第5話 想いが響きあう

 「これで安心だ。あの3人はもうハナにちょっかい出せないよ」

 シーラが誇らしげにハナの肩を叩いた。

 「ワッチ君たち大丈夫かな。ちょっと見てくるよ」

 「あっ、ちょっとハナ……」

 ハナはシーラが引き留める手を振り切ってトイレに走った。

 「そういえば、そういう子だったねハナは。まぁだから好きなんだけどね」

 シーラは走り去るハナの背中を見送り、微笑んだ。


 「あ、あれ? ハナ?」

 ハナはトイレからダッシュで戻ってきた。

 「大丈夫だからこっちに来るなって言われた。僕から甘い匂いが出ててそれを嗅ぐとお腹痛くなるみたい」

 「そうなんだ、やっぱりハナも私の魔法効果を得ているみたいね」

 「どうすれば匂いがしなくなるかな?」

 「私が魔法を解除すればいいんじゃない?」

 「解除してくれる?」

 「どうやって?」

 「えー、シーラも知らないの?」

 「うん、初めて使ったからね」

 「どうしよう、これじゃあ誰にも会いに行けなくなるよ」

 ハナは泣きそうな顔で慌てる。

 「とりあえず魔法が解けるように念じてみるから落ち着いて」

 「うん、お願い」

 シーラは魔法を発動したときのように両手を前に突き出して、顔を真っ赤にしながら踏ん張った。


 「どう?」

 「え? 分かんないよ、匂う?」

 「自分の匂いって、よく分かんないよね」

 「うん、ぷっ……アハハハ」

 ハナは、真っ赤になったシーラの顔を見て堪え切れずに噴き出した。

 「あっ、ちょっとハナ、何笑ってるのよ」

 「ご、ごめんね、シーラは真剣に取り組んでいるんだよね……でも、ぷっ……」

 シーラはお腹をかかえて笑うハナの肩を小突くが、楽しそうなハナの笑顔に釣られて、自分も声を上げて笑った。


 「ありがとねシーラ、僕のために」

 笑い疲れたハナとシーラは花壇のそばにあったベンチに腰掛けて話し始めた。

 「いいのよ、それにこれは全部ハナの魔法だもん」

 「僕の?」

 「そうだよ、ハナが居なければ私はこうして魔法を使ったりハナと話したりできなかった。だからハナは胸を張っていいのよ、もうイジメられる理由もない」

 「うん、でもあんまり酷い事しちゃダメだよ」

 「え? 私、やり過ぎちゃった?」

 シーラは舌を少し出して苦笑いした。

 「まぁ、ちょっとくらいはいいかな」

 ワッチたちの心配はしたが、ハナの心も少し靄が晴れた感じがしたのは確かだった。

 「でもさ、私の魔法って微妙じゃない? お腹を下すだけって……」

 「え~、十分強力だと思うけどな。みんなトイレから出てこないよ」

 「そうかなぁ?」

 シーラは腕を組み考え事を始める。


 「まだまだハナの魔法には秘密がありそうだよね、邪魔者も居なくなったし続きをしようよ」

 「うん、僕ね考えたんだけど。シーラを呼ぶとき、お花を一輪だけ手に取って魔法を使ったんだけど、複数の花をもって願ったらどうなるんだろう」

 「なるほど、もしかしたら花の数だけ私がパワーアップするかもね。やってみよう」

 ハナは早速、花壇の前に膝をつき花に願う。

 そして両手に触れた合計4輪のシクラメンの花が光を放った。


 「バカっ」

 「エッチ」

 「へんたい」

 「最低ね」

 ハナの前に現れたのは、4人の裸のシーラだった。

 「あっ、あれ~」

 ハナは顔を真っ赤にして声にならない声で尻もちをついた。


 「ちょっとハナ? 大丈夫?」

 服を着ているシーラが倒れそうになるハナを支える。

 「これって、魔法を4回使ったことになるのかな?」

 「そ、そうかもね……ってハナっ鼻血出てるよ」

 「う、うん、ダメみたい……」

 その鼻血が疲労によるものだと信じたい服を着たシーラは、裸のシーラ4人と一緒にハナを抱えてハナの部屋に戻った。


 しばらくして目を覚ましたハナは、急いで裸のシーラ4人を元のシクラメンに戻し、服を着たシーラに謝罪した。


 それから数日の間、ハナとシーラは魔法について色々と話し合った。

 知らない女の子が居ると噂になって、アビー先生も何度か確認に来たが、直ぐに元のシクラメンに戻したからバレることもなく、魔法の使い方も慣れていく。


 ハナとシーラが調べて分かったこと。

 ・今のハナの魔力では1日に4回の魔法が使えるが4回目で気を失う。

 ・花を摘むよりも、根を張っているほうが人の姿を維持できる時間が長い。

 ・人になった花も魔法が使える。

 ・食事をしなくても問題はないが、シーラは食欲旺盛。

 ・花が咲いていないと魔法は発動しない。

 魔法のことを調べながらハナとシーラは、お互いのことも沢山話した。

 好きなこと、嫌いなもの、夢や他愛のないことも。


 初めて分かり合える友達ができたハナは凄く幸せだった……。

 けれど、別れは突然訪れる。

 それはシーラが魔法の事を調べるうちに知ったこと。

 花が咲いていないと魔法が発動しないこと。


 花の開花時期は決まっている。

 時期が過ぎると、花は枯れ落ち眠りにつく。

 また次の開花時期までゆっくりと栄養を貯め、蕾になり、時期を待つ。

 シクラメンの花も例に漏れず。

 咲く時期が過ぎようとしている。

 

 「ハナ、しばらく会えない時期が続くかもしれないわ……」

 寂し気な表情で切りだすシーラ。


 「そうだね、ありがとうシーラ、すっごく楽しかったよ」

 ハナは、ぐっと涙を堪える。

 「泣かないでハナ、次に会う時は、もっと強くなっててよね、ハナは凄い魔法使いなんだから」

 初めての友達、それはシーラにとっても貴重な体験だった。

 「うん、僕がんばるよ、次に会える日まで一生懸命お世話するからね」

 ハナは続けてシクラメンの花言葉をシーラに告げた。

 「想いが響きあう」

 「絆」

 例え会えなくなっても、それを絶対に忘れないから。

 涙を堪え、二人は別れた。


 

 翌日。

 「ごめんねシーラ、そういえば、僕の家族に魔法を使えるようになった事を伝えるか伝えないか相談する為にシーラを呼んだんだった」

 「……ん?」

 呆気にとられるシーラ。


 そこは城下町のとある建物。

 【温室栽培完備】

 【いつでも綺麗なお花をご用意できます】

 などの謳い文句が並ぶ、お花屋さんだった。

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