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『はぁ?あんた、何考えてるの!』

 電話の向こうで優樹菜の声が響く。

『勝手に休み取れると思ってるの?』

「決めたから。スケジュール調整頼む」

『大槻くん!』

 その声を遮るように電話を切った。優樹菜に怒られるのを承知で無理矢理休みを取るのはいつものことだった。

(こうでもしないと会えない)

 それ程、零士たちのスケジュールはいっぱいだった。




     ◇◇◇◇◇




 金曜日。夕方までの仕事を終えると零士は湊に電話を入れた。

 大学生の湊はバイトの真っ最中だった。たまたま休憩中にかかってきた電話に出たのだ。

『はぁ?』

 耳元で聞こえた呆れた声に笑いそうになる。

「だから、お前が柚子を呼び出したことにしてくれよ」

『お前なぁ……』

「会いてぇんだよ。仕事になんねぇくらい」

『だからってなぁ……。うちの親、厳しいの知ってっかよ』

「お前んとこにいるって言ってくれれば……」

『柚子になんかする気かよ』

「しねぇよ。ただ会いたいんだよ」

『昼前会え』

「スケジュールが空かない。今日だって無理矢理で優樹菜に怒られた」

『……ったく』

 電話の向こうでため息が聞こえた。

『一個貸しだからよ』

「悪ぃな」

 電話を切ると車に乗り込む。その零士を追いかけてきたのは優樹菜だった。



「大槻くん!」

 窓を開けると呆れ顔の優樹菜。

「もうこういうこと、やめてよ。調整大変なんだから!」

「悪い」

「彼女?」

「まぁな」

「仕事と自分どっちが大事なんていう女の子はやめた方がいい」

「優樹菜。違うんだよ。彼女は何も言ってない。俺が会いたいんだ」

「大槻くん……」

 優樹菜はそれ以上何も言えなかった。

「じゃ、悪いな」

 そう言うとエンジンをかけた。

 ブロロロン……!と車を走らせていく。その車をじっと見る優樹菜はため息を吐いた。




     ◇◇◇◇◇




「だから母さん、柚子、そろそろ大学のこと考えないといけないだろ?柚子のことだから何も言ってないだろ。どこ行きたいとか」

 湊は母親に電話をかけていた。

『そうなのよ。あの子、行く気あるのかしら?』

「俺から話してみるから、夕方こっちに来いって言ったんだよ」

『あら』

「だからうちに泊まらせるから」

『分かった。お父さんには話しておくわ。湊、よろしくね』

 そう電話を切った湊はため息吐いた。湊には分かってる。母親はきっと嘘ついてると分かってる。

 柚子に彼氏がいて、その彼氏が自分のダチだってこともきっと知ってると。

 母親にはすぐに分かってしまう。

 だからこの話もきっと分かってるだろう。

「やべぇな……」

 呟いた湊はバイトに戻って行った。

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