第5話 無手無限流
「姫は捕らえろ。男は殺せ」
「応ッ」
山伏達は一斉に錫杖を構え此方目掛けて走り出してきた。
なんか物騒な台詞が聞こえたが。
「ふんっ」
俺の正面に走り込んできた山伏は間合いに踏み込むと同時に錫杖を突き込んでくる。
「問答無用かよ」
突きに迷いは無い、っが心は見事だが技が付いてきていない。俺は余裕を持って錫杖の側面を叩いて矛先を逸らしつつ、くるんっと回って間合いを詰めると同時に右の裏拳を山伏の顎に叩き込む。
「ぐあっ」
クリーンヒット、だがこれで喜ばない止まらない。すかさず左手で錫杖を掴んでもう一度くるんと回って山伏の手から錫杖を引っこ抜き、引っこ抜くがままに錫杖を山伏に横薙ぎ。
カチンッ、シャンシャン。硬い金属がぶつかり合い鈴の音が乱れ鳴く。
錫杖が山伏に当たる前に別の錫杖で防がれたのだ。
「やるな」
割り込んできた別の山伏が俺を賞賛する。
「こんな時代に一人旅しているんだぜ。色々芸達者になるさ」
伊達に一人で旅をしていない。強さの裏付けなくして自由は無い。
「一人旅?
葦原の姫の従者じゃ無いのか?」
「なんだそれは?」
またまた興味惹かれるワードを頂いたぜ。どうやら俺は思った以上に根が深く面白い案件に巻き込まれているようだ。
「無関係ならなぜ首を突っ込んだ。己の迂闊さを地の底で悔いるがいい」
先程の男と違い武道の心得があるのかこの山伏の突きは鋭く隙が無い。だがそれでも俺は奪った錫杖を左右に振って捌いて捌いて、隙を見出しては鋭く振り抜く。だが相手も受け止める。
「やるな。我は宮田流 取香 仁太。
名を名乗れ。墓石に刻んでやる」
古流武術、それもかなりの使い手だな。師範代クラス?
「ご親切にどうも。
無手無限流 御簾神 カイ」
「無手無限流? 聞いたことも無い流派だな」
男はしゃべりつつも手を緩めない。鋭い突き次々と繰り出してくる。
「俺が開祖だからな」
「我流か」
侮蔑が山伏に浮かび鋭く突き込んでくるが、どんな武術も開祖が一番偉いんだから俺を敬えってんだ。
突きを躱し躱され引かれる錫杖に合わせて錫杖を投げ込む。
「ぐふっ」
取香は錫杖で叩いて錫杖を叩き落とすが空いた隙に俺は入り込み蹴りを取香に叩き込む。
「無手無限流は無手に始まり変化自在に変化していく。
故に武器に執着しない」
「抜かせ、所詮我流の奇策」
「奇策も連なれば無限の流れ」
取香はダメージを負った腹を無視して錫杖を構え直すが、腹の痛みの影響だろう先程に比べるとぎこちない。だが俺の油断を誘うフェイクの可能性もあることを念頭に置きつつ、俺もまた無手で構え対峙する。
血が滾る。皮膚がヒリヒリする。
一手の間違えが死に繋がる緊張感に神経が研ぎ澄まされていく。
世界が輝き美に満ちていく。
何気ない道ばたの小石すら輝く宝石に見える。
潜った修羅場だけが人を磨き高めていく。
神に近付いていく高揚感。
これこそ冒険。
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