第17話

浅井side


宿舎の部屋に戻り絵が汚れたりシワにならないようにそっと部屋の隅に置き、振り返ると荷物を運ぶ時に汚れてしまったのか月島先生の着ていた白いTシャツのお腹あたりに絵の具が付いてしまっていた。



凸「やば…先生絵の具ついてんじゃん!」


凹「え?どこ…?」


凸「ほらここ!」



俺はまだついたばかりの絵の具なら完全に汚れが取れる事はなくても薄くはなるかもと思い、慌てて月島先生の元にいきTシャツの中に手を入れウエットティッシュで拭いた。



確か母ちゃんがシミ取りは時間と取り方が勝負だと言っていて、伸ばすように拭くのではなく摘むように汚れを拭け!といつも学生服のシャツにミートソースを付けて母ちゃんにガチギレされていた俺は耳にタコが出来るほど聞かされてきた。



そんな俺は母ちゃんから伝授されたその技を必死で拭きとっていると、ふと目に入った鏡越しに映る月島先生の顔を見て俺の手は止まった。



月島先生は今までに見たことのないような濡れた瞳をして何かに堪えるような顔をして下唇を噛んでいたから。



その顔を見てハッとした俺は慌てて月島先生から離れると、月島先生は大きな一重の目を右往左往させて俺に背中を向ける。



凸「え…いや…変な意味じゃなくて…」


凹「わかってる。あ…ありがとう…先生着替えてくるね!」



月島先生はそう言って俺の顔を見ることなく横にあったジャージを鷲掴みにしトイレへと入った。



先生…そのジャージ…俺の…



ただ、シミを取ってあげたかっただけなのに色んな意味でやってしまった俺は月島先生がトイレから出てくるまでベッドに腰掛けて頭を抱える。



月島先生がトイレに閉じ籠ってどれくらい時間が経ったのだろう?少なくとも10分は経ったような気がする。



全くトイレから出てこようとしない扉の前に俺が立ち恐る恐るノックをする。



コンコン



凸「月島先生…」


凹「わかってる…すぐに出るから…!」


凸「いや、いいんだけど…もし、嫌な思いしたならゴメン。変なことするつもりはなかったんだ…あと…そのジャージ…俺の。」



俺がそう言うとゆっくりとトイレの扉は開き、白いTシャツを着たままの先生は着替えることなく俺のジャージを手に持っていて俺の前にそのジャージを差し出す。



凸「別にそれ着たいなら着てもいいけど…今から食堂でメシ食いに行くのに、先生がそれ着てたら、先生童顔だしどっちが生徒でどっちが教師か分かんなくなるじゃん?」


凹「あははは~先生はほんとドジだな~!」



月島先生は引き攣った顔のまま嘘くさい笑いを見せてそう言い、自分の荷物が置いてある場所に行こうとするので俺が先生の手首を掴み、少し強引に引っ張て月島先生を振り返らせた。



すると、月島先生のその目は今まで俺を見てきた優しい先生の目ではなく、その目はどこか色気がありなんとも言えない潤んだ瞳をしていた。



凸「もしかして俺にドキッてした?」



俺がそう問いかけると月島先生はゴクリと喉を鳴らし、何かを言おうとしているのか唇を微かに動かす。



しかし、先生からはすぐに言葉が出てこなくてぎこちない空気が部屋の中を埋め尽くし、俺は今にも呼吸困難になりそうだ。



凸「ねぇ…教え子の俺にドキッてしたのかって聞いてんの。」



月島先生の細い手首を少し自分の方にクイっと引き寄せると、月島先生は力なく一歩、俺の方に近づく。



すると、月島先生は視線を逸らしたままボソッと言った。



凹「した…」



その言葉を聞いた瞬間…



俺の中に溜まっていた感情が一瞬にして爆発したかのように溢れ出し…



そのまま掴んでいた月島先生の手首を引き寄せると俺は月島先生の唇を塞いだ。



つづく

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