第30話 楽しさを知ってるから

「いやぁ~~~、自分で提案しといてあれだが、よく走れるな!!」


ロルバが依頼を選んだ翌日、ロルバがリーダーのパーティーと共にアストは目的のエリアまで……走って移動していた。


「ガキの頃、嫌という程、体を動かして、いたからな。それに、今は体力を増加させるマジックアイテムも、装備している」


昼は冒険者、夜はバーテンダーとして働こうと決めてから、アストは出来る限りの事はしようと動きに動いた。


幼い頃から激しい筋トレを行うことは良くないという前世の知識の元、体が本当に

小さい頃は体力の増加だけをメインに動きまくった。


家族にも少々引かれてはいたが、前世の経験から時は本当に直ぐ流れてしまうと解っていた為、多少引かれようとも努力し続けた。


「……アスト、お前確かスピードを上げる、それなりに良いマジックアイテムも、持ってたよ、な」


「ん? あぁ、そうだな」


獅子の獣人であるガリアスは羨ましそうな目でアストが装備しているマジックアイテムに目を向けた。


「もしかして、他にもそれなりに良い、マジックアイテムを持ってる、のか?」


「そうだな。俺は、基本的にソロで、行動してる、からな。だから、購入したマジックアイテムは、全部自分の物、なんだ」


「それを聞いて、パーティーを抜けてぇとは思わないが、やっぱり超、羨ましいな」


基本的にソロで活動するという事は、それだけ危険に遭遇する可能性が高い。


やや脳筋なところがあるガリアスだが、それが解らない程バカではない。


「もしかして、夜のバーテンダー? の仕事が、結構儲かってるの、か?」


「そんな事は、ないぞ。儲かってるのは、冒険者業の、方だ」


材料を仕入れる値段がネットスーパーを使っているお陰で格安ではあるが、それでも懐に入ってくる利益は冒険者業の方が圧倒的に多い。


「ねぇ、ちょっと。そろそろ休憩に、しない」


「そうだな。結構進んだし、少し休憩しようか!!」


人族の女性僧侶、シーナの要望により、一旦休憩。

まだ昼前なのに目的のエリアまで半分を切っているれば、上出来である。


「はぁ~~~~。ねぇ、アスト。お願いしても良いかしら」


「構わないが……シーナ、お前たちなら温度を保存できる水筒ぐらい買えるんじゃないのか?」


疑問を零しながらも、コップに注がれた水を冷やすアスト。


「あぁ~~~~、体に染み渡る!!!!」


「だっはっは!!! シーナ、それ完全に酒呑んでる時のセリフだぜ!!」


「仕方ないでしょ!!!! 疲れた体に冷たい呑み物は染み渡るものなのよ!!!!」


「うむ、シーナの言う通りだ」


竜人族……の中では珍しい魔法使いのロクターも同意しながら冷やされた水を飲み干し、その美味さに体を震わせる。


「にしても、水を冷やすことが出来る。これだけで冒険者を引退しても稼ぎ口に困ることはないよね~」


「そうだな。冒険者を引退すれば、ゆっくりとバーの営業だけに集中出来る」


「……基本的にソロで活動しながら、Cランクまで上り詰めた。それを考えれば十分成功してるのに、本当に酔狂というか変人というか……冒険者の中でも変わってるよね~~」


「だろうな」


変人と呼ばれることには慣れており、自分が珍しい活動をしている自覚もあるため、特に反応することなくサンドイッチをほうばるアスト。


「けど、自分が好きな事だからな。美味いカクテル、料理を作って客に提供して、楽しくしゃべって……偶には悩みも聞いて。そういうのが楽しいんだよ」


「その職業の人にしか解らない楽しみってやつね」


「理解してくれてるようでなによりだ。まっ、ほら……あれだ。同じく盗賊やモンスターを倒して稼いでるのは騎士と同じでも、あいつらの騎士道精神を完全に理解するのは無理だろ」


「無理だな!!!」


「無理ね」


「ふむ……そうだな。俺には出来ない」


「俺は………………そうだな。理解出来ないところもある」


ガリアスとシーナは即答。

ロクターとロルバも、一部理解出来るところはあるが、理解出来ないところもある。


「……ん? ふと思ったんだがアスト、お前は将来結婚は考えてないのか?」


いつ死ぬか分からない冒険者が結婚を真剣に考えるのは珍しいが……それでも、意識しないことはない。


「お前は確か、他の同業者の迷惑にならないように、街から街に渡り歩いて活動してるのだろ」


「良く知ってるな、ロルバ。にしても結婚か……結婚………………まだ十八だからってのもあるけど、全く考えてないな」


「へぇ~~~、そうなの? この前、Dランクの女の子と歓楽街に消えてったて聞いたけど?」


「……女性の耳ってのは本当に恐ろしいな。けど、それもこれまでも一晩だけの関係だ。一回以上やったとしても、俺は特定の相手をつくらないって公言してるわけだしな」


「か~~~~、罪な男ね~~。後ろから刺されないように気を付けなさいよ~~」


「既に経験済みだ。刺しに来たのは女性じゃなくて男の方だけどな」


「えっ」


既に体験済みとは思わず、シーナだけではなく他三の表情も固まった。

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