誰と誰が真実の愛に目覚めたって?

水鳥楓椛

第1話

▫︎◇▫︎


「オリヴァー・スチュアート!わたくし、真実の愛に目覚めてしまいましたの!!よって今この瞬間をもって、婚約を破棄させていただきますわ」


 ドリルを描く美しい太陽の巻き髪に、釣り上がった真っ赤な瞳。

 大輪の赤薔薇のようなドレスを身に纏った、この国の第1王女にして王太子であるスカーレット・ロベロンの言葉に、秋の収穫を祝う舞踏会の最終日を楽しんでいた貴族たちは、涼しげな仮面を被ることも忘れて唖然とした。


「………それは、陛下もご存じのことなのですか?」


 ふるふると身体を震わせる、ミルクティーブラウンの癖っ毛に若葉色の瞳を持つ柔和な美青年である公爵令息オリヴァー・スチュアートは、じっとスカーレットの表情を見つめる。


「えぇ!昨日、わたくしはとある殿方と運命の出会いを果たしましたわ。白銀のさらさらと靡くまっすぐなお髪、宝石の王さまであるダイヤモンドすらも嫉妬してしまいそうなぐらいに美しく輝く、切れ長のアメジストの瞳。………どれをとっても美しい殿方に、暴漢に襲われそうになったところを助けていただいたのです。これを運命と、真実の愛と呼ばずしてなんと呼ぶのです!!」


 うっとりと頬に手を当てたスカーレットは、その青年が流れるような動きで剣を扱い、相手に一切の怪我を負わせることなく全ての暴漢をやっつけてしまった情景を思い出し、ほうっと吐息をこぼす。


「あぁ、わたくしの愛おしいお方。ルカ・シャーリーさま………、」


 貴族たちは唖然としていた顔から表情を落とし、口をポカーンと開け放った。


 ———隣国の皇太子殿下の婚約者の“ご令嬢”に恋するバカがどこにいるッ!!


 おそらくこの会場にいる全ての人間が思っているはずだ。


「誰と誰が真実の愛に目覚めたって?」


 チェロの演奏のように軽やかで美しい声が、パーティー会場にはっきりと響く。


 柔らかな黒髪を丁寧に撫で付け、銀刺繍が美しい軍服を身に纏った青年隣国の皇太子ライノルト・グレンは、青筋を立てた顔で海のようなサファイアの瞳を細めてにっこりと微笑んだ。


 そして、その腕にはほっそりとした美女の腕が優しく絡まっている。


 後毛さえも計算され尽くされたかのように完璧にアップヘアのシニヨンにされた美しい銀髪、ダイヤモンドすらも嫉妬していしまいそうなほどに美しく輝くアメジストの瞳。

 儚げで中性的な美貌を持つ美女は、首から手首の先までを覆う黒いレースと鮮やかな青が特徴的なマーメイドラインのドレスを捌きながら、近寄り難い印象を与える、気高い表情を浮かべていた。


「ロベロン王国第1王女スカーレット・ロベロン殿、もう1度誰が誰との真実の愛に目覚めたか言ってもらっても良いだろうか?」


 興奮気味で周囲の状況が全くもって見えていないスカーレットは気づかない。

 目の前に佇む美女こそが、自らが真実の愛に目覚めた相手であることも、周囲の貴族が『やめてくれ!!』と言わんばかりに、首を全力で、もげそうなぐらいに激しく横に振り続けていることも。


「えぇ!何度でもおっしゃって差し上げますわ、愚鈍さん。わたくし、スカーレット・ロベロンは、麗しの騎士ルカ・シャーリーさまと真実の愛に目覚めましたわ!!」


 溺愛・熱愛されていると有名なご令嬢に、真実の愛を目覚めさせてしまったという繰り返されてしまったスカーレットの言葉に、貴族たちは膝から崩れ落ちた。


「ふーん、そっか。ねえ、シャーリー。こいつずーっと変なこと言ってるけど、君、俺という存在がありながら、こんなバカと真実の愛に目覚めたわけ?」


 全ての空気が凍りそうなぐらいに冷たい空気を纏うライノルト・グレンに、シャーリーは微笑む。


「何のご冗談を。私がこんな阿婆擦れを好きになる?バカも休み休みに言ってくださいまし、グレン」

「あはっ、そうだよね?」


 にっこりと微笑み、冷たい表情をスカーレットへと向けたグレンは、ででーんっ、とご自慢の大きな胸を張っている彼女へと冷徹な裁きを落とす。


「スカーレット殿。我が国は貴殿に抗議をさせてもらおう」

「は?」


 グレンの言葉に怪訝そうな顔をしたスカーレットは、不機嫌な声を上げた。


「まず初めに、我が婚約者ルカ・シャーリーに横恋慕した件について。

 2つ目に、隣国である我がライノルト帝国の皇太子たる私を“愚鈍”と呼んだ件について。

 そして最後に、先程から我らに向けて殺気を放っている件についてだ」


 1つ1つ指を立てながら丁寧に言ったグレンに対して、スカーレットは眉を顰めた。


「何を言っているのか、全くもってわかりませんわ。そもそも、あなた男色ですの?後継ぎを残さなければならぬ身で男同士で婚姻を結ぶなど、万死に値いたしますわ」

「………君、馬鹿を通り越して阿呆だね」


 グレンが顎を前に出した瞬間、グレンの隣に佇んでいた銀髪の美女がゆっくりと前に歩み出る。


「………昨日ぶりですね、スカーレット殿下」


 凛と澄み切っている声に、スカーレットの表情が華やぐ。


「そのお声、ルカさまですわね!!」


 きらきらと表情を輝かせたスカーレットに、ルカ・シャーリーは美しく微笑む。


「公の場では初めてお会いいたしますので、改めてご挨拶させていただきます」


 すっと右足を引き、重心をゆっくりと下げたシャーリーは薄いくちびるに芯の強い声を乗せる。


「ルカ・シャーリー、いいえ、こちら風ではシャーリー・ルカですね。ライノルト帝国伯爵家が長女シャーリー・ルカと申します」


 しっかりと挨拶をしたシャーリーを褒めるように、グレンが彼女の背中を撫でる。


「ということで、シャーリーは歴とした女性。君こそ、後継ぎを設けなければいけない立場で同性と真実の愛に目覚めるってどうなの?」


 唖然としているスカーレットに冷たい視線を向けたグレンは、ふっとくちびるの端を上げる。


「まあ、俺とシャーリーは真実の愛で結ばれているから、とは何があろうとも結ばれないんだけどね」


 にっこり笑ったグレンに顎をくいっと上げられたシャーリーは、ふっと勝ち誇ったような表情を浮かべ、ほっぺたや耳を真っ赤に染め上げながら、なんてことないことのように、当たり前のことであるかのように、彼からの熱烈すぎるキスを受け入れる。


 数十秒にも及ぶ熱々のキスに当てられた貴族子女たちは、ふらっと床に崩れ落ちる。

 唖然としているスカーレットに妖艶な微笑みを向けたシャーリーは、すっと瞳を冷たく細める。


「———私は彼以外を愛さない。私の真実の愛を勝手に騙らないで」


 彼の首筋にキスを落としたシャーリーは、ひらりと踵を返す。


「こんな場所にいたら頭がおかしくなるわ。行きましょう、グレン」

「あぁ」


 傲慢に頷いたグレンにエスコートされながら、シャーリーは「ふんっ」と鼻を鳴らす。


「ご機嫌よう、スカーレット殿下。もう永遠に出会わないことを願っているわ」


 気高く去っていくシャーリーの背中を、膝から崩れ落ちたスカーレットは呆然と見守っていた。


 その後、スカーレットは元婚約者のオリヴァーに縋りついていたらしいが、オリヴァーは全くもって相手にしていなかったらしい———。


▫︎◇▫︎


「びぎゃあああああぁぁぁぁぁぁああああああ!!」


 婚約破棄から僅か数分後、とある応接室では悲痛でいて悲惨な悲鳴が上がっていた。


「あんなの聞いてない!!聞いてないってばッ!!」


 先程まで妖艶でいて高潔な美女であったシャーリーが、がむしゃらに叫びながらグレンの胸をぽかぽかと殴っていたのだ。


「あはっ、かーわいー」

「『かーわいー』っ、じゃないっ!!どーしてあんな、あんな恥ずかしいことッ!!」


 顔どころか肩まで真っ赤に染め上げ、アメジストの瞳にいっぱいの涙を溜めたシャーリーは、ぐずぐずと泣きじゃくる。彼女の脳内を支配しているのは、先程交わした熱い、熱い、熱すぎるキッス。


「あははっ、さっき会場にいた人たちが今の泣き虫シャーリーを見ても、絶対に伯爵令嬢ルカ・シャーリーに結びつけられないだろうなぁ」

「だ・れ・の!せいでこんな目に遭っていると!?」


 泣きながらも威勢よく睨みつけたシャーリー、けれど、次の瞬間にはその表情を崩されることになってしまった。


「あはっ、俺のせいだね。でもよかったぁ。………みんなの前でシャーリーがこんな姿を晒しちゃったら、シャーリーにいーっぱい、“お仕置き”をしないといけないところだったよ」

「ひぃっ!!」


 にっこりと真っ黒な笑みを浮かべたグレンに、シャーリーは短い悲鳴を上げる。


「まあ、『氷華』と名高い君が本当は弱虫の恥ずかしがり屋なんて、だーれも信じないだろうけど」

「うぅー………、」


 ぐずぐずと泣いている相手にも容赦がないグレンは、どかっとソファーに腰掛けている。ちなみに、シャーリーの居場所は彼のお膝の上。

 頭を撫でられながら額にキスを落とされているというとんでもない状況に、とっても大混乱なシャーリーは、もうわけもわからなく泣いている。


「あぁー可愛い。国だったらいっつも誰かに邪魔されるからここまで可愛がれないし………、やっぱり外遊って最高だね、シャーリー」


 心底嬉しそうに微笑むグレンに、シャーリーは本格的にギャン泣きし始めた。


「………もぅ、いっしょうっ、ひっく、いきちゃく、なぃっ、」

「あちゃー、可愛がりすぎた?」

「いや、虐め過ぎたの間違いだろ………、」


 部屋にひっそり入ってきてツッコミを入れたのは、ミルクティーブラウンの髪に若葉色の瞳を持つ、優しい美貌の青年オリヴァーだった。

 そして、その隣にはスカーレットにそっくりな顔立ちと髪型ながら、彼女と色違いの深い青色のドレスを身に纏う、海色の瞳が特徴的な優しげな美少女が佇んでいる。


(ずびっ、人が変わると、顔立ちが全く同じでも印象は180度変わるのね………、)


 シャーリーが彼女たちを涙に濡れた瞳で数十秒見つめた次の瞬間には、シャーリーの瞳は、否、頭は、グレンによって抱き抱えられてしまった。


「シャーリーの泣き顔を見るな。減る」


 グレンの怒気を孕んだ声は、すうっと空気を揺るがす。

 けれど、彼の殺気に慣れているオリヴァーは一歩も引くことなくひょいっと肩を竦めて苦笑するだけだった。ー


「………愛おしい人を泣かせて何が楽しいんだか」

「泣き顔は世界で1番可愛い顔だぞ?」

「どこのクソガキ発言だよ」

「どこだろうな」


 シャーリーはぐいっと彼の腕をつまむが、彼は涼しい微笑みを浮かべたまま、一切動じなかった。


「はうっ、」


 それどころか、くちびるを柔らかく喰まれるというありえない仕返しをされた。


「………もぅ泣きたい」

「え?今まで泣いてなかったの?」


 もう1度シャーリーは彼の腕をつねり、胸に頭突きしてぐりぐりぐりーっと頭を埋めた。


「おばか」

「うん」

「どあほ」

「そっかー、」

「あんぽんたん」

「可愛いなぁ」

「すかぽんたん」

「うん、最高」


 精一杯の罵倒にデレデレとされたシャーリーは「うぅーっ」と呻いて、なおのこと涙を流した。


「グレンがちっとも懲りてくれないぃー!!」


 「びゃーっ」と彼の腕に抱かれたシャーリーは、彼に頭と背中を優しく撫でてもらいながら、いっぱい泣きじゃくっている。


「なんか、こいつら何がしたいんだろうな………、」

「ごめんなさい、オリヴァー。わたくし、頭が良くないから答えに行き着けない」

「いや、マリンが悪いわけじゃない。というか、アクアマリンは賢いよ」

「お姉さまはいつもわたくしの上を行っていたわ」

「アレはアレ。君は君だから」


 こちらはこちらで、オリヴァーとその連れ、スカーレットの双子の妹であり、ロベロン王国第2王女アクアマリン・ロベロンの間に甘い空気が流れそうになった瞬間、グレンは勢いよく両手を叩いた。


「さぁ、お仕事のお話に入ろうか」

「………お前、本当に性格悪いな」

「貴重な褒め言葉として受け取っておこう、オリヴァー殿」

「キモ………、」


 昨日のシャーリーは“作為的に”、よく言えば“運命的に”、“必然的に”、スカーレットとの出会いを果たしていた。


 理由は簡単。

 浮気性のスカーレットとオリヴァーの婚約を破棄に持っていくためだ。


「あの、シャーリーさま」

「?」


 アクアマリンの瞳に涙をたっぷりと溜めたスカーレットの双子の妹アクアマリンが、深々と頭を下げた。シャーリーは僅かにアクアマリンの方に顔を向けながら、首を傾げる。


「………ありがとう、ございました。おかげでオリヴァーと結ばれることができそうです」


 シャーリーが婚約破棄に持って行こうとした理由、それはグレンの幼馴染たるオリヴァーの婚姻を元通りにするためだった。


 オリヴァーとアクアマリンは幼少期からとても仲が良く、恋仲であり、婚約が内定していた。

 にも関わらず、婚約発表式開始直後、第1王女スカーレットの暴挙、婚約発表式の壇上でスカーレットがギャン泣きしながら父王に、「自分とオリヴァーが婚約しなければ今すぐ自害する」と訴えたことで、それらは全て崩れ去ってしまった。


 スカーレットに殊更甘い父王は、オリヴァーとスカーレットを婚約させた。

 だが、男遊びが大好きなのスカーレットは美丈夫であるオリヴァーが、自分ではなくアクアマリンに惚れてしまったことが気に入らなかっただけだった。


 婚約は当然上手くいかなかった。


 オリヴァーは今まで通りアクアマリンと共に過ごし、公式の場でもアクアマリンをエスコートしていた。

 スカーレットは婚約者のいる美丈夫たちを自分に惚れさせ取っ替え引っ替え、挙げ句の果てには幾件もの婚約破棄騒動を起こさせたのにも関わらず、我関せずを貫き通していた。


 真っ先に現状に痺れを切らしたのは、婚約者を取られた公爵令嬢だった。

 オリヴァーの頬をぶん殴って帰って行ったご令嬢は、国王へも文句を言いに行ったそうだが、「スカーレットは絶対に悪いことをしない」の一点張りで終わったそうだった。


 それを聞いたオリヴァーは、何度か案を考え、婚約破棄に向けて動いた。


 ———浮気現場を国王と共に押さえる。


 ———婚約者を取られたご令嬢たちの涙を国王に見せる。


 ———スカーレットに惚れた男たちが「自らはこんな愛を囁いてもらった!!」と自慢している井戸端会議を国王に見せる。


 上記3つに加え、オリヴァーは考えつく限りの事を試し、暴君とかしている国王に現状を訴えた。

 けれど、どう努力をしようとも現状は一切改善されなかった。


 愚かな国王は醜い心を持った娘の言葉を信じ切っている。


 国内の案件ではどう足掻こうとも、どう努力しようとも揉み消されて終わってしまった。

 だからこそ、オリヴァーは足りない悪知恵で考えに考え抜き、国外の王侯貴族を巻き込むことにした。


 そして、その餌食となったのが、貿易高によって国交は盛んなのにも関わらず、互いの文化物については出回っていないライノルト帝国であり、目をつけられたオリヴァーの作戦にグレンとシャーリーが巻き込まれたのであった。


「で?あの赤女はどうなりそうなの?」

「赤女って、グレン殿………、………………スカーレット殿下なら国王陛下に縋っていたよ。国王陛下はどうにかしようとしていたけれど、スカーレット殿下を傀儡にして利を得ようとしていた貴族たちにすら見放されたスカーレット殿下は、立ち直ることすら不可能だろうね」

「はっ、当然の報いだ」


 グレンのきらきらした笑みに、オリヴァーは背筋が凍りつくのを感じながらも、未だにグレンの肩を濡らし続けているシャーリーに最大の敬意をこめて、膝を床につき、頭を垂れた。


「ルカ・シャーリーさま。此度のご支援、誠に感謝しております。この御恩は必ずや」

「………………わ、我がルカ商会との、ずびっ、お取り引きを早急にお取り付けいただけると、ずびっ、嬉しいですわ」

「あぁ、分かった。明日にでも書面にしよう」

「ずびっ、よろしくお願いいたします」


 世界最大級の商会を営むルカ家の息女らしい言葉に、オリヴァーは厳かに頷く。


 ルカ商会を敵に回すことは即ち、世界中の商会を敵に回すことに等しい。

 よって、商会の溺愛されている末娘シャーリーの取る一挙手一投足大国の王並みの注目と責任が伴う。


 そんなシャーリーが、先程スカーレットの向かい「もう永遠に出会わないことを願っているわ」と言ったのだ。

 つまり、王太子であったスカーレットに向かい、世界中全ての商いの権限を持っていると言っても過言ではないルカ家が、「2度と表舞台に出てくるな」と言ったのだ。


「まぁ、ご安心ください。グレン殿、シャーリーさま。シャーリーさまがああ言ってしまった時点で、我が国の王侯貴族たちには抗う術などないという訳ですよ」


 肩をすくめたオリヴァーに、シャーリーが「うゃぁぁぁああああ!!」という変な奇声を上げながら、グレンの肩に額を打ち付けた。


「恥ずかしいっ!恥ずかしすぎるわっ!!私如きが何さまっていうお話よねっ!?あぁ!どうしましょう!!どうしましょうっ!!」

「えぇーっと………、」

「あぁ、気にしないで、オリヴァー殿。シャーリーはシャイなだけだから。今更ながらに、自分の格好つけた姿が恥ずかしくて死にそうなんだよ。ほんっと、可愛いよねぇ」


 ぎゅうぅーっとシャーリーの身体を抱きしめたグレンは、にこりと微笑む。

 それからしばらく、色気の全くない話し合いを行なった2組のカップルは、各々の婚約者を連れ自らの部屋に帰って行き、婚約者をベタベタに甘やかしたとかなんとか———。


▫︎◇▫︎


 とまあ、美しく誤魔化せば乙女にあるまじき事を連想するかもしれないから追記すると、その日の夜、グレンとシャーリーの部屋からはうら若き乙女の断末魔が響いていた。


「ふぎゃうんにゃああああぁぁぁぁ!!」


 断末魔の響き渡るそのお部屋をひっそりと覗いたメイドたち曰く、2人は1つの小さなソファーにグレンが下、シャーリーが上で座り、オリヴァーとアクアマリンに泣き顔と泣き声を聞かせたシャーリーが、“お仕置き”という名の擽りの刑を受けていたらしい。


 愛くるしい姿を拝見したメイド曰く、「下世話な想像をした己を恥じるほどにピュアな触れ合いだった」とのことだった。


 今日も、恥ずかしがり屋な泣き虫シャーリーは、腹黒で虐めるのが大好きなグレンによって、外遊先のどこかの国で、意地悪をされているとかいないとか———。

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