第7話 読めてくれると助かる

「よろしくな、アスト」


「はい、よろしくお願いします」


そろそろ良い時期になり、アストは別の……まだ行ったことがない街へ向かおうと決めた。


アストは……一応ソロで街から街へ移動することが出来なくはないが、やはり他の冒険者たちと共に行動した方が、安全に移動できる。


今回、商人の護衛依頼を受け、同業者五人と共に行動する。


「その若さでCランクになったのだろう。羨ましい限りだ」


リーダーを務める男はマックス。

三十代前半の無精ひげを生やしているナイスガイ。


アストと同じくCランクの冒険者。

同じパーティーではなく、同ランクの冒険者が共に護衛依頼を受けるとなると、誰がリーダーとして行動するかモメることがある。


しかし、アストはマックスに自分がパーティーのリーダーを務めてもいいかと尋ねられた時、一切渋ることなく了承した。


「運が良かっただけですよ」


「はっはっは!!! その歳で謙虚さまで覚えてるとはな」


「「…………」」


偶々運が良かったと謙虚に答えるアストを褒めるマックス。


そのマックスに褒められる冒険者が二人。


二人は男女でパーティーを組んでいるDランク冒険者。

アストとあまり歳は変わらず、現時点でDランクの域に辿り着いている事を考えれば、十分優秀と言える。


だが、今回話は聞いていたが、アストと一緒に依頼を受けるのは初めてであるマックスは二人ではなくアストに強い興味を持っていた。


「だが、ソロで旅をしているとなると、危険が多いんじゃないか」


「そうですね。だから、今回みたいに街から街に移動する時は、こうして護衛依頼を受けるか、同じ街に移動する冒険者に声を掛けて一緒に移動することが多いです」


「そうか……パーティーを組んで行動しようとは思わないのか? おっと、勧誘ではないから安心してくれ」


十八歳でCランクに到達。

間違いなく優秀な冒険者。

勧誘は引く手あまたであるのは容易に想像出来る。


「俺は昼は冒険者として働いて、夜はバーテンダーとして働いてるので。そういった生活スタイルを考えると、あまり固定パーティーを組むことは出来ないので」


「そういえば、話では聞いていたが…………チラッと聞いたのだが、短い期間で別の街に移動するのも、バーテンダーとして活動を続けるため、だったか?」


「その通りです。上手く生きておこうと思うと、あまり一つの街で長く活動するのは得策ではないので」


「経営者ならではの悩み、という奴か」


マックスは経営者としての経験など一切ないが、それなりに冒険者として長く生きていると、他職業の苦労などもある程度解ってくる。


「なので、こうして街から街へ………この国を全て周ったら、次は他国に行ってみようかとも考えてます」


「他国へ、か……バーテンダーが本職らしいが、冒険者としての精神も並ではないみたいだな」


アストとしては他国の人たちも話、カクテルを提供したいという思いが一番なのだが……冒険者という過酷な職業に就いている者にとって、他国で活動しようとするのは、中々に勇気のいる決断なのだ。


そこからマックスだけではなく、パーティーを組んでいる他二人もアストに話しかけることが多く…………一応、無事に昼過ぎまで移動は続いた。


(っと、少しアストに話しかけすぎたな)


昼休憩時、マックスは今回の依頼を一緒に受けることとなったDランク冒険者の男女にも声をかけた。


「二人はいつから一緒に組んでるんだ? もしかして幼馴染ってやつか?」


「い、いや。そういう訳じゃないっす。偶々、地元から出てくる時期が被って」


「そうです。決して幼馴染とか、そういう関係じゃありません」


(はぁ~~~、良かった良かった。さすがCランクのベテラン冒険者さんだ。あぁやって空気を読んでくれるのは本当に嬉しい)


休憩時、泊まっていた宿の料理人に作ってもらったサンドイッチを食べるアストは、顔に出ない程度にホッとしていた。


アストは転生者、アストしか有していない特別なスキル。これらのお陰でスタートダッシュがとてつもなく速かった。


今は神童という称号が継続してはいないが、二十歳過ぎれば凡人……とはならず、エリートという立場は継続中。


そんなアストに興味を持つ冒険者多く、嫉妬しない超前向きな若い実力者たちが絡むことは珍しくなく……その若い実力者を尊敬するひよっこたちから嫉妬の目を向けられる、という状態は何度も経験している。


マックスの様にヘイト管理……ではないが、雰囲気を上手く調整しようと動いてくれる先輩冒険者もいるが、アストに対する興味が強過ぎて構っている人物に大量のヘイトが向けられていることに気付かない鈍感先輩もいた。


(今回の移動は、あまりギスギスせずに済みそうだな)


安心で小さな笑みがこぼれると同時に、マックスとパーティーを組んでいるエルフの女性が勢い良く立ち上がった。


「この声は……皆! ウェアウルフが来るわ!!!」


昼飯を食っていようがク〇をしている途中であろうが、モンスターという存在は関係無く襲い掛かってくる。


(食い終わってて良かった)


アストは冷静にロングソードを抜剣し、事前の打ち合わせ通りに遊撃として動き始めた。

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