祝福

 2033年1月25日――【ライブオンライン】プロトタイプテスト開始前日。


「うぉぉぉおおお! 蒼空そら、見たか? 触ったか? 嗅いだか? 入ったか?」


 興奮状態の虎太郎が俺の席に飛び込んできた。


「見た、見た。んで、触ったし、入った。……嗅いではいないな」


 虎太郎をココまで熱く興奮させているのは、昨日届いたライブオンラインをプレイするための端末だった。


 端末の名称は『ノア』。従来のゲーム機やPCとは一線を画しており、形は日焼けマシーンや酸素カプセルのように全身がすっぽりと入るタイプだった。


「やっぱりライオンは噂通り……VRMMOみたいだな」

「コントローラーが付いていないから、どうやって操作するのか不明だが……VRMMOだろうな」

「すげーよな! めちゃめちゃ興奮するよな!」


 虎太郎は全身で歓びを露わにする。


「まぁ、楽しみだわな。しっかし、あんな機械を100万人に貸与するって……運営はやっぱり国家なのか?」

「まぁ、細かいことはいいじゃねーか。有名なタレントとかアイドルも多数参加するんだろ? こんだけ話題になってて今更、詐欺はないって!」

「詐欺とかは思ってねーよ。ここまで来たら、楽しむつもりだ」

「お! イイね! くぅぅうう、明日の学校休みにならねーかな」

「なったら、最高だな」


 俺は虎太郎の欲望につられ笑みを浮かべた。


「それはそうと、公式サイト見たか?」

「ん? 『祝福ギフト』のことか?」

「何かライオン独自のオリジナル要素らしいが……意味がよくわかんなくね?」


 『祝福ギフト』とは、昨日急遽公式サイトに公開された、ライブオンラインの目玉システムだった。


「んーと……『この世界を代表する皆さまに、自由に楽しくライブできるお手伝いとして『祝福ギフト』をご用意致しました』って書いてあるな」


 俺はスマートフォンで公式サイトを見ながら、掲載されている文章をそのまま口に出した。


「その文章も意味不明だけど、その後の説明も意味不明じゃね?」

「えーっと、なになに……『『祝福ギフト』は個々人のパーソナルに応じて、まったく異なる効果を発揮します。例えば、投げたあとに必ず戻ってくる【グングニル】のような武具、或いは空を飛ぶことすら可能だった【スレイプニル】のような軍馬、はたまた味方に勝利を約束する己が才……など、様々な『祝福ギフトをご用意しております』 ……って、これ元ネタは全部オーディンか?」


 俺は先程と同様に公式サイトに記載されている文章をそのまま口にする。


「なーんか、回りくどい説明だよな」

「まぁ、要はキャラクターごとに装備品か軍馬……んー、ペットか? 後は、パッシブだか成長補正のスキルのいずれかが付与されるってことじゃないのか?」

「なのか……? んで、その後に書いてある文章だと……その『祝福ギフト』って言うのは、キャラクターの成長とは別枠でレベルとランクがあるっぽいな」

「そうなると、武具の場合は成長する武具になるのか? ソレはソレで楽しそうだな」


 成長するユニークアイテム、もしくはペットかスキルか。魅力的なシステムだ。


「選べるのか? 選べるよな?」


 虎太郎が鬼気迫る勢いで俺に問いかけてくる。


「知らんがな。でも、『個々人のパーソナルに応じて』とか書いてあるから、選ぶというより……心理テストみたいな質問形式とか、チュートリアルの動きで判断とか、そんか感じじゃないか?」

「ほぉ……。そうなると情報が出揃うまで待ったほうがいいのか?」

「んー、よっぽど気に入らなかったらキャラクター作り直せばいいんじゃね?」

「まぁ、なるようになるだろ!」


 泣いても笑ってもライブオンラインのβテストは明日スタート! 事前情報があまりにも少なく、イメージもシミュレーションも出来ないのは悔やまれるが、ワクワクする期待感は最高潮にたかまるのであった。



  ◆



 2133年1月26日――【ライブオンライン】プロトタイプテスト開始日。


 本日は特別な日ではあるが、生憎の平日で学校は平常運転だ。やけにソワソワと落ち着かない様子の同級生が多く見られる。彼らは俺と同じくライブオンラインのプロトテストに当選者たちだろうか。


 緊張感にも似た変な空気が漂う授業を終えると、虎太郎が俺の席に走り込んできた。


「蒼空! 8時にログインするだろ?」

「その予定だ」

「んじゃ、向こうで待ち合わせだな! 名前はいつもと同じだろ?」

「あぁ、いつも通りカタカナで『アオイ』だな」

「こっちもいつも通りカタカナで『トラ』な。んで、待ち合わせ場所はどうするよ?」

「場所と言われても……向こうの地名とか地図は一切不明だからなぁ……9時になっても合流出来なかったら、一回ログアウトして直接連絡とかでいいんじゃね」

「了解! 9時だな! くぅーっ! まじで楽しみだな!」

「だな!」


 高揚する気持ちのまま、虎太郎と謎のハイタッチを交わし、俺たちは帰路に着くのであった。

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