現実世界ではただのモブだった俺が、変態さとドMさがステータスになる世界で最強になってドMスキルで無双します。

ゆきだるま

第1話

 俺の名前は柴羅檸泰造(しばられ、たいぞう)、18歳のドM系受験生だ。


 俺は今、街を歩いている。


 どこに目的地があるわけでもないし、暇を持て余しているわけでもない。これは俺が今やっているのは”ドM散歩”という活動だ。


『ドM散歩』

 通行人を観察してドSそうな人を探し、その人を観察しながらドMシチュの妄想をする活動のこと。


「くそっ、なんて寂しい男なんだ」


 今、だだっ広いネットの海の中で立ち止まって俺の話を訊いてくれてるイカしたハートを持ったそこのアンタはそんなことを思うかもしれない。


 だが心配は御無用だ。アンタ達が思っているよりも、ドMは幸せだ。蔑まれても、見下されても、要求されても、見捨てられても、それらの負のエネルギーは全て股間と大脳基底核に注がれ全てを快感に変えてくれるのだ。


 そして俺は学校で、自分がドMであることを公言している。


 え? なぜそんな危険なことをするのかって? 


 そりゃあアンタ、それが危険だからに決まっている。


 俺と違ってまともで健全な性癖を持つアンタ達なら俺よりも上手く、それがどういう結果を生むか想像できると思う。ドン引かれたり、陰口言われたり、見下されたり、侮蔑の視線を向けられたり、罵倒されたりすることをな。


 もしも学校や会社でそんなことになれば、”普通のやつなら”社会的な死をいみするのだろう。


 ふっ、しかし勘のいい奴ならもう気づいているんじゃないのか?


 それがすべて、”ドMが歓喜する”シチュエーションだということに。


 もしもそういった態度を女性からされれば、前頭葉がフルボッキシンドローム待ったなしに違いない。


 その状況への期待感を考えると、それを公言するという愚行をドーパミンがどうしても辞めさせてくれないのだ。


 ——そう、これは仕方のないことなのだ。


 まあ、実際のところ学校の女子が全員俺と目すら合わせなくなっただけでご褒美的なシチュエーションなんかまだ一回も味わってないんだがな。悲しい。


 おっと、無知なアンタ達に講釈垂れてる間に観察対象にふさわしい姉さん(Sっぽい女性のことを俺は敬意をこめて姉さんと呼んでいる)を発見だ。


 今、俺の前方3m先を歩いている姉さんのスペックを説明させてくれ。


 彼女の身長はだいたい170cmで体型はグラマラス。そのスタイルには自信を持っているようで身体にピッタリと張り付いた黒いミニのワンピースを着ている。


 その短い裾からのぞく太ももからは、「どうせこれを見た男は全員欲情しはするけどわたしほどのいい女に声を掛ける勇気はなくその記憶を脳の重要な部分に保存して帰宅後それで寂しく己自信をしごいて果てるのでしょう?」とでも言いたげな圧倒的な美のオーラが発せられているのがたまらない。


 もしもこの圧倒的姉さんが俺と関わることがあれば、俺は圧倒的に見下されるのだろうと思う。


「ねえキミ、ちょっとそこにある私の鞄取ってくれるかしら」


 とか奴隷階級に言うみたいな視線で言われて、言われた通り俺はその鞄を手に取ると中がチラリと見えてしまう。


 そして、鞄の中には大量のSMグッズが入ってて思わず俺は目を見開いて固まってしまう。


 当然、その様子からSMグッズ見てしまったことは姉さんにバレてしまう。


「あれ? 誰が中を見てもいいって言ったの?」


「あ、いや、その、わざとじゃな……」


 とテンパる俺を見た姉さんは口元をいやらしくニヤリと歪めてから、


「そう、鞄の口が開いてしまったのね? ならどうしてキミは、私の鞄の中が見えそうになったときに目を潰さなかったの? キミのくだらない身体の一部が私のプライバシーより大切だとでも思ったの?」


 なんて人権も倫理観も全てふっとばした言葉を放出される。


「そ、それは」


 なんと答えていいかわからず吃る俺を見た姉さんは満足そうに、


「まあ、いいわ、特別に許してあげる、ついでに、私の前でしこしこすることも許してあげるよ?」


 なんてことをとても嬉しそうに言ってくる。


 それを受けた俺は着たいと困惑の入り交じった表情で、


「え? しこしこ?」


 なんてすっとぼけた問い返しをする。すると姉さんはそのまま自虐的な目付きで視線をグイッとあわせながら、


「そう、しこしこだよ。とはいっても、キミのキモい部分、……とはいってもキミにキモくない部分なんてないんだけど、その特にキモい部分なんか見たくないから背中向けてやってね」


 なんて要求を一息に伝えてくるのだ。


 そのあまりの傲慢さに俺は心の奥の柔らかい部分を刺激されたように感じて、人目もはばからず姉さんに背を向けて、ズボンのチャックを開け放つ。


「ねえ。何か言う事はないの?」


 自慰を始めようとする俺に姉さんは問う。


「え、……っと、何かって?」


 本当はどういうことを問われているのかわかっているが俺はそう問い返す。これから言わされる言葉をはっきりと、姉さんの口から命じられたいからだ。


「……わかるでしょ? ねえ? 私にそう言われて、どう感じてるの?」


 あくまでも曖昧にしか答えない姉さんに、俺は、


「と、……とっても、嬉しいです!」

 

 我慢できず、少し声を荒らげながらチャックの中に手を突っ込む。


「あらあら、せっかちさんだね。でも嬉しいじゃよくわからないよ? 嬉しいだったらおまんじゅうもらった時も同じだよね? 私の前で気持ち行ことするのはおまんじゅうと同じなのかな? それとも頭がすごく悪いのかな?」


 なんて罵倒はもう俺の脳には届いてなくて、脳はもう、ただ、右手を規則的に動かす命令を下すための装置となり、膨れ上がった快楽はついに頂天に達し、


「いくぅううううーーーーーー!」


 プアァーーーーーーーーーー!


 心身共に絶頂に達しかけたその時、突然鳴り響く爆音のクラクションによってドMでドリーミングな世界から一気に現実へと引き戻される。


「ーーーーなんだ?」


 音の方へ視線を向けると、めっちゃデカいトラックがめっちゃ速いスピードで交差点内をこちらへ向かってきている。どうやら俺は妄想に夢中になりすぎて赤信号を突破して交差点内へと突入してしまっていたらしい。


 そんなことを考えている間もトラックは絶対にブレーキの間に合わないスピードでこちらへと突っ込んでくる。恐怖に硬直した身体はそこから飛び退くことさえ許さず、俺にできるのは、視線をわずかに動かし、トラックの運転席を見ることだけだった。


 運転席には金髪ロングヘアーのヤンキーあがりっぽい姉さんが顔を驚きと恐怖にこわばらせている。


 歳は20代後半といったところか。ああ、あんな気の強そうな姉さんに罵られてみたかった。


 廃ビルを占拠したヤンキーのアジト的なところに軟禁されて、暴力と言葉を使って、自虐的に笑いながらスマホカメラをヤンキー姉さん達の前で俺は自慰をさせらイクーーーーーっ!


 妄想の途中、俺の意識は強烈な衝撃とともに強引に連れ去られ、そのまま俺は物理的に、……イッた。


 

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