7・自分に出来る事

「よいしょっと……」


 アルヴィンは気絶している盗賊10人をロープで縛り、荷台へと乗せていた。

 盗賊達を近くにある騎士団の駐屯地まで運ぶ為だ。

 ヒトリはというと、残党がいるかどうかの確認の為に林の中へ入って行った。


「ふぅー、後5人か。にしても、あのスピードとパワー……彼女は一体何者なんだ?」


 パッと見は小柄でか弱そうな女性、だが一瞬で10人もの盗賊を倒してしまった。

 ツバメの言う通り、確かに実力はある。

 だが見た目とのギャップが違い過ぎて、アルヴィンはちょっとした不気味さも感じていた。


「うーん、気にはなるけど……あれこれ追及するのも良くないか」


 アルヴィンは深く考えるのをやめ、盗賊を乗せる作業を再開した。




 10人の盗賊を荷台に乗せ終わる頃、周辺が安全だと判断したヒトリが戻ってきた。

 そしてアルヴィンはある提案にヒトリは困惑した声を出した。


「……え? あっ……ほ、本当に大丈夫ですかぁ?」


 アルヴィンが提案したのは自分はカラを背負いキカイ村まで行き、ヒトリは盗賊達を騎士団の駐屯地へ運ぶというものだった。


「縛ってあるとはいえ、こいつ等を村まで連れて行くのはまずいだろ? 俺なら大丈夫、カラを背負ってギルドまで行ったし、盗賊ももういないしな。出来るだけ早く行きたいんだ、頼む」


「……んんん~…………わ、わかりましたぁ」


 少し考えたのちヒトリは御者台へと乗った。

 アルヴィンはカラを毛布から出して背負う。


「後、お互いどのくらい時間がかかるかわからないから、終わり次第それぞれギルドに戻るって事でいいか?」


「あっ……はい、それで大丈夫です。お、お気をつけて」


「ああ、そっちもな」


 ヒトリは馬車を走らせて来た道を戻って行った。


「よし、俺も行くか」


 アルヴィンはキカイ村に向かって歩き始めた。



 キカイ村についたアルヴィンは、とある建物の前にいた。


「ゴアゴ博士の研究所は、村についたらすぐにわかるって聞いていたけど……」


 キカイ村は木造の家がまばらに建ち並んでいる。

 その片隅に、明らかに村の風景から浮いている建物があった。

 まるでスライムの様にグニャグニャとした形をしており、窓の位置もバラバラ。

 どうやって建てたのか、なぜ建っていられるのか謎である。


「……絶対にここだよな」


 アルヴィンはカラを降ろし、扉をノックをした。


「すみませーん! 誰かいますか?」


『はいはぁ~い。ちょっと待って下さいねぇ~』


 建物の中からおっとりとした口調の女性の声がし、扉が開いた。


「どちら様ですかぁ?」


 建物の中から出てきたのは耳が長く尖っていて、白衣を着たエルフの女性だった。

 目は垂れ気味で黄色の瞳、紫色の髪を三つ編みにして右側から胸辺りまで垂れている。


「あ、えと……ゴアゴ博士はここに居ますか?」


「いますよぉ~ゴアゴちゃぁん、お客さんよぉ!」


 エルフの女性が奥に向かって呼びかけた。

 すると白衣を着た初老の男性が出てきた。

 男性はおでこがかなり広く、後頭部には白髪でモサモサした髪が特徴的なヒューマンだ。


「ケイアくん、いつもいつも博士と呼ぶように言っているじゃないか……まあいい、客は少年か」


 ゴアゴは黒い瞳でジッとアルヴィンを見つめる。


「な、なんだよ……」


 その視線にアルヴィンは少しだじろいた。


「うむ、よかろう。少年! こっちへ来たまえ!」


 ゴアゴはいきなりアルヴィンの右腕を掴んで引っ張り始めた。


「えっ!? ちょっと何を!」


「はいはい~こっちですよぉ」


 抵抗すると、ケイアがアルヴィンの背中を押し始めた。


「おいおい! 俺をどこに連れて行こうとするんだ!?」


 二人掛ではどうする事も出来ず、アルヴィンはある部屋の中に連れ込まれた。

 連れてこられた部屋の中には、大きな鉄の箱が置いてあった。

 その箱はボタンやレバーが付いており、上の部分は数多くのケーブルが飛び出ている。


「さあ! これを被るんだ!」


 アルヴィンは、箱から出ているケーブルと繋がった大きいサイズのヘルメットを無理やり被せられた。


「お、おい! 何だこれ!? つか俺はだな――」


「しゃべるでない! 今から少年の心の中を読み取って、ここに来た理由を当てて見せるぞ!」


 そう言うとゴアゴも同じ形をしたヘルメットをかぶった。


「……はあ?」


 アルヴィンが眉を顰め、ゴアゴは箱のスイッチを押した。

 すると箱がガタガタと揺れ出し、バチバチと電気の火花を散らせる。


「むむむむ………………来たぞ来たぞ……! ……なるほどなるほど……わかったぞ! 少年は新聞の勧誘の為に来たのだな!?」


「ちっげーよ!!」


 アルヴィンはヘルメットを外し、床に叩きつけた。


「なんとなんと! くそ……また失敗か……」


 アルヴィンの反応にゴアゴは肩を落とした。


「ゴアゴちゃん、どんまいよぉ」


 ケイアがゴアゴの頭をなでる。


「だからちゃん付は……はあ……もういい……」


「俺が来た理由は、これ!」


 アルヴィンはポケットの中からツバメの紹介状を取り出し、ゴアゴに渡した。


「ん? 手紙? ……どれどれ……おお、ツバメくんからか」


 手紙を広げ、中身を確認するゴアゴ。


「…………なるほどなるほど、カラくんが……よし、見てみようじゃないか」




 カラを研究所の中に入れ、個室のベッドの上に寝かせた。

 ゴアゴはメイド服を脱がし、頭の先からつま先までじっくりと観察する。


「ど、どうなんだ?」


「……ふむ……ツバメくんの読み通り、これは魔力切れだな」


「動ける様になるのか?」


「んー……なるにはなるが……」


 ゴアゴの眉間にしわがよった。


「?」


「これは実際に見た方が早いな」


 ゴアゴはカラの胸辺りに付いている魔石を掴み、少し引っ張り上げて回す。

 するとカチャリと音がし、魔石が引っ張り上げられた。


「なんだこれ? 鍵……か?」


 カラの体内に入っていた魔石の部分の先は加工され、鍵の様な形をしていた。


「これがカラくんを動かしている魔石だ。これとまったく同じ形の魔石を入れれば動く」


 ゴアゴの言葉にアルヴィンの顔が明るくなった。


「そうなのか! じゃあ早く作ってくれよ!」


「残念ながら、私には無理だ……この形を考えたのはイーグルスくんだが、加工したのはエリックというドワーフなんだ。魔石の加工は難しいから手慣れている……ん? どうした?」


 ゴアゴの言葉にアルヴィンが驚く。

 まさか、父親がカラと関わっていたとは。


「……エリックは……俺の親父だ」


「なんとなんと! なら話は早い、父親に頼めばよい」


「……親父に」


 アルヴィンは数多くの鉱石を加工をやって来た。

 しかし魔石は見極めが難しく、刃の入れ方を少しでも間違えるとすぐにヒビが入り割れてしまう。

 そうなってしまうとそこから魔力が漏れ出して、ただの石になってしまい使い物にならない。

 何度か挑戦はした事があるが、成功した事はほとんどない。

 しかも全く同じ形の鍵を作るとなると、エリックに頼んだ方がいいだろう……。


「…………いや、俺が作る!」


 だが、アルヴィンは自分で作る選択肢をとった。


「む? しかし……」


「俺にやらせてくれ! 魔石の加工なら何度もした事がある! 失敗の方が多いけど……けど! 俺の手で助けられるのなら助けたいんだ! 頼む!」


 アルヴィンの思いにゴアゴは頷いた。


「……わかった、なら君に任せよう! あと魔石の方は心配しなくてもいいぞ。ここには実験の為に作り出した人工魔石がたくさんあるからな!」


「っすまない!」


 カラを助ける為に、アルヴィンは魔石の加工作業に入った。




 魔石の加工作業は、やはり大変だった。

 何十個も失敗し、ようやくまともな物が1個出来た頃には日が落ち始めていた。


「たのむ……動いてくれよ」


 出来た物をカラの胸に差し込む。


「「「……」」」


 3人は固唾を飲んで見守る。


「……」


 しかし、カラは動かない。


「ああ……」

「駄目かぁ」

「……くそっ! まだだ!」


 落胆した2人とは違い、アルヴィンは諦めず新しい人工魔石に手を伸ばした。

 と、その時――。


「……ぼ……ちゃま……?」


 微かにカラの声が聞こえてきた。


「っ! カラ!?」


 3人がカラの傍へと寄る。

 するとカラは目を開き、辺りを見わたした。


「……坊ちゃま……ここは何処でしょう?」


「やったぞおお!」

「やったわねぇ!」


 ゴアゴとケイアが両手を挙げて喜び、アルヴィンはカラに抱き付いた。


「よかった……本当に良かった……!」


「?」


 事情がよくわからないカラは不思議そうな顔をしつつも、涙を流しているアルヴィンの頭を優しく撫でた。

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