第134話 王都へ行こう2 [SIDE リュカ]

「ひぃ……ひぃ……」


「はぁ……はぁ……」



 仲間の死体を運んでいる二人の体力が限界に近付いた頃、スタール伯爵領の端の町ファオルに到着した。

 ちなみに頭部はあとの二人が交代で運んでいる。

 ファオルの門の前まで来ると、並んでいた十人ほどの人達が悲鳴をあげながら道を空けた。



 同時に慌てて飛び出て来る門番達。

 まぁ、そうだろうな。

 盗賊達は全員血塗れで酷い恰好だし。



「そこの、止まれ!! その死体は何だ!?」



 領都や王都以外の門番は騎士ではなく兵士がほとんどのため、剣ではなく槍の穂先を向けながらジリジリと近付いて来た。



「こいつらは街道に出た盗賊だ。返り討ちにして連行した」



「何っ!? おい、応援とロープを持って来させろ!」



 一人がそう言うと、もう一人が門の方へと走って行った。

 残った一人が俺をジロジロ見ながら質問する。



「あんたは? 見たところ冒険者ではなさそうだが……」



「俺はヴァン……、いや、今は自由騎士と言ったところか。王都の騎士団に入るために向かっている途中だ」



「自由騎士……って、仕える相手を自分で選べるくらい実力がある人だけがなれるっていう自由騎士か? そんな風には見えないが」



「…………ふっ、見た目に惑わされているようじゃあ一人前とは言えないな」



 相手は明らかに俺より年上だが、大物ぶって答える。

 ジュスタンもだが、俺も一見細身に見えるせいでなめられる事が多い。

 しかし、脱いだら誰もが見惚れるような立派な筋肉をしているんだぞ。



「だが確かに斬り口を見ると凄腕なのはわかる……ウプッ」



 兵士は切断面を見て吐き気をもよおしたのか、片手で慌てて口元を押さえて目を逸らす。

 そうこうしている内に門の向こうから、四人の兵士がロープと担架を持って走って来るのが見えた。

 盗賊達は逃走経路を探そうとチラチラと周りを見ていたが、俺がわざとらしく剣の柄に手をかけると死体を地面に置いて座り込んだ。



 死体は担架に、残りの四人は縄で縛られて連行された。

 そして俺は事情聴取のために門番の詰所へ呼ばれ、聞かれた事に全て正直に話す。

 どうやらあいつらは懸賞金がかかっていた盗賊達だったらしく、金貨が十数枚入った袋を渡された。



「あの程度の盗賊に懸賞金だなんて、随分スタール伯爵領は羽振りがいいんだな?」



「いやいや、あいつら神出鬼没な上に、腕の方も立つせいで数ヶ月我々を悩ませていた盗賊なんですよ!」



 最初に槍を向けていた男は、俺がヴァンディエール侯爵領の騎士団で中隊長をしていたと知った途端に態度を変えた。

 俺の身分証はヴァンディエール侯爵直筆の裏書があるから、それだけで信用度はグンと上がるのだ。



「へぇ、じゃあ結構被害が出ていたのか?」



「はい、昨日も護衛をしていた冒険者だけでなく、雇い主の商人の家族……まだ八歳の子供まで大怪我をして今も生死の境を彷徨ってるとか……。ここだけの話、この町の神官は金に汚いというか、治癒院での治療が他の町よりうんと高いんですよ。そのせいで魔法での治癒が受けられずポーションで何とか命を繋いでいるとか」



 門番は苦々しい顔で声を潜めてそう語った。

 俺は手にしていた金貨入りの袋を机の上に戻す。



「こいつはその商人に渡してくれ。これだけあれば子供を高位神官に治癒してもらえるだろう?」



「え……そりゃあ金貨十五枚もあれば……。でもいいんですか?」



「ああ。別に懸賞金目当てだったわけでもなく、偶然絡まれただけだからな。それに子供が大怪我しているというなら使ってくれればいいさ」



「これが……騎士の高潔さというやつなんですね……! わかりました! お預かりします! あっ、きっと商人もお礼を言いたいと思うので一緒に行きませんか!?」



 何を勘違いしたのか、門番は妙にキラキラした目を俺に向けてきた。 

 俺はただ、本来手に入らなかった金だから被害者に使ってもらおうと思っただけなんだ。



「いや、もう外は暗くなっているから宿を探さないといけないしな」



「では部下におすすめの宿まで案内させますよ! 最近王都で流行り始めた料理を作っているとかで、人気の宿があるんです!」



「へぇ、それじゃあ案内を頼もうか」



「はい!」



 詰所を出た時には多少陽が長くなってきたとはいえ外は真っ暗で、案内がいなければ迷っていたかもしれない。

 幸いそのおすすめの宿屋の部屋が空いていたおかげで、王都で流行り始めた料理とやらを食べる事ができた。



 ちょうど食堂で隣の席の客が見た事もない肉料理を食べており、同じものを注文したら、それが評判の料理のひとつだったのだ。

 宿屋の一階にある食堂で作っているせいで、部屋のある廊下までこの匂いが充満していたから口がこの料理を求めたとも言う。



「はい、お待ちっ! 角兎ホーンラビットの唐揚げ定食、唐揚げ大盛りね!」



 熱々だと主張するような湯気が立ち昇るその肉料理に息を吹きかけ、軽く冷ましてして肉を口に放り込んで咀嚼すると、弾力のある肉から肉汁が溢れ出した。

 知っているようで知らない食感と味、なんだコレ!!



「もぐもぐ……ごっくん。さすが王都で流行るだけの事はある……! フー、フー……あむっ」



「お兄さん、唐揚げが気に入ったのかい? この唐揚げのレシピは王都のあの・・第三騎士団長が登録したものなんだよ! 信じられるかい!?」



 夢中になって食べていたら、宿屋の女将が話しかけてきた。



「えっ、第三騎士団長って……ジュスタン・ド・ヴァンディエールか!?」



「呼び捨てになんてしちゃダメだよ! 誰が聞いてるかわからないんだから! だけどそのヴァンディエール様さ! レシピを閲覧しに行った時に驚いて三回は見直しちまったよ!」



「へぇ……コレをジュスタンがねぇ……?」



 小さな俺の呟きは女将の耳に届く事はなく、今度は注意されずに済んだ。

 そういえばジュスタンがアレクセイ坊っちゃんとアンジェルお嬢様にお菓子を作ったとか言っていたメイドがいたけど、信じてなかったが本当だったのかもしれない。

 半信半疑のまま、俺は皿から唐揚げが無くなるまでフォークを止める事ができなかった。

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