第14話 悪役令嬢っぽく
翌朝、私はサラを伴って食堂の厨房へ乗り込んだ。
入った瞬間に、そこで働いている人間の動きが止まって私をじろじろと見た。
誰の目にも侯爵夫人だとは分かったようだった。
「奥様、何のご用でしょうか」
年老いた女が話しかけてきた。
制服もきちんとアイロンがかかっているし、清潔なエプロンを着用している。
「あなたは?」
「私は侍女頭のセレンと申します」
「ああそう」
とだけ言って私はセレンを押しのけて鍋や食材を見て歩いた。
「ここは奥様がいらっしゃる場所ではございません」
なおも話しかけてくるセレンに、
「私の事は気にしないでくださる? 私ね、お腹が空いてるの。昨日からこちらではサラが必死の思いで入れてくれたお茶一杯しかお腹に入ってませんの。あなた方は私に食事を提供する気がないのでしょう? それなら自分でなんとかしますから結構よ?」
と言った。
セレンの顔色が変わって唇を噛んだ。
そして、火の前に立っている料理人を見つけたのでそちらへ行った。
「そこの湯を使いたいのだけど、あなたに頭を下げなければならないの? その湯はあなたのお給金で買ったものなの? ならあなたに所有権がありますけど、そうじゃないなら、誰が使ってもいいと思いますけど、どうかしら」
若い料理人は焦ったような顔で身体を退いた。
「クラリス、クラリス」
と私はクラリスを呼んだ。
「は、はい」
とクラリスがキョロキョロと回りに助けを求めるような視線をしながらこちらへきた。
「あなたもそうだけど、私の為に何もしたくないのであればはそれで構いません。あなたはどなたかのお世話で忙しいようですのでそれをなさればいいわ。侯爵様には私の世話をするのがここの皆様はお嫌のようですから新たに料理人と気の付くメイドを雇ってくださいとお願いいたしますから」
自分が酷く意地悪なような気がしたが、昨日、サラに頭を下げさせたここの連中には腹が立っていた。
「奥様」
とそこへやってきた中年の男。
きちんとした礼服のような格好をしている。
セレナを始め、皆がほっとした様子からして、家令のレイモンドだろう。
「あなたは?」
「レイモンド・ガーナーと申します。侯爵家の家政を任されております」
レイモンドは丁寧にそう言った。
「そう、私はリリアン。大聖堂で侯爵様と結婚し、リリアン・ウエールズとなった者ですけど、あなた方がそれを認めたくないならそれはそれで構いません、新たに良く気がつくメイドと料理人を雇うというお話しをせていただいてましたの。それで、あなたのご用は何かしら?」
「お、奥様、このような寒い場所でお話しも何ですから。すぐに暖かいお茶と朝食を用意しいたします」
「あら、夕べは暖炉に火も入れてもらえなくてもっと寒い部屋で一晩凍えましたわ」
「申し訳ございません」
レイモンドは礼儀正しく頭を下げた。
「立話もなんですから、あちらでお茶でもいただける?」
私はそう言ってから厨房から出ようとそちらへ方向を変えたが、その隙に料理人とクラリスが視線を交わしたのを見た。
やる気ならばこちらもとことんやらねば。
私はもう一度振り返ってレイモンドに聞いた。
「あの若い料理人は何という名前なの?」
「トムと申します」
「そう、覚えておくわ」
私はトムとクラリスの方に視線をやってから、厨房を出た。
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