第10話

浅井side



帰り際



俺はクラスメイト達の様子を伺い、教室に人が少なくなったのを見計らうと、わざとらしく月島先生の視野に入るよう前を通る。



すると、月島先生はあっ!と声を上げるから俺の足は自然と止まり振り返った。



凹「浅井くん!これ夏休み中のレッスン日程!確認しといてね。」



そう言って手渡されたメモを見ると、俺が思っていたよりも夏休み中のレッスン日程が少なくて、本来ならレッスンなんて大嫌いなはずの俺の気持ちが先生に会えない寂しさから少し…いやだいぶ沈む。



凹「夏休みの宿題もあるからなるべくレッスンは負担にならないようスケジュール考えたけど大丈夫そう?」



夏休みの宿題なんてしない俺からしたらそんな心配は必要のない事なのに、俺を気遣ってくれてのスケジュールだったんだと思うとそれはそれで嬉しくてたまらなかった。



凸「夏休みの宿題なんてしねぇし。ってかした事もねぇし。」


凹「だめだよ!ちゃんと宿題はしなきゃ…ね?」



月島先生は俺の目を見つめながらそう言ってニコッと笑うから、思わず俺は先生から目線を逸らす。



すると、先生は俺の頬を両手で包み込み自分の方に向かせ、俺の瞳には月島先生の顔が映し出され、心拍数は一気に上昇し身体が熱くなる。



凹「また目…逸らした。いつも浅井くんすぐ目…逸らす。ちゃんと人と話をする時は目!見て話さなきゃ!」



月島先生は俺の目をじっと見つめながらそう言うが、俺の頭の中には全然入ってこなくてもう俺の頭の中は月島先生のことしか考えられない。



じーっと見つめ合っていてもこんな気持ちになっているのは俺だけできっと、月島先生からしてみれば俺は大勢いる生徒の中の1人。



なのに俺の手は月島先生に触れたくてたまらずゆっくりと動き出す。



月島先生に触れたくてウズウズするのに…



いつも触れられなった。



月島先生の手に触れたい。



月島先生の長いまつ毛に触れたい。



月島先生の柔らかそうな頬に触れたい。



俺の手はそう叫んでいてゆっくりと自分の頬を包んでいる月島先生の手に触れようとすると…



「月島先生!!さようなら!!」



他のクラスの生徒が廊下からそう声をかけてきて、伸ばしかけていた俺の手はやり場に困り、つい月島先生の手を強く振り払ってしまう。



俺はその気まずさと恥ずかしさに耐えられず、月島先生の前から飛び出すようにして逃げ出した。



背後から微かに月島先生が俺の名を呼ぶ声が聞こえていたが、俺は振り返ることなく無我夢中に走り校庭を駆け抜けた。



つづく

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