第38話
浅井side
病室の前で数分待つと、その医師は病室の扉を開けて俺を病室の中へと招き入れる。
俺は小さく頭を下げながら病室の中に入り、恐る恐るカーテンを開けると、明らかに誰かに暴力を振るわれた傷だらけの顔をした月島先生が今にも泣き出しそうな顔をして笑っていた。
俺はそんな月島先生を見て思わずギュッと抱きしめると、月島先生もゆっくりと俺を抱きしめ返して泣き始めた。
凸「月島先生…心配した…どうしたんだよこの怪我…」
月島先生を抱きしめながらそう問いかけた俺はゆっくりと月島先生から離れて、ポロポロとこぼれ落ちる月島先生の涙を必死で指で拭う。
凹「大した事ないよ…先生は大丈夫だから。ちょっとね…転んだだけ。」
誰がどう見ても大丈夫なわけがなくて、喧嘩ばかりしてきた俺だからこそ、その傷跡は転んで出来たモノではなく誰かに殴られた痕だと分かる。
俺はその強がった月島先生のセリフにため息を落とすと、月島先生は頬に流れ落ちる涙を手の甲で拭う。
凸「俺はそんな頼りない?誰にこんな傷つけられたかも言えないほど俺は頼りない?」
凹「そうじゃない!そうじゃなくて…!!もうすぐ卒業なのに浅井くんのことを巻き込みたくなくて…だから…!!」
凸「もう巻き込んでるよ…月島先生と出会った時から俺の人生は先生に巻き込まれてるし俺はそれを望んでる。俺に言えない人ってことは…月島先生をこんな傷つけたのは…佐々木だよね?」
俺がそう言うと月島先生は驚いた顔をしていて、俺はそんな月島先生に畳み掛けるように言った。
凸「月島先生がこんなに傷つけられてるのに俺は見て見ぬふりなんて出来ないよ!?大好きで大切な人なのにあんな奴にこんな事されて許せる訳ないだろ!?俺が先生のこと守るから……だから…ちゃんと話して…何があったのか。」
俺は月島先生の手を包み込み不器用ながらに言葉を並べ先生に伝えると、月島先生は俺の手をギュッと握り返してくれ、俺はニコッと微笑みその弾みで涙がポロッとこぼれた。
すると、月島先生は俺とのコンテストの後に何があったのかポツポツと話し始めた。
俺はその内容をカウンセラーの長谷川先生にも一緒に聞いてもらった方がいいと思い、俺は少し話をする事に抵抗がありそうだった月島先生を説得し、長谷川先生にも一緒に話を聞いてもらった。
月島先生が話してくれたその内容は俺の怒りが抑えきれないほど卑劣で残酷なものだった。
月島先生はポロポロと涙を流し、微かに震えながら話すその姿が痛々しく、俺の胸を抉り佐々木に殺意すら覚えた。
しかし、俺は月島先生の前では冷静なフリをして最後まで話を聞いた。
凹「ごめんね…ごめんなさい…」
月島先生は何も悪くなくてむしろ、被害者なのに俺の手を握りながら泣き崩れている。
俺はそんな月島先生をギュッと抱きしめ、大丈夫だと月島先生の背中を撫で続けた。
泣き疲れた月島先生は安定剤を処方してもらいゆっくりと眠りに落ち、布団を肩までかけ直すと長谷川先生が俺を廊下に呼んだ。
「月島さんが話した内容は間違いなく犯罪だ。医師として警察に通報する義務がある…だから君は間違っても怒りに任せて先走って相手に手を出したりしちゃダメだよ?分かってるね?これは犯罪なんだから。」
俺はそう長谷川先生に念を押され、今すぐにもあの男を殺したい気持ちをグッと堪え長谷川先生の言葉に頷いた。
「ここからはカウンセラーとして言うが、今の月島さんの心の支えはおそらく君だ。深く傷ついている月島さんの心が早く癒えるように僕も努力するが…君にも協力してもらいたい。」
凸「もちろんです。」
「なら、今君がやるべき事は分かるね?君のやるべき事は相手への復讐じゃない…月島さんの心を癒し本当の意味で守ること。分かったね?」
俺は長谷川先生の言葉に頷き、長谷川先生にスマホの番号を渡してもし、月島先生に何かあった時は俺にすぐ連絡してもらうようにお願いした。
つづく
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