3・ギルドへ

「おかしいナ……」


 ハナは散らかった家の中から外に出て首を傾げた。

 いつもなら、とっくにサクが家に帰ってくる時間だ。

 しかし今日は日が落ちても未だに帰って来ない。


「ん~……聞いてみるカ」


 ハナは家の傍にある木まで近づき、手を当てた。


「サクが今どこにいるか、みんなに聞いてくれなイ?」


〈仕方ガナイナ、少シ待テ…………〉


 ハナの頭の中で木が応える。

 しばし木が沈黙し……。


〈………………ナンダッテ!? オイ、大変ダ!〉


 木が慌てた様子で、ハナの頭の中で叫んだ。

 そのせいでハナは頭を抑えてしまう。


「――ッ! ど、どうしたノ!?」


「アイツ、もんすたー達ニ襲ワレテ怪我ヲシテ、動ケナクナッテルラシイゾ!〉


「えッ! 嘘ッ!? 大変!!」


 ハナが夜の森の中へ入ろうと、木から手を離そうとした。


〈待テ!!〉


 その瞬間、木がハナを制止する。


「どうして止めるノ!? 早く助けに行かないト!」


〈襲ッタもんすたーハ普通ジャナイ、トテモ狂暴ダ! シカモ群レデ行動シテイル! オ前ガ行ッタトコロデ殺サレルダケダ!〉


「なら、余計に助けに行かないとじゃなイ! ……でも、確かにウチは戦う事は出来ないシ……一体どうしたラ……あッ! そうダ!」


 ハナは走って家の中に入り、壁にかけてあったサクのマントを羽織りフードを深々と被った。

 そして、外に出てまた木に触れる。


〈ドウスルキダ?〉


「ウチ、ヒトの町に行ク」


〈何ダト!?〉


「昔のサクは、町にある冒険者ギルドって所で働いていたらしいノ。そこには強い人達がいっぱいいるらしいから、頼んでサクを助けてもらウ!」


〈シカシ……人間達ガ居ル場所ニ、オ前ガ行クノハ……〉


「大丈夫! おっきなマントとフードを深く被れば、見た目は人と変わらないってサクが言ってたシ! だからお願い、ウチをギルドへ連れて行ってくれる様にみんなに伝えてくれなイ?」


〈…………ワカッタ、マカセロ。気ヲ付ケテナ〉


「ありがとウ!」


 ハナは木から手を離し、冒険者ギルドのある王国に向かって駆け出した。



〈ココヲ真ッ直グ!〉


「ありがとウ!」


〈ガンバレ!〉


「うン!」


〈グーグー〉


「寝てないで起きテ!」


 色々な植物達がハナをルノシラ王国へ導く。

 そして、早朝に念願のルノシラ王国へとたどり着いた。


「……ここが……人間の住む町……すごい大きイ……」


 ハナは王国の大きさを目の当たりにして呆然とする。


「――ハッ! いけないいけない! 早くギルドに行かないト!」


 両手で自分の頬を叩き、王国の城下町へ入って行った。




〈ココガ冒険者ギルドダヨ〉


 道端に生えている雑草が終着点を示す。


「ありがとウ。……サク、待っててネ!」


 ハナは冒険者ギルドの扉を開けて中へと飛び込んだ。

 と同時に、冒険者達の波に飲まれてしまう。


「何!? 何!? 何なノ!?」


 丁度、掲示板に依頼が張り出された為に冒険者達が集まっていた。

 そこにハナが飛び込んでしまったのだ。


「ちょッ! 通しテ! 潰れル! このままじゃ潰れちゃウ!」


 その波の中をハナは必死にかき分ける。

 そして、苦労の末に人の波から出られた。


「――プハッ! 潰れるかと思っタ!」


「あはは、大丈夫ですか? この時間はある意味戦いですからね」


 その姿に受付カウンターの席に座っていたツバメがケラケラと笑った。


「見たところ、この辺りの方じゃないですよね? ギルドに依頼ですか?」


 ツバメの問いにハナはカウンターに両手をついて身を乗り出した。


「サクヲ! サクを助けて下さイ!」


「サク……さん? もしかして、蟻の虫人の……」


「そうでス!」


「やっぱり……その助けてとは、どういう事ですか?」


「サクがモンスターに襲われて怪我をして、森の中で動けなくなっちゃったみたいなんでス!」


 ツバメが声をあげて驚いた。


「えっ!? それは大変! わかりました、すぐに手配しますのでこの依頼書に記入をお願いします!」


 ツバメはハナに依頼書とペンを目の前に置いた。

 だが、ハナはそれを見て固まってしまった。


「? どうかしましたか?」


「……え~ト……すみませン……ウチ、字が書けないんでス……」


「あ、そうだったんですか。では、私が代筆いたしますね」


 ツバメは依頼書を手元へと持ってき、ペンを握った。


「内容はサクさんの救出……あなたのお名前は?」


「ハナでス」


「ハナっと……えと……報酬金なんですが……」


「ホウショウキン……?」


「はい、依頼が成功した時に支払われるお金の事です」


「オカネ……?」


「……」


 ハナの言動にツバメが怪訝な顔をした。

 そして、ハナの姿をジッと見つめる。


「……あウ」


 それに対して、ハナは顔をそむけてしまう。


「…………ん?」


 ツバメが何かに気付いた様子を見せ、席から立ち上がりカウンターの前まで出て来た。


「わかりました、報酬金については追々という事で……最終確認は別室で行うので、私の後について来て下さい」


「はイ、わかりましタ」


 ツバメはハナと一緒に2階へと上がり、空き部屋に入った。


「あ、しまった! 必要な書類を下に置きっぱなしだった! すぐに戻りますから、座って待っていてください!」


 そう言うとツバメが部屋から出て行った。

 ハナは置いてある椅子にちょこんと座った。


 しばらくして、ツバメが部屋に戻って来た。

 その横にはヒトリの姿があった。


「うう……どうしてボクがぁ~……」


「ぶつくさ言わない」


 2人はハナの正面に置いてある椅子に座った。


「さて、単刀直入に聞きます……あなたは植物系のモンスターですよね?」


「……えっ!?」


「――ッ!」


 ツバメの言葉にヒトリは驚き、ハナはビクリと体を震わせた。


「……な、何を言っているのカ……ウチにはさっぱリ……」


 ハナは誤魔化そうと声を出すが、動揺して明らかに声が震えている。


「誤魔化しても駄目。あなたは植物特有の青臭さが強すぎる……それに手の指は植物の根……そんな人、この世界にいないわ」


 ツバメの言葉にハナは少し出ていた自分の指をつい見てしまう。

 それと同時にサクの言葉を思い出た。

 ギルド関係者に若くして洞察力が半端なく、やり手の奴がいた……と。

 ハナは話していた人物がこの人だとすぐに分かった。


「さあ包み隠さず話して、サクさんの話も嘘なんですか?」


「嘘じゃないでス!! ……わかりましタ……お話しまス……」


 ハナはマントを脱ぎ、自分の姿を2人に見せた

 そしてマンドラゴラである事、どういう訳か体が大きくなった事、今はサクの家で世話になっている事を話した。


「……なるほどね……実に興味深い話だわ……」


「……信じテ……くれるのですカ……?」


「うん、ハナちゃんは嘘をつくのが苦手なのはすぐに分かったもの」


「……そ、そうなの……? ボクには全然わからないな……」


「横うるさい。よし、報酬の件なんだけど、ハナちゃんの身体を色々と調べさせてもらうというのはどうかしら? 無論、絶対に痛い事はしないから安心して」


「……それで、サクを助けてくれるのですカ?」


「もちろん!」


 ハナは少し考えてから口を開いた。


「……わかりましタ。お願いしまス!」


「交渉成立ね。じゃあヒトリ、必ずサクさんを救ってきなさいよ」


「…………うえっ!?」


 いきなり指名されたヒトリは驚きの声をあげ、慌てふためく。


「ちょっちょっと待ってぇ! 依頼を受けるなんて一言も言ってな――」


「はい、よろしくね」


 ツバメは笑顔で、ヒトリに依頼書を手渡した。


「いやだから……」


「……」


 黙って笑顔を浮かべるツバメ。

 その圧に負けたヒトリは依頼書を受け取る。


「……わ、わかったよぉ……何で、いつもこうなるのかなぁ」


 ヒトリは半泣きになりつつ、依頼書にサインを書き込んだ。

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