ナマムギナマゴメナマタマゴラァッ! 〜取り柄が「滑舌」しかない俺、転移先の異世界にて最強魔法使いになる〜高速詠唱? いいえ、ただの早口言葉です。

キリン

1.チートもねぇ! 特技もねぇ! ……そんな俺が勇者って、大丈夫?

「おお、勇者よ……よくぞおいでくださいました!」


 働きすぎでとうとう頭がおかしくなってしまったのだろうか? ついさっきまでレジ打ちをしていたのに、まばたきをした直後には見知らぬ場所にいた。


「……年だなぁ」

「王よ、御覧ください! この国を救う勇者様にございます! 召喚に成功したのです!」


 やけにファンタジーな幻覚だなぁとため息をつく。これでも俺は現実主義者だったつもりなのだが、どうにもどこか夢の魔法の世界の妄想に逃げていたらしい……如何にもな魔法使いっぽい年寄りと、玉座にふんぞりがえっている偉そうな年寄り。ああ、まるでRPGの世界だ。


「よくぞ参った、勇者よ」

「……はぁ」

「この国の危機に応えてくれた汝の勇気、余はとても嬉しく思うぞ」


 ……変だな、結構長いぞ?

 ちょっと頭を殴ってみたりする。でも全然目覚めない。もう一発……あれ、変だなまだ目覚めない。おっかしいぞ? 待て、待つんだ……これじゃあ、まるで……!


「……あー、王様? 一つよろしいでしょうか?」

「良いぞ、何でも聞くがいい」

「ここって、何県ですかね? ……ってか、日本国内ですよね?」

「ケン? ニホン? 聞いたことのない国じゃな、しかしよくぞ……そのような遠国からわざわざ助けに来てくださるとは……」


 やばい、やばいぞ。

 この流れは非常に不味い。


「そうじゃ、まだ名乗っていなかったな」


 玉座から立ち上がり、王様っぽい年寄りが近づいてくる。

 俺の前に立ったのちに、優しい顔で……こう言った。


「余はバンドン・フロイクオール。このベーラ王国の現国王であり、お主を呼んだ張本人じゃ」

「……えっと」


 真面目な自己紹介。その中に入り交じるあまりにも現実離れしたカタカナっぽい単語。

 いいや、違う。


 今俺がいるこの場、いいや世界全体が……紛れもない現実なのだ。


「……早川、言羽です……」


 25才。コンビニアルバイトのこの俺、早川言羽は。

 どうやら巷で噂の異世界転移とやらに、巻き込まれてしまったらしい。──いいや、問題はこれだけではない。


(俺、女神様からチートもスキルも何も貰ってないんですけど……!?)


 運動もできない、力もなければ足も遅い……特技はなんと「呂律」だけ。べらべら喋ることだけが特技の俺が、話を聞く限りは勇者として呼ばれたそうじゃないか。──いや、無理だろ。


(……帰りてぇ〜!)


 切実な心の叫びも、女神様には届かなかった。

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