004.大神殿
お家騒動の結果、妾腹である私は神殿に送られることになった。
まあいいわよ、どうせ貴族社会なんて馴染めないし。
平凡に生きていければそれでいいのよ。
そんなことより、ここは神殿、よね?
何故か偉そうな人ほど筋肉もりもりで布地少なめなんだけど。
あと、ついでに曲がり角とかで立ち止まるたびにポーズ決めてるのはなんなんだ。
遠い目になりつつ指導役としてつけられた女性神官に尋ねてみると、彼女はキラキラした目でうっとりと語り出した。
「神々が
祭壇の清めのためにあの階段を毎日何度も登り降りしていればふくらはぎや太ももの筋肉はガチガチになります!」
あーじゃあ足に関してはそれでいいや。腕は何で?
「神事で扱う神具はとても重い物なのです。
手入れも高位神官が行いますが、決して落とす訳にはいかないために、神官は皆鍛えるのです」
下っ端神官が手入れするんじゃないんだ。
もう筋肉についてはそれでいいや。
なんで高位になればなるほど、布地面積減ってたりあちらこちらでポーズとってる奴らがいるの。
「高位の神官になる為にはまず筋肉が必須です!!
筋肉があると周囲に見せつけることで自身がどれだけ高位の神官なのかをアピールしているのですわ。
私など、筋肉がつかない性質らしく、なにをやってもダメなのです。
こんなことでは位あげ筋肉コンテストの出場資格すら得られません」
ちょい待て。何の出場資格って言った?
「月1回行われている、神殿内での位を上げる為の筋肉披露コンテストです」
なんだそれ。
「規定ポーズや自由演技で筋肉の美しさを披露し、自分は祭壇掃除も神具の取り扱いも行うことが出来る筋肉の持ち主であるとアピールするのです!」
訳分からん。
「コンテストでは出場者の方々への声かけも重要ですので、筋肉を鍛えると同時に発声練習もかかしてはなりません!
貴女は神殿に入ったばかりで今月のコンテストへの出場資格はございませんので、まずは発声練習から行いましょう!」
どうしてそうなる。
「さあ、ご一緒に基本発声から!
ナイスバルク!
キレてますわ!
肩メロン!
仕上がってますわね!
土台が違いますわ!土台が!
筋肉は裏切りません!」
それ私も言わなきゃダメなの?
「な、ないすばるく……」
「いけませんわ、そのような小声では神にお声が届きません!」
え、この声かけって神様に向けてやるの?
「コンテストの審査は神が行いますもの。
コンテストで良い筋肉と認められた高位の神官は、神よりマッスル・プリーストの称号を授かります。
そして、筋肉はなくともコンテストでのかけ声が素晴らしい方、日々の修行で筋肉をつける為の食事や訓練法の開発などの、筋肉に対する貢献が認められた方は、マッスル・サポーターの称号を授かることがございます。
私は体質的にマッスル・プリーストは望めませんから、マッスル・サポーターを目指しております」
わあ、私の知らない世界だあ……
思わず逃避した私の肩をガッと掴んだ女性神官はどこかイってる目で宣言した。
「見たところ、貴女、素晴らしい筋肉の素養があります。
私が指導しますので、今日から目一杯修行して来月のコンテストに出場し、
まずはマッスル・ルーキーを目指すのです!私もまずはマッスル・パートナーを目指します!」
「あの、まずはそのマッスルーキーとかマッスル・パートナーとかってナニ?」
興奮した女性神官の話を要約すると、神官の位は上から順に
グランドマッスル・プリースト(神殿長)
グランドマッスル・サポーター(副神殿長)
グレートマッスル・プリースト(上級神官)
グレートマッスル・サポーター(上級神官)
ミドルマッスル・プリースト(中級神官)
ミドルマッスル・サポーター(中級神官)
ジェネラルマッスル・プリースト(下級神官)
ジェネラルマッスル・サポーター(下級神官)
マッスル・ルーキー(下級神官)
マッスル・パートナー(下級神官)
ミニマム・マッスル(最下級神官)
とあり、入ったばかりの私や、筋肉がつかない体質の彼女はミニマム・マッスルの位だということ、
特定の相手と組んで、その相手をルーキー以上に引き上げる手伝いをすることで、パートナーに上がれること、
私は確実にルーキー以上になるのでパートナーに上がる為に協力して欲しい、ということらしい。
そしてその日からひたすら筋トレに励む日々が始まった。
食事はタンパク質、タンパク質、タンパク質。
ケーキ食べたい。唐揚げ食べたい。砂糖と脂が恋しい。
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