【BL】アオハルスケッチ
樺純
第1話
浅井side
6月21日 雨
「なぁ…知ってるか?」
クラスメイトの三木が俺にそう問いかける。
凸「なにが?」
M「辞めたらしいぞ…あいつ。」
「あいつ」俺ら生徒にそう呼ばれるのはついこの前までクラスの担任をしていた教師。
見た目からして頭の良さそうな容姿で、真面目な風貌に眼鏡をかけたその顔は教師になるべくして教師になった…そんなような人。
しかし、不良校としても有名なこの学校には合わなかったのだろう…
クラス…いや、この辺りでは一目を置かれるほどのワルであるププに目をつけられていたから。
ただ、俺としてはその担任が学校を休むようになってから、俺の事を入学当初からずっと目をつけて嫌がらせをしてくる世界史の佐々木という教師が、俺たちの臨時担任になった為、吐き気がする思いで毎日学校に来ていたが、その顔も朝から見なくて済むんだと思うと清々した。
凸「まぁ…まだもった方だろ?今まで担任として来たのはすぐ学校来なくなるんだからよ。」
M「だなw」
この高校に入学してから、何度も担任が変わるのを見てきた俺たちにしてみればまた、担任が変わるのはそう珍しくはない。
前の担任は2年生の2学期から担当していたので、ププに目をつけられながらも3年のこの時期まで続いたならまだ頑張った方だろう。
次はどんな人間が担任として来るのかみんなは楽しみにしている……それは悪い意味で。
教室にチャイムが鳴っても誰ひとり席に着席する事なく、机の上に座る奴や教室でタバコを吸う奴がいて、お祭りのように騒ぎ立てているのがこの学校での日常。
俺はそんな様子を遠巻きに見ながら、それなりの立ち位置でやり過ごす。
そんな学生生活だ。
カラカラ
騒ついた教室内に誰かが入っていてきたような気がしたが、1番後ろ窓ぎわ席にいる俺からは何も見えず、みんなも気にする事なく騒ぎ立てていた。
すると
バンッ!!!!
突然大きな音がし教室内は一瞬にして鎮まり返った。
「ホ…ホームルームを始めるから席に着きなさい!!」
クラスメイトたちの隙間から見えたのは、まるで子猫のような少し怯えた目をしたか弱そうな人だった。
その人の声と手は微かに震えていて、思わず俺は椅子に座り直す。
「へぇ~アンタが新しい担任?」
ププが早速来たばかりの教師に絡みに行きニヤニヤとしている。
凹「そ…そうです!今日から君達の担任となる月島涼です!みんなよろしくね!」
大きな黒目を揺らしながら引き攣るような作り笑いを見せるその人…
こりゃ3日だな。
そう俺は思い机に伏せて寝ようとすると…
P「へぇ~先生、男のくせに可愛い顔してんじゃん。彼女いんの?」
そう野次を飛ばすのは少し頭の悪いププ。
勉強ができる出来ないの問題ではなくただ、あいつは頭が悪い。
俺よりもはるかに。
あいつはいつもそうやって今までの担任も揶揄ってきて楽しんでいた。
それはもう新しい担任が来たら行われる恒例行事のようなもの。
それはププをはじめとする不良達の気が済むまで永遠につづく。
すると…
凹「先生には彼女はいません。先生の恋愛対象は男。先生は男だけど男性が好き。君たちにもそういう事に理解のある大人になって欲しい。」
その言葉を聞いた俺は思わず机から顔をあげると先生とパチッと目が合ってしまい…ドキっと胸を鳴らしてしまった俺は咄嗟に誤魔化すように窓の外へ目を逸らした。
なんだよ…あの目…気まず過ぎるだろ…
下敷きで顔を仰いで何事もなかったかのような顔をし窓の外を眺めていると…
P「へぇ~先生男が好きなんだ?じゃ、一回ヤらせてよ。性教育ってやつ!?w」
頭の中が年中盛りのププはそう言って先生を揶揄い、俺はチラッと横目で先生を見ると、先生は顔を真っ赤にさせて怒っていた。
凹「そういうことは!!好きな人としかしたらダメです!!セックスを欲を満たす為のものなんて考えは間違ってるだよ!?」
先生はそう言って声を荒げた。
P「へぇ~先生ムキになって可愛い~真面目じゃん。好きな人と先生セックスしてるんだ~」
そう言いながらププは先生に近づいていき先生の柔らかそうな髪をそっと撫でた。
凹「や…やめなさい!早く席に座りなさい!」
P「俺先生のこと好きになっちゃったんだもん~先生~ヤラせてよ~!!」
先生は黒板に追い込まれププの顔が先生の顔に近づいたその瞬間…!!
凸「あっ!!隕石!!!!!!」
俺はそう大声で叫び窓の外を指さした。
すると、みんなは窓に視線がいきザワザワと窓の外を覗きはじめる。
凸「ほらほら!!あそこ!!!!」
この学校を代表する不良のププにでも弱いものがある…
それは自分の好きという欲求には勝てないこと。
そう…俺はププがSFマニアだと知っていながらわざと何もない空を指差し、まるで隕石が落ちたかのような演技をした。
頭の悪いアホなププを先生から遠ざけるために。
ププと他の生徒達が隕石に気を取られ窓に釘付けとなると俺は先生の元まで駆け寄った。
凸「月島先生…大丈夫?」
凹「だ…大丈夫…キミは確か浅井陽優くんだね。ありがとう。先生は大丈夫だから。」
月島先生はそう言ってニコッと微笑むと俺の頭を撫でて言った。
凹「綺麗な口ピアスだね。でも、校則違反だぞ?」
凸「う…うるせぇし…」
俺はその手を避けるように頭を動かし、月島先生に背を向けると1番後ろの席に戻った。
まだ、俺の嘘に気づかない他の奴らは窓から身を乗り出し何もない雨が降る灰色の空を見つめている。
凹「ほら!早く席に戻りなさーい!!ほら!!早く!!」
月島先生は出席簿を叩きながらそう言うと、窓から身を乗り出している奴らの制服を引っ張り教室へと戻す。
仕方なく、それぞれの席に戻ったやかましい奴らをよそに…
俺は1番後ろの席から密かに…
一生懸命ホームルームをする月島先生を見つめた。
つづく
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