第21話 一番読みやすい
(恋、ねぇ……真面目に向き合ったのって、何年前だ?)
タルダの恋愛相談に乗った後、もう三人の客がミーティアに訪れ、深夜前には閉店。
タルダも含めて全員金払いが良かったため、アスト的には儲けられた一日であった。
(転生してからは特にって感じ…………というか、意図的にそういう感情を避けてきたか。そうなると、転生前……どうだった?)
宿に戻る途中、前世の記憶を掘り返すが、中々恋愛に対して真面目に向き合った過去が思い出せない。
(……大学生の時は…………彼女は一応いたか。そんな長続きした記憶はないけど。付き合ったのも、なんか流れに身を任せてって感じだったしな……そうなると、高校の時か)
タルダの恋愛相談に乗っていると……時折、彼女のこういうところを好いているなどと、甘酸っぱい言葉を聞かされる。
アストとしては、そういった話も大好物なので、胸焼けすることはなかった。
(あの時はフラれたんだったよな。スマホで……電話で告白したんだったか? 今思うと、相当なエネルギーを使った気がするな)
久しぶりに思い返すと、フラれた後に電話を切り、スマホに思いっきり電話を投げ捨てたところまで思い出せた。
(……クソ苦い記憶だな。でも、そうか……真面目に生きてきた貴族だと、あまりそういう体験をしてる人は少なそうだな………………とはいえ、俺は伝えられることは伝えたはず。上手くいくかはタルダさん次第……あと、運次第か)
一日の付き合いとはいえ、応援したくなる。
後自分に出来る事は、上手くいってほしいと祈る事だけ……と思っていたら、数日後には再びミーティアに訪れた。
「やぁ」
「どうも。先日ぶりですね」
「そうだね。まず、ブルームーンを貰っても良いかな」
「かしこまりました」
タルダは先日、ブルームーン以外のカクテルも呑んでいたが、それでも一番美味いと感じたのはブルームーンであり、すっかりハマってしまっていた。
(客がお気に入りのカクテルを見つけてくれた……それは個人的に嬉しいんだが、ブルームーンか……うん、確かに美味しいよ。呑みやすいのにアルコールが決して軽くないところとか、色合いも好きだよ……でもなぁ)
ブルームーンのカクテル言葉、叶わぬ恋という言葉を知っているアストとしては、非常に嫌な何かが募っていっている気しかしない。
「ところで、マスターは高名な冒険者だったようだね」
「??? ……確かに朝から夕方にかけては冒険者として活動していますが、特に高名という訳ではありません。しがないソロの冒険者です」
「……言葉遣いも相まって、己の実力を過信しない貴族の様な謙虚さだ。ただ、あなたの事をそれなりに調べてみると……とてもしがないソロの冒険者とは思えない」
二十歳という年齢の中では、頭一つから二つ抜けた戦闘力を持つタルダは実力だけではなく、視る眼もそれなりのものを持っている。
初めてミーティアを訪れた時から、店主であるアストの事を普通のバーテンダーとは違うと感じ取っていた。
少し気になって調べてみると…………仕事の時間以外、殆どをアストについて調べてしまっていた。
「今は……まだ十八だったかな。冒険者になって三年という職歴の短さでありながら、Cランクに到達。Bランクモンスターの討伐に何度も関わっており、ダンジョンの攻略経験もある」
「……どちらも一人では行っていません。同業者たちの……仲間たちの助けがあっての功績です」
「そうなのかもしれない。ただ、それでもあなたはこうして冒険者、バーテンダーの二つを両立させて生活している異色の人物だ」
「…………」
スラディスからも変人スーパールーキーと呼ばれていた為、全く否定出来ない。
「そんなあなただからこそ、もう一度色々と尋ねたい」
「……自分が伝えられる内容であれば」
「ありがとう。っと、その前に何か頼まないとね」
友人同士ではなく、バーテンダーと客。
やはりカクテル一杯で長居は出来ない。
「お待たせしました」
「マスターは料理も一人前なんですね」
「カクテルの道もそうですが、料理の腕なんてまだまだ半人前ですよ」
「……専門外なので変に語れはしませんが、それでも確かな芯を感じます」
牛モンスターの肉をメインに使用した肉料理を一口食べ……心の中で少々大きめの声で「美味い!!!」と零すタルダ。
「ありがとうございます……本日の相談とは、両立に関してでしょうか」
「っ、お見通しでしたか」
「これまでの経験上、仕事と恋愛の狭間で揺れる方たちからの相談を何度も受けてきましたので」
仕事……または目標に向けて頑張りたい。
しかし、意中の人とも距離を詰めたい……または現在付き合い中の恋人とどう接すれば良いか。
アスト(錬)が聞き上手だったこともあり、プライベートも含めて何度も相談に乗ってきた。
だからこそ、アストからすれば流れ的にタルダが何を相談してくるのか、一番読みやすかった。
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