところがあった。
「…………フランツさん。あなたは、冒険者になったのですよね」
しかし、だからこそ……まだ伝えられる事があった。
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