うわさの青年

山田葦久

神社のお狐様

プロローグ

 今から少し未来の話...。


 暖かい思い出を見ていた。ずっと小さい頃の思い出を。それは、七五三で出かけた時、近くの神社「波留狐はるこ神社」で祖母からもらった、丁寧な細工がされ花のついた簪が今ではお守りとなっているということ。その理由となった出来事は、まだ幼かった彼女にとって悲劇だった。


「---蓮!」


「え?な---」


 キー!


 その時、祖母は死んだ。彼女をかばって。祖母に助けられなかったら、蓮は「藤澤ふじさわれん」という女は、今はもうこの世にいなかっただろう。

 その時蓮は自分をかばった祖母が死ぬということを、最初は、いつもうつむいていて学校でも友達と会話をせず食事もろくに取らなかったが、今はあの時、祖母がくれたこの簪によって自分は助かったんだと。

 この簪にはきっと神様が宿っていて、今は祖母の魂も宿っているんだと考え、とても大事にしている。

 そのため、出かけるときも、学校に行くときも、いつも片時も話そうとはしなかった。


 コンッ!


「アイッは〜!」


「連ちゃんはまだオネムか?」


「...いえ、大丈夫です。というか、私は寝ていません!」


 蓮がこれに対して頬を膨らめせているのを見てニヤニヤと笑いながら、彼は言った。


「あぁ。お前は外を見ていたものなぁ。だが、なにか考え事をしていたじゃないか。それは授業を受けていないのと何ら変わりはないだろう?」


「うぐっ。」


「藤澤、今日居残りな?」


 キーンコーンカーンコーン。


「え〜!」


「藤澤が居残るとか珍しくね?」


「何考えてたの?」


「まぁ、昔のことをね。」


 基本、授業は真面目に受け、テストの点数は80点以上、保体、美術、技家もまぁまぁできるほぼ優等生のような普通のJKの蓮が、居残りをするというのは、この女のことを知っていう人間からすれば信じられなかった。

 少し冷めていて口は悪かったりもするが、明るく、みんなにも慕われ正義感が強いため、教師からも高い評価を受けていた。

 しかし、そのために少し強く言い過ぎて、喧嘩をしていたりもするが、すぐ自分の否は認めるため大きな問題となることはなかった。

 教師からの注意は高校、中学ともに一度もうけていない。そのため、今回は、本当に異例だった。


「言うてすぐ終わるよ。」


「だといいね、今日蓮おばあちゃんの墓参りに行くんでしょう?」


「うん、でも一人で行くから遅れても大丈夫かな。」


「ふふっそっか、じゃぁ大丈夫だね。」


 さっきが頭をよぎったのはこれでか、と思いつつ、居残りのため他の教室に行く準備そしようとした時、先程の先生に声をかけられたのでそちらへ振り返る。


「アノぅ、何でしょうか?できれば今日は色々と用事があるので、居残りだけでもきついのですが?」


「あぁ。そのことだが、ふじさわ、今日墓参り行くんだってな。」


「(ああ聞いていらっしゃいましたか)はい、それが何か?」


「だから今日は帰っていいぞ。」


「は?...ぬぁ!?」


 一瞬間抜けな表情をした蓮だったが、すぐ意味を理解し、困惑した。


「え、ほほほ、本当によろしいのですか?ちゃんと授業を受けなかったのに?」


「残りたいのか?」


「いえ、全然。」


「なら、素直に喜べ。お前はいつも真面目に受けているからな。今回は見逃してやるだけだ。それに行くなら早いほうがいいだろう?」


「あ、ありがとうございます」


 蓮は先生に御礼を言ってから、席に戻り、帰る支度をした。以外に、許してもらえうものだな、と思いながら彼女は小さな笑みを浮かべていた。

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