ぼくテデ私小説

山本貫太

はじめに、ここは読まなくて良い

私小説が嫌いだ。他人の陰気な自分語りに興味はない。しかし、今、私小説あるいはエッセイを書こうとしている。我ながら矛盾しているが、読みたいと書きたいは違うのだから、許してほしいし、許されなくても書くつもりだ。


自分語りをするにあたって、悩んだのは一人称。友人らの前では「おれ」、日記等では「私」、初対面や目上の人に対しては「ぼく」、そして頭の中では自分のことを「テデ」と呼んでいる。テデ、はたぶん漢字で書くのならば「手で」だ。自我もあやふやな頃、視界に映る自分の手こそ自分の本体だと思っていた。そのためか母曰く「テデはね」と自分のことを話していたらしい。その名残が頭の中にだけある。


今回、私小説あるいはエッセイを書くにあたって「ぼく」「テデ」「私」の三つを採用した。こうしないことには書き出せなかったし、書きたいとも思えなかった。きっと「ぼく」で語った話が「テデ」では嘘に、「私」では正反対になることもあるだろう。


どこが私小説なんだ、エッセイ・ノンフィクションなんだ、と怒られそうだけれど、本当のことを書くためにはこうする他なかった。わかってくれとは言わない。


どうか、わからないまま読み通しておくれ、というのが「ぼく」「テデ」「私」、共通の願いだ。

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