文通(2)

「うーん……。」

なんと言ってよいか分からず、モニはとりあえず両手を頭の後ろに回した。叔父も顎に手を当てて考え込んでいる。

「これがいつの手紙なのかな?」

「10日くらい前。僕……行けないって返事したんだ。お父さんはまだ忙しくてあんまり帰れないし。それに僕、お父さんに、夜中にお母さんに何かあったらすぐに知らせるように言われてるから、出かけられないよ。妹たちもいるし……。」

「どんな文面で書いたの?」

「『お母さんに何かあったらいけないので、行けません。お昼に街中でならいいよ。』って書いたよ……。猫の首輪に手紙は無かったから、手紙は受け取っているはずなんだ。書き方が悪くて怒らせちゃったかなと思って、ごめんねって何度か手紙を書いたんだよ。でも返事が返ってこないんだ……。」

ロビンは目に見えてしょんぼりしている。青春の1ページは始まる前に終わってしまうのか。

「結構やり取りしているけど、お互いの名前とか住んでいる場所は書かなかったんだね。」

叔父が手紙をテーブルに並べながら言う。

「書かなかった。最初の方で二人とも言わなかったから、途中で名前を聞くのも違うなって。なんていうんだろう……、格好よくないっていうか。」

「無粋な感じ。」

「へえ、そう言うんだ。」

無粋、無粋と繰り返すロビンのカップに温めなおしたホットミルクを注ぎ足す。

「じゃあ君は猫を追いかけて文通相手を見つけ出そうとしていた訳か。それでうちの庭に引っ掛かったと。」

「そういうこと。引っ掛かったことはもう言わないでよ。」

ロビンがむすっとした顔で叔父を睨む。ごめんねと叔父が笑った。

「でも、意外とこれ、誰だか分からないな。」

モニは呟いた。決して大きな街ではないが、住民全員を把握しているわけではない。出稼ぎに行っている住民もいるし、逆もそれなりにある。特に今は冬を目前に控えた収穫期であり、普段は見ない顔も多い。また、叔父の家は中心街のはずれにあり、他の集落の子供とはあまり関わりがないうえ、街の子供たちと顔を合わせる機会もそう多くはない。モニ自身、社交的な性格かと言われるとそうでもない。自宅に友人を招くことは皆無といっていい。

「一人っ子、母親存命、父親遠方であり不在、ペットなし。確実な情報ってこれくらいじゃないですか?手紙の量の割には情報が少ないですね。あとは、多分女の子で多分10歳以下。猫を追いかけたくなる気持ちも分かりますよ。」

「そうだなあ。」

叔父がしばらく考え、ちょっと失礼、と席を外す。

モニは心当たりがないか頭をひねってみたが、同世代の友人以外の子はそもそも知り合いが少ない。その子に兄弟がいないならこの線から探すのは難しいだろう。ロビンにも見当がつかないならモニにはお手上げだ。戸棚からクッキーを引っ張り出して二人でつまみながら喋るうち、相手はどんな人なのだろうかという内容に話が移っていった。

「僕、やっぱり女の子だと思うんだよね。」

ロビンがぼんやりと手紙を眺めながら言う。

「どんな女の子だと思うの?」

意地悪な質問をしてしまったとモニは思ったが、ロビンは気にする風でもなく答える。

「年齢は僕と同じか少し年下かな、って思う。とってもきれいな文字を書くよね。これってお母さんが厳しいからかな?だからあんな手紙を書いたのかなあ。もっと話を聞いてあげればよかったな。」

「ロビンはちゃんと返事書いてるじゃない。僕は相手がロビンに甘えてるなあ、と思うけどね。文章でこんなこと送られても返事しづらいでしょ。僕だったらうんざり……いや、大事な友達が悩んでいるんだからそりゃあ心配になるよね。」

あわてて取り繕う。幸いロビンはぼんやりと聞き流していたようで抗議はなかった。

「名前だけでも聞いておけば良かったな……。家でも考えてたんだけど、ほら、この手紙で僕、学校の話しているじゃない?この時にどこの学校に通ってるか聞いておけば良かったんだよ。そしたら探しに行けたのに。」

元気かなあ、友達はいるのかなあ、とロビンが呟く。

「また手紙をくれないかな。会いたいなあ。」

「でも、なんで夜中に会おうと言ってきたんだろうね。お母さんが厳しいなら、日中の方が外出できそうだけどね。」

そんなことを話していると、叔父が両手に荷物を持って戻ってきた。

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