第47話


 ネロはケビンの目の前に立ち必死に傷付けず抑え込むことを考えていたが


 膨大な魔力で押し込んで来るケビンの姿に顔を歪ませた。


「俺達との模擬戦は手を抜いてたのかよ!」


と悪態をついた時だった。


「んにゃあ? そんな事は無いさ。殺す時と技術を高め合う時の戦術は変わるだろうさ?」


ある筈の無い返答に驚く。


「ケビン!正気に戻ったのか?」


「まぁ一応ねー」


 急に荒れ狂う魔力の波が消えたと思ったら何か空間全てが静かになった気がした。


「ふむ、良い感じに魔力が空間に割り込んでるな」


 俺は周りを見渡すと猿轡をされて腕や脚を失った貴族や首を切られた生徒を見る。

そしてケビンはもう1人のケビンの考察を記憶から引っ張り出し


「んー再生魔法まで行き着いて居るならなんでこの可能性に気付かないかな?雑学バカの癖にさぁ」


とブツブツ文句を言ってしまう。



「おっと、見られる訳には行かんな。『ショックボルト』」


「な!?ケビン?」


 怪我をしてる生徒や早々に投降した生徒全員を気絶させる。

但し、


「なぁネロ、これから起こる事は他言する事を禁止する。

誰にも話さないと誓えるか?」


「ん?あぁ大丈夫だ」


 ネロはケビンの後ろ姿をみてそう告げて瞬きをしたと思ったら目の前にケビンが居た。

その目を見て息を飲んだ。


「話した場合死んでもらう。ネロを残した理由はネロは確か立身出世を望んでいるんだよな?」


「あ、あぁ。育ての親や故郷の連中にいい思いをさせたい」


先程まで怯んでいたネロの目は覚悟の炎を灯していた。


「うん、記憶通りだな。だからお前には残って貰った。

ここに居る貴族生徒を見てみろ?」


ネロは貴族生徒達を見て気付いた、いや気付いてしまった。

少なからずケビンと接点のあるあの生徒が居ないと!


「ローズティア様を拉致したのかアイツら!」


「じゃあパパっと行くぞ?ほいっ!『分解』『抽出』『同化』『変化』」


「はぁぁぁぁぁぁ??」


ネロは驚いた、ケビンを襲って死んだ男達の体が1部消えたと思ったら四肢を失くした生徒達の体が光ったと思ったら失くした四肢が治ったのだ。


「ふむ?違和感ありそうだな。『同調』『ヒール』序《ついで》に『キュア』そして『クリーン』『サンクチュアリ』」


 怪我をしていた貴族生徒達がピカピカと何回も光ると呼吸の乱れが収まりすやすやと眠っていた。


 ネロが驚いている間にケビンはいつの間にか平民生徒達の横に居た。


「助けるのが遅くなってすまんな、『マジックボックス』体だけでも家族や友人に届けよう。

アモウ、モラナ、サラ、ラルク、そしてカマリありがとうな。

こんな俺と友達になってくれて」


 全員の死体を収納してケビンは貴族生徒達に水をぶっ掛けた。


「うへぇ」「何だ!?」「手が手が戻ってきた」「うわぁぁぁん」


「黙れ!!」


ケビンの一喝により場はシーンとなる。


「そこのお前とお前とお前、前に出て来てくれ」


指定された生徒が訳も分からず前に出てくる。


「よし、君はアーこの音を出して魔力を放出しながらね?

君はアー、この音ね、君はこの音、ネロはアーこの音よろしく」


 全員が魔力放出しながら声を出すと不思議な事に音が何倍にもなって聞こえる気がした。


「複合音声魔術『レクイエム』Ah~♪」


 ケビンがそう唱えると5人の体が光波の様な波動が部屋を包む。

 すると不思議な事に光の玉が5人の周りに集まりダンジョンの天井からスっと上に立ち上って行く。


最後に1つ、ネロとケビンの周りを飛ぶ光の玉があった。


「カマリありがとう。安心して。ソウちゃんの元へ、感謝されるさ」


そう優しく伝えると最後の光の玉も上に昇って行った。


「あれは魂だったのか?カマリの……」


 ネロは泣きそうになりながらもここ最近では1番ウマがあった友の旅立ちを見守った


「あぁ最後まで俺達の心配をしてたよ。

俺達はアイツの分まで楽しんで生きなきゃいけない

ダンジョンに吸収される前に彼らには輪廻の輪に乗って欲しかったんだ」


 そう天井を見る俺はふぅと息を吐いて次に行う事への決意を固めた。


そう、治癒魔法師志望の連中に視線を向けて、そちらに近付いて行くと


「素晴らしいです!ケビン様こそ「黙れ」いや黙りません。

魔物を身に纏わせる事自体は許される事では無いですが

それでも四肢欠損の復元をした功績が……グフッ」


興奮した様な口調のコレットに魔力の爪を伸ばし貫いた。


「黙れと言ったのが分からなかったのか?コレット。

お前、俺は知識を好きにしていいとは言ったさ。

でも教えた人を秘密にしろと言ったよな?

治したい人も嘘だったか……」


魔力の爪で胸を貫かれたコレットは血を口から吹き出しながら笑い始めた。


「ふふふふ、治したいのは魔物を身にまとって喜ぶ頭のおかしな連中の事よ!

治癒魔法では治らないけどねハハッ」


俺はその姿を見て怖気が背中に走り諦めた。


「狂信者め。もういい死ね『フレア』」


 残っていた治癒魔法師志望5人全員を俺は溶岩の様なネバネバとした炎で跡形も無く消滅させた。


 後ろで『ひぃぃ人殺し』とか『ころされるぅぅ』とか悲鳴が上がったが知らん。

そしてもう1人の俺よ傷付くなよ……知識に善も悪も無いだろうよ?


 殺される人がいる場所で治しもせずにしかもそれが当たり前と見てたんだから。

知識を与えたのはお前であり俺だぞ責任は取らないとな。


俺は振り返りネロを見る。


「よし!ネロ行くぞ!令嬢を助けに。

ちなみに俺は功績は要らんからな!」


「出たよ……まぁその代わり多少の手助けはくれよ?」


「あ、お前らここに結界張ってるから居ても良いし帰っても良いぞ?」


そう伝えて俺達は5階層の更に下に続く階段をネロと降りて行くのだった。

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