第6章 その策士、いつも策に溺れてませんか?
第30話 その決勝戦、まさかの大金星ですか!?
「ところで、お嬢様……」
次に
「お嬢様が
圧倒的不利な状況でウェルシェに悲壮感がない。それどころか、どこか楽し気に見えるのでカミラは何となく嫌な予感を覚えたからの質問であった。
「どう考えても魔丸投擲でお嬢様がイーリヤ様に勝てるとは思えないのですが」
魔力量がものを言う脳筋競技では技巧派のウェルシェは圧倒的に不利である。逆に
そうなると勝負の決め手はやはり魔弾の射手だったのだ。イーリヤとの賭けに勝つにはウェルシェはなんとしても先の競技で勝たねばならなかった。
「そうねぇ、確かにこのままだと私がイーリヤに勝つのは難しいわねぇ」
「そう言う割にずいぶん余裕そうですが?」
だが、窮地のはずのウェルシェがニヒッと悪戯っ子のように笑うので、カミラの疑念はいよいよ深まった。
「やっぱり
「だ〜か〜ら〜、私は正々堂々と戦うって言ってるじゃない」
「絶対ウソです! 間違いありません。絶対です!」
私には分かりますとカミラが断言した。
「酷いわッ!」
両手で顔を覆ってウェルシェが咽び嘆く。
「私、イーリヤと真剣勝負をして本当に楽しいって思ったの。勝つとか負けるとかじゃない。私はお互いの持てる全ての力を出し切ってぶつかり合う素晴らしさを知ったのよ」
「はいはい、そういうのは、もういいんで」
儚い幻のようなウェルシェがさめざめと泣いて訴えれば大抵の人間はコロッと騙されるが、長年この腹黒に仕えているカミラの前には無意味だ。
「ぶぅ、カミラはもうちょっと私を甘やかしてくれてもいいと思うんだけどぉ」
「私はお嬢様の幼少期に甘やかし過ぎたと後悔しているのですよ」
二人の出会いは今から十年前、ウェルシェ六歳、カミラ十三歳の時である。
当時のウェルシェは超ウルトラスーパーヤバいくらい可愛い天使であった。その時の邂逅をカミラは今でも忘れない。
「あの時はお嬢様に目を奪われ、息をするのも忘れたほどでした」
たっぷり五分は息をしていなかったカミラは本当の意味で昇天しかけた。その後、ウェルシェの母グロラッハ夫人ヴェルデガルドに頼み込んで専属侍女にしてもらい、それからは実の両親以上の溺愛っぷり。
ところが年を追うごとにウェルシェの本性が次第に露見してきた。
「それがまさか、こんな腹黒娘だったなんてッ!」
詐欺だッ!カミラの心の叫びは現実に口を衝いて飛び出していた。
「またまたぁ~、カミラって可愛い私が大好きなくせにぃ」
スポーツウェアに着替えたウェルシェは姿見の前でカミラに見せつけるように前屈みに可愛くポーズを取った。
「ええ、好きですよ」
薄い水色のショートパンツに淡いピンクのノースリーブシャツを着たウェルシェは掛け値なしに可愛い。はっきり言ってカミラの好みドストライクだ。
「今でも私はお嬢様の容姿が大好きです」
主人相手にぶっちゃける専属侍女も大概いい性格をしていると思う。
「だったら問題ないじゃない」
「でも、痛い思いをするのはお嬢様の本性を理解していない出会いの時だけで十分なんです」
どんだけウェルシェの悪戯につき合わされたことか――そう嘆くカミラであったが、ウェルシェが大好きだから何だかんだと手伝うのだった。
「どうせ今度も何かやらかしてるんですよね?」
「まったくぅ、信用ないなぁ」
口を尖らせるウェルシェはとても可愛いのだが、同時にどうしたら信用されると思うのか疑問に思うカミラだった。
「あっといけない、もうこんな時間だわ」
試合が終わっちゃうわ、とウェルシェは更衣室を出て競技場へと向かう。
「
急ぐウェルシェを慌てて追いかけながらカミラは首を捻った。もはやイーリヤの優勝は揺るがない。今さら観戦する必要を感じなかったからだ。
「ええ、そうよ」
「お嬢様がこの競技にそこまで興味を持たれているとは知りませんでした」
もう既に敗退してしまった競技の観戦などウェルシェは無駄としか考えないとカミラは思っていた。
「別にそこまでじゃないけど、イーリヤが出るしね」
「イーリヤ様の応援でもされるのですか?」
「むふふふ」
あの怪物は応援などなくとも優勝してしまうだろうとカミラは思ったが、どうにもウェルシェの様子がおかしい。
「ですが、この時間ですと試合はもう終わる頃では?」
「そうみたいね」
ウェルシェとカミラは選手入場口から会場の中を覗き見れば、ちょうどイーリヤの対戦相手がプレイアウトしたところだった。
「彼女は昨年三位入賞したヨランダ・ヨークシャーよ」
「さようでございますか」
イーリヤに勝つ為には対戦するまで勝ち進む必要がある。だから、抜かりの無いウェルシェが他の選手を調査しているのは必然。
「昨年、彼女と一つ上級生のルーナミリア・ルーベルトと争った準決勝が事実上の決勝戦と言われていたわ」
「なるほど?」
だから、ウェルシェが対戦相手に詳しい事にカミラは特に疑念は抱かなかった。
「ヨランダは昨年の準優勝者よりも優勝に近かった逸材よ」
「はぁ?」
『オールクリア!』
次の瞬間までは――
『勝者、ヨランダ・ヨークシャー!』
「はあ!?」
驚嘆しカミラの目は点となり、ウェルシェはしてやったりと会心のニンマリをしたのだった。
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