【完結】ヒトリぼっちの陰キャなEランク冒険者
コル
第1章 王国騎士とEランク冒険者
1・奥の席の冒険者
人間、亜人、獣人、魔物といった様々な種族が生きる大陸『リトーレス』。
中央付近には、この大地を統べる国王デイヴィッド・ルノシラ六世が住む大きくて立派な城がたたずんでいる『ルノシラ王国』があった。
王国は城を中心に城下町が広がり、活気に満ち溢れていた。
そんな活気のある町中を頭から生えている猫耳を横に向け、尻尾をだらりと垂らしてトボトボと猫の獣人が一人で歩いていた。
彼女の名前はメレディス・ラフル。
黒色と灰色のツートンの肩まである髪、白銀の鎧、腰には王国騎士団の証であるグリフォンの紋章が入っている柄頭のロングソードを差している騎士の1人だ。
「はあ~……」
メレディスは手に持っていた紙の束を見つめつつため息をついた。
10歳の時に騎士を目指し早8年目、昨日念願の王国騎士団へと入団する事が出来た。
そして初任務はというと、王国で捌ききれない分の問題を依頼書にまとめ城下町内にある冒険者ギルドに届ける事とゴブリン退治だった。
「ゴブリンじゃなくて、ドラゴンみたいな狂暴なモンスターの退治をしたかったな~…………ハッ! 駄目駄目! 何を考えているんだ、アタシは! これも大切な任務じゃないか!」
メレディスは自分の頬を叩き気合を入れなおした。
「っと、ここが冒険者ギルドか」
メレディスは、ギルドと書かれた看板がかかっている木造の建物へと入った。
見わたすと内部は広くテーブルは8卓、イスはたくさんの数が無造作に置かれていた。
そのうちの1卓に男3人女2人のパーティーらしきグループが談笑し、別の1卓には年季の入った重装鎧を着こんだ中年の男が1人で酒を飲んでいた。
壁には大きな掲示板があり、いくつもの依頼書が張られている。
奥の方に受付のカウンターがあり受付嬢が1人、茶髪でくせっ毛の軽装な鉄の鎧を着た冒険者らしき男性がカウンターにもたれ掛かっていた。
「……思ったより人がいないな。まぁもう昼だし、ほとんどの冒険者は外へ行った感じかな」
メレディスは受付のカウンターへと向かうと、男性は受付嬢に対して話し掛けている様だった。
「なあーなあーツバメちゃーん。今からご飯に行こうぜー」
「この書類を仕上げないといけないのでムリです」
ツバメと呼ばれた受付嬢は、男性をまったく見ずに書類にペンを走らせている。
完全に話を流そうとしているのは目に見えてわかる状態だ。
「そんなの後からでもいいじゃん。美味しいスイーツの店見つけたんだよ」
それに気付いているのかいないのか、男性は食い下がっている。
後ろで見ていたメレディスは呆れかえっていた。
「まったく……おい、そこの茶髪のくせっ毛男」
メレディスが声をかけると男性が振り返った。
「茶髪のくせっ毛って、俺様の事か?」
「お前以外に誰がいるんだ? 依頼以外の話をしているのならさっさと退いてくれ、届け物があるんでな」
メレディスは手に持っていた依頼書の束を振ってアピールをした。
「いやいや、俺様は大事な話を――」
「あっ! はいはい! 依頼の確認させていただきますね」
ツバメは笑顔で椅子から立ち上がり、男性の話を遮った。
白い髪のボブカット、蒼色の瞳にくりくりした目の童顔が特徴的な受付嬢だ。
「ほら、アッシュさん。もう日も高いし、そろそろ出発した方がいいですよ」
「……わかったよ。じゃあまた今度な、ツバメちゃん」
アッシュと呼ばれた冒険者はギルドから出ていった。
「ふぅ~……助かりました。え~と、初めて来られた騎士さんですよね? 私はツバメ・クラウドといいます」
「メレディス・ラフルです、別にたいした事はしていないですよ。はい、これ王国の依頼書です」
「確認させていただきますね」
ツバメはメレディスから依頼書の束を受けとり、ペラペラとめくりながら1枚1枚目を通し始めた。
「モンスター討伐に……人探し……薬草採取……あ、また【影】の幹部の懸賞金が上がったんですね」
【影】。
金さえ払えば、盗みだろうが殺人だろうが犯罪に手を染める裏組織。
幹部にはコードネームが付けられておりキング、クイーン、ジャック、ジョーカーの4人。
犯行の際はメンバー全員が黒いマントを羽織り、フードを深々と被り両目の空いた真っ白な仮面をつけている。
お互いの素顔と素性は知らない為、捕まえたところで幹部どころか横にいたメンバーの情報すら手に入らない。
「ウチとしては本当に迷惑な組織ですよ……」
ツバメは口をとがらせて愚痴をこぼした。
冒険者ギルドからすれば、ある意味商売敵の様な存在だからだ。
「王国も何とかしようとはしているのですが、中々……。あと、この依頼についてなんですが……」
メレディスは別に分けてあった依頼書をツバメに手渡した。
「何でしょう? ……え~と…………ゴブリンの討伐ですか」
「はい、ゴブリンが出没しなかった地域に巣があるとの報告があり、調査と殲滅を言い渡されたのです。本当ならもう1人の騎士と一緒に行くはずだったのですが、昨日の訓練で負傷をしてしまい、冒険者ギルドで人手を依頼したいわけです」
「なるほど、しかもホブゴブリンがいる可能性もあるわけですか……人手は確かに欲しいですね」
「そういう事なので、あのテーブルにいるパーティーにこの依頼を頼んでもらっていいですか?」
メレディスが談笑している男女の席に目線を向けた。
「え? あ~……あのパーティーは昨日冒険者登録をした所なんですよ」
「昨日ですか、だとすると無理ですね……では、あそこの冒険者を……」
今度は中年の男性の方に目線を向けた。
「あの人は冒険者じゃなくて、ただの防具屋の親父さんです」
「……はあ!? 防具屋の親父!? なんでここに居るんですか!」
「ここ酒場も兼ねてますから、普通の方もおられますよ」
「あんな紛らわしい格好をしないでほしいよ、まったく。では、他に冒険者はいないのですか?」
「ん~他となると……あっそうだ、
そう言うとツバメは受付のカウンターの席を離れ、外側へと出てきた。
「1人……『が』いる?」
変な言い回しにメレディスは首を傾げた。
「こっちです」
どういう事だろうと思いつつ、メレディスはツバメの後について行った。
向かった先はギルド内の一番奥にある席。
日が全くあたらず、明かりは吊るされた蝋燭の火のみでかなり薄暗い。
「ニヒヒヒ……」
そんな人が寄りつかなそうな席に笑みを浮かべながら、布でナイフを磨いている1人の小柄な女性の姿があった。
目が隠れるほどの長い前髪に、腰位までの長さがある漆黒の髪。
さらにダブダブで真っ黒のローブを着ている姿がより一層、彼女とこの席の異質さを強調している。
「…………」
そんな光景を見たメレディスは、口を半開きにしその場に固まるのだった。
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