短い作品の短編集(リィズ版)
仲仁へび(旧:離久)
第1話 恋は盲目
横断歩道の白の上だけを渡る。
飛び跳ねるようにわたる。
ぴょんぴょんと。
楽しく。
私はね、子供の頃から夢があるんです。
幸せな、幸福な恋をしたいという夢が。
だって、恋はするだけで人を幸せにしてくれるものだから。
そういうものだって、お母さまが言っていたから。
あなたが好きです。
あなたが好きです。
あなたが好きです。
とても好きです。
大好きです。
私のあまたの中は、心の中はそんな感情でいっぱい。
いつだって何も手が付かないくらい。
いつだって他の何もかもが見えなくなるくらい。
私は、今年で中学三年生。
季節は冬を通り越した春を待つ日々。
もうすぐ卒業式を迎える学生です。
ですが、私は。
先輩が好きです。
脈絡がないかもしれませんが。
私にとって3月と卒業式と先輩が好きなことは切羽詰まった、切実なこと。
先輩に会える日が少なくなってしまう。
もう残されている月日は、わずかか時間だけ。
弱虫なら、その日だけで満足していたかもしれない。
けれど私は満足などしません。
後悔は残したくないのです。
皆は私の恋を応援してくれません。
むしろ、「やめて」と必死になって説得してきます。
どうしてでしょうね。
恋を阻むなんて、なんて無粋なのでしょう。
ひどいひどい。
ひどいわ。ひどいです。ひどいですよね。
ね?
どうしてそんな事をするのでしょう?
普通だったらそんなのひどいって思うでしょう?
人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて当然だって。
応援するのが普通の事だって。
そうです。
それが普通の事。
それが常識です。
けれど。
けれどもですよ。
でも、私は。
恋路を阻む彼等の事を、悪くは言えないんです。
だって、少し。
もんの少しだけならば、皆の気持ちが分かるから。
心配してくれるのはきっと、善意。
止めようとしてくれるのは、きっと親切心。
わざわざ口に出して喋ってくれる分だけ、私の事を気にかけてくれてるって証拠だから。
ありがとう。
ありがとう。
とてもありがとう。
感謝しています。
嬉しいです。
でも。
ごめんなさい。
だって。
好きなんです。
この気持ちは止められません。
怖いほど膨らんで、まだ膨らんでいこうとするのだから。
あの人が。
あの方が。
怖い人たちに囲まれていたのを助けてくれた時から、私の恋は盲目なのです。
皆さんごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
どれだけ障害があっても、私は先輩が好きです。
どれだけ不良でも、人を殺してそうな目つきをしていても、どれだけ乱暴な言葉遣いをしていても、好きなんです。
え? 留年していても……ですか?
そんなの決まってます。わざわざ聞かないでください。
横断歩道の白の上を渡る。
母と手を繋いで渡るのは、幼い頃の私。
当然だから、昔の若い母がいて。
その母が幸せそうな顔をしながら、恋の話をした。
私はそんな母の話を聞いて、いつか素敵な恋がしたいと思う。
そして恋で幸せになりたいと言う。
母の顔を見つめながらそう言った私は、横断歩道の白を踏み外してしまったようだ。
軽やかな音を立てて黒の上に着地してしまった私は、残念な気持ちになる。
失敗しちゃった。
でも、いいか。
またやり直せばいいんだかrあ。
踏みそこねた白に視線をくれず、私はもう次の白を見つめていた。
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