第17話 凱旋
「燃え上がりし豪槍よ、我が魔力を糧として滾れ、吼えろ」
「幾千のマテリアル、銀の杓子で舞い踊り、波紋を広げる」
噂の盗賊団に属する魔法使いが詠唱を始めたタイミングで、アストもこっそりと詠唱を始めた。
「潰せぇええええええええええええ!!!!!」
敵が始めた詠唱文に聞き覚えがあるスラディスは全力で潰すのだと仲間たちに指示を飛ばすが、盗賊たちも仲間の魔法使いの攻撃魔法が自分たちの生命線だと理解している為、そう簡単に魔法使いの元まで辿り着かせない。
「敵を、魔を貫く闘志を有し、金剛を仕留めろ」
「その輝きは星の数。今この瞬間にも、新たな星が生まれる」
盗賊たちの生命線である魔法使いは、敵である冒険者たちの中から、気になる魔力の増加が気になった。
もしや、敵も何かしらの攻撃魔法を発動しようとしてるのかもしれない。
だが……今更解からない何かに意識を割く余裕はなく、ただただ自身の最強の攻撃魔法を発動した。
「フレイムハザークランスッ!!!!!!!!!」
攻撃魔法にはランスという属性魔力を槍へと形状変化させた攻撃魔法が存在する。
ハザークランスはランスを強化したジャベリン……を、更に強化した槍の攻撃魔法。
狙いは冒険者たちのリーダーであるスラディス。
数で負けていようとも、トップを潰せば戦況は変る。
その考えは決して間違っておらず……少なくとも、Dランク冒険者たちの動揺を誘う事は出来た。
しかし…………フレイムハザークランスがスラディスに当たる前に……人影が間に入り込んだ。
「ッ!!!!! っと……なんでこんな良い攻撃魔法が使えんのに、盗賊なんてやってるんだか」
「っ!!!!!?????」
両手に不思議な魔力を纏いながら現れた男は片腕でフレイムハザークランスを受け止めた。
「ステア」
そしてもう片方の手に握られていた雷の槍と受け止めたフレイムハザークランスを……混ぜ合わせた。
盗賊たちはフレイムハザークランスを受け止められたとしても、この状況をどうにかしなければならない。
どうにかしなければ自分たちの命はないのだが……仲間の中で一番強い攻撃を放てる男の攻撃魔法が……片手で受け止められてしまった。
そんな目の前の光景が、どうしても受け入れられなかった。
「炎雷懐裂槍」
アストは放たれたフレイムハザークランスと自身が発動して待機させていたサンダーランスを混ぜ合わせ……新たな攻撃魔法を作り出した。
「……っ!!!! よけ……ろ、ぉ……」
魔法使いの男が仲間たちに指示を飛ばした時には……人数分に分割された炎雷懐裂槍が胸を貫いていた。
「ふぅーーーー、危なかった」
フレイムハザークランスを受け止めた腕には痺れが残っており、決して軽々と片手で受け止めていた訳ではなかった。
「す、すげぇなアスト!!!!!!」
「っ!!??」
思いっきりスラディスから肩を組まれ、思わず転びそうになるアスト。
落ち着いてくださいと言いたいところだが、スラディスはフレイムハザークランスを対処しても……肩の一部、もしくは片腕ぐらいやられてしまうと思っていた。
そんな危機から救ってくれた恩人を前に、落ち着けと言うのは少し無理な注文であった。
「なんだ今の!? マジで凄過ぎるぜ!!!!」
フレイムハザークランスを受け止めるだけではなく、それを利用して強化した攻撃魔法を放った。
色々とツッコミたいところはあるが、とにかく凄い……スラディスやマックスたちの感想はその一言に尽きる。
「どうも。ちょっとでしゃばってしまったかと思ったんですが」
「そんな事あるわけねぇだろ!! 腕一本ぐらい吹っ飛ぶかと思ってたからな」
笑い事ではないのだが、アストのお陰で吹き飛ばずに済んだので、彼にとってはもう笑い話であった。
「よし!! お前ら! 剥ぎ取れる物は全部剥ぎ取っちまえ!!!! こいつらが溜め込んでいた物も全部だ!!!!!」
スラディスの指示に、冒険者たちのテンションは爆上がり。
盗賊団の討伐の醍醐味と言えば、やはり彼らが身に付けていた武器や道具、溜め込んでいた物の回収。
それらは全て盗賊団を討伐した者たちの財産となる。
(……全員、無事みたいだな)
怪我を負った者たちは当然いる。
それでも腕や脚が消し飛んでもうどうにもならないといった重傷は負っておらず、死者はゼロだった。
「アスト……今回の討伐戦は、本当に良く働いてくれたな」
「スラディスさん…………俺は、ただ期待に応えられるように動いただけですよ」
「ふふ、謙虚な奴だぜ」
期待以上の働きをしてくれた優秀な後輩の頭をくしゃくしゃに撫でる。
少々痛いが、アストは悪くない気分だった。
「ぃよし、そんじゃあ帰るぞ!! 街に戻ったら凱旋だ!!!!」
盗賊団を全滅させることに成功し、死者を一人も出さなかった。
それなりの戦力を有する盗賊団とぶつかった結果を考えれば、上出来も上出来。
報告を聞いた冒険者ギルドは直ぐに宴会の準備を始めた。
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