閑話アイリス④ 転生ヒロインの誤算
「やってくれたわね、あの
アイリスは荒れ狂っていた。
「くっそー! 剣魔祭で優勝して評価ポイントを稼ぐ予定がパァよ!」
乙女ゲーム『あなたのお嫁さんになりたいです!』の設定では、剣武魔闘祭での成績がヒロインの評価ポイントに大きく反映されていた。この評価ポイントは好感度と共に攻略に重要なファクターである。
「評価点が高く、私でも優勝できそうな競技を選んだのにッ!」
剣武魔闘祭で評価点が高いメジャー競技は三つ。
運動音痴なアイリスはアクティブな人気競技である魔弾の射手を断念。
死ぬほど不器用なアイリスは魔力操作も超苦手で氷柱融解盤戯も断念。
そこで前年度も優秀な成績を残した魔丸投擲に全てを懸けたのである。
だから魔力を鍛え、昨年の優勝記録も塗り替える力をつけた。これで優勝は頂きよと息込んで臨んだ今年の剣武魔闘祭。
競技当日、ベストコンディションのアイリスは自己ベストを更新して、やったやったと飛び跳ねて喜んだ。なんせ昨年の優勝記録を50cmも上回ったのだから、これなら優勝は間違いないだろう。
アイリスだけではなく、会場の誰もが同様に思った。
ところが……
「どいつもこいつも昨年の優勝記録を更新するってどういう事よ!」
次の選手がいきなりアイリスの記録を塗り替えたのだ。その差わずか1cm。悔しいが、きっとこの選手も調子が良かったのだろう。
惜しかったが準優勝でもいいか。
仕方がないとアイリスが諦めた時、アイリスの眼前で更に次の選手が5cmも記録を伸ばしてきた。
そして、次々と繰り広げられる記録更新レース。
ついには男子の優勝記録に並ぶ者まで出てきた。
蓋を開けてみれば昨年の三位より大幅ダウンの七位と入賞もできず惨敗であった。
「それに最後のイーリヤはいったいなんなのよ!」
極めつけはイーリヤの叩き出した前人未到の大記録。
「あんなのゲームの裏技でだって出すのは無理よ」
もはや人類の限界を遥かに超えている。恐らく、というか絶対にあの記録は今後破られることはないと断言できる。
「せっかく頑張ったのに、これじゃ評価点が……」
アイリスの記録など霞んで誰も見向きもしないだろう。
「それに思ってたよりオーウェン達の成績も振るわなかったし」
現在、オーウェンは廃嫡の危機にある。それは王妃になって遊んで暮らそうとしていたアイリスにとって都合が悪い。
「クラインはさっさと予選敗退するなんて……あの図体ばっかの役立たず!」
魔術競技に出場していたサイモンやコニールにしても本戦こそ進出していたが、優勝には程遠かった。
「頼みの綱のオーウェンも準決勝でエーリックに負けちゃうし」
これでは剣武魔闘祭でオーウェンや他の攻略対象達に好成績を取らせて
「何がみんなの幸せの為よ!」
この原因を作った張本人は間違いなく魔丸投擲の選手を強化し、婚約者のエーリックを育ててきたウェルシェだ。
「言ってる事とやってる事がアベコベじゃない!」
もっとも、ウェルシェは強化合宿に誘ったのに、それを拒絶したのはアイリスの方である。また、レーキ達を使ってオーウェン達の特訓にも影ながら助力していたのに、それを無駄にしたのはオーウェン達である。
「
アイリスはハッとした。
「アイツ、最初からこれが目的だったんじゃない?」
オーウェンを陥れエーリックを国王にさせるのがウェルシェの真の狙い。そしたら自動的にウェルシェが王妃になる。
「そうか、そうだったのね!」
そう考えれば全て辻褄が合う。
「ケヴィンを避けていたのはエーリックを落として王妃になる為だったのね。やっぱあの女、転生者なんじゃないの?」
アイリスの中で点と点が結びつき一本の線に繋がった。
謎はすべて解けた!
Q.E.D.―証明終了―である。
「あの腹黒女めッ! 虫も殺さないような顔して何て悪辣なのかしら」
可愛い顔でにこにこ笑い、油断したところを後ろから刺す。全くもって悪逆非道な姦計である。まさに悪役令嬢の所業ではないか。
「絶対あんたの思い通りにはさせないわ!」
こうなったら意地でもエーリックを攻略してやる!
「
決意を胸に正義のヒロインアイリスは、悪の枢軸ウェルシェとイーリヤの打倒を誓った。
「そうすればエーリックが即位しても私が王妃になれるもんね」
ずいぶん打算的で安直な正義のヒロインではあるが。
「こうなってくるとやっぱ『雪薔薇の女王』イベント攻略は必須ね。それに、剣魔祭の決勝では順調にイベントもこなせたし、きっとトレヴィルの攻略も可能なはずだわ」
アイリスの思惑通り決勝戦ではトレヴィルがイベント通り勝利の為に卑怯な手段を使った。だけどアイリスは知っている。
「実はこれってトリナの王妃がかけた呪縛のせいなのよね。その呪縛を私の力で解き放てば、トレヴィルは真実の愛に目覚めるのよね」
それがトレヴィルを攻略するのに必要なフラグだった。だから、決勝戦の終了後にアイリスは乱入し、トレヴィルにアプローチしたのである。その時の選択肢に間違いはないはず。
「負けたエーリックへのフォローもバッチリできたし。これで二人の好感度も多少は上がったはずよね?」
計画通り!とガッツポーズしたアイリスは天に向かって咆えるのだった。
「見てなさい腹黒女ども! アンタらから全てを奪って吠えヅラかかせてやるわ!」
だが、アイリスは知らなかった。
トリナの王妃にかけられたトレヴィルの呪縛は既に解かれている事に。
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