第9話 1人の部屋

一人の帰り道。今日あったことを思い出しながら歩く。


ふわっと、白い髪の青年が浮かぶ。


「貴方はだれ」


知らない人のはずなのに、なぜかあの人のことが気になって仕方がない。

こんなことはじめてだ。


「もしかして、これが一目惚れってやつなのかな?」


私はまだ恋をしらないから、いまいち実感がわかない。

(またいつか会えるかな・・・)

そんなことを考えながら帰路についた。夕飯時、私は一人分の夕食を作ったつもりだったのに、盛り付けてみると、一人分あまる。


最近いつもこうなのだ。


「ああ、またやっちゃった。もったいないから明日の朝ご飯にしよう」


私は最近一人分の空白をかかえて生活している。

何をするにしても、どこに行くにしても

だれもいない隣のだれかを意識している。


寝床に潜り込んだ時は特に、ずっと一人で寝てきたというのに、足りない。寂しい。


横を向いて目を閉じる。

うとうととし始めると、手を伸ばして何かをつかもうとして、そこには何もなくてはっと目をさます。


その繰り返し。


一人は寂しい。


空白の貴方は?


さびしくないの?夜眠りにつく。

ふわふわと私の体は白い光の中にいて、次第に体が小さくなっていく。


やがて少女になった私は坂道を駆け上がり、山に向かって走って行く、

足下を見ると裸足だった。


やがて参道にたどり着くと石の鳥居を見上げた。

チラリと朝顔が咲いているのがみえたから。

私はそうっと手を伸ばす。


もうちょっと、あと少しで手が届く。


そう思った途端世界が暗転する。


「きてはいけない」


闇のおくから悲しそうな声が響く


「わたしあなたにあいたいの」


「いけないよ、君は光のなかでかがやいて」


「わたしもうおとなだよ。くらくてもこわくないよ」


暗闇の中に進もうとかけだした途端、目が覚めた。

またあの夢だ。


私は1ヶ月前に駅前で倒れていたところを通りすがりの人に助けられて、しばらく検査入院をしていた。


体に異常はないのに、ここ数ヶ月の記憶が曖昧だったから

担当医が念のためにと検査入院を勧めてくれたのだ。


駅前で意識がもどってから、私はよくこの夢をみるのだ。


「闇の中にいたあの人、寂しそうだった。」


その人のことを思うとぎゅっと胸が締め付けられる。


「貴方にあいたい」


そうつぶやいて口元を手で覆う。


「変なの、あったこともない人に会いたいだなんて。」


覆った手に涙がぱたぱた落ちた。

私泣いている。

どうして。

わからない。

でも、会いたくて苦しい。

知らない貴方に。

会いたい。

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