様子がおかしいルートヴィヒ
ローザリンデがルートヴィヒと結婚して一週間が経過した。オルデンブルク公爵家の家政を精一杯こなしていたローザリンデは、無理をしていたのか熱を出して倒れてしまった。
(倒れてしまうなんて、情けないですわ……)
ぼんやりする頭でローザリンデはそう思っていた。しかし、体は思うように動かない。ローザリンデはただベッドで横になることしか出来なかった。そしてそのまま意識を手放すのであった。
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数時間後、ローザリンデはまだぼんやりとしているがゆっくりと意識が戻る。
誰かに手を握られている感覚があった。
(どなたでしょうか? もしかしてお母様? それともフィーネでしょうか? 病気の時、誰かに手を握ってもらうと何だか心強いですわね)
ローザリンデはゆっくりと目を開ける。
オルデンブルク公爵城の自室の天井が目に入る。
(そうですわ、ここはオルデンブルク公爵城でございました。では、手を握ってくださっているのはヨランデでしょうか?)
ローザリンデはゆっくりと握られている自身の右手を見ると、予想外の人物がいたのでアンバーの目を大きく見開く。
(っ! 旦那様!?)
ローザリンデの右手を握っていたのはルートヴィヒ。そしてルートヴィヒは座ったままうとうとと船を漕いでいた。
(旦那様……眠っていらっしゃいます。いつからいらしたのでしょう?)
ローザリンデは眠っているルートヴィヒをじっと見ていた。
ガクンと前に大きく揺れ、ルートヴィヒはハッと目を覚ます。そしてローザリンデを見ると、タンザナイトの目を大きく見開く。
「起きていたのか……!」
「ええ、先程目を覚ましました」
その時、ルートヴィヒはローザリンデの手を握っていたことに気付く。
「こ、これは、その……すまない!」
パッと手を離すルートヴィヒ。
「いえ、こちらこそ、旦那様のお手を煩わせてしまい、申し訳ございません」
ローザリンデのアンバーの目は憂いを帯びていた。
「謝る必要はない。それより……体はしんどくないか?」
いつものように目つきが悪く不機嫌そうな表情のルートヴィヒ。しかし、その声は優しく、本気でローザリンデを心配しているように思えた。
「……まだ少し怠さがございます」
「そうか……。その……何か欲しいものとか……して欲しいことがあったら遠慮なく言ってくれ」
ルートヴィヒはローザリンデから少し目を逸らす。
(旦那様……お飾りの妻である
ローザリンデの胸の中に、不思議な感覚が広がった。
「……どうかしたのか?」
ルートヴィヒはぎこちない様子でローザリンデを見る。
「もう一度……手を握っていただけますか?」
ローザリンデは思わずそう口にしていた。
「は……?」
ルートヴィヒはタンザナイトの目を大きく見開き、頬をりんごのように真っ赤に染めて固まっていた。
「も、申し訳ございません! 忘れてください! ランツベルク家にいた頃は、体調を崩して寝ている時、お母様や侍女が手を握ってくれていたもので、その……」
ローザリンデはとんでもないことを言ったことに気付き、慌てて弁明した。
「では……君が眠るまで……手を握ろう」
ルートヴィヒは恐る恐る、宝物に触れるようにそっとローザリンデの手を握る。
「……ありがとうございます」
ルートヴィヒの温かな体温が伝わり、ほんの少し安心するローザリンデ。
「オルデンブルク家には……父上と母上と俺と弟のタンクレートしかいない」
ポツリと話し始めるルートヴィヒ。
「だから……その、兄弟姉妹が多いランツベルク家で育った君には、少し寂しい思いをさせているかもしれない」
申し訳なさそうなルートヴィヒ。
「旦那様、お気になさらないでください。その……旦那様がこうして手を握ってくださるだけでも心強いです」
ローザリンデは柔らかな笑みを浮かべる。心なしか、ほんの少し怠さが治ったような気分になった。
「そうか……」
ルートヴィヒは頬を赤く染め、ローザリンデから目を逸らす。
(旦那様……エスコートの時も
ローザリンデは安心感と共に、じんわりと温かい気持ちが胸に染み渡った。そしていつの間にか眠りについていた。
ルートヴィヒはローザリンデの寝顔を、頬をりんごのように赤く染めながら優しく愛おしそうに見つめていた。
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数日後、ローザリンデはすっかり元気になった。
「若奥様、今日はゆっくりオルデンブルク城の庭園を回りましょう!」
朝の支度が終わると、侍女のヨランデがローザリンデにそう詰め寄る。
「ヨランデ、ですがお仕事が」
「若奥様は病み上がりです。今日くらい多少お休みしても誰も文句は言いませんよ。むしろ、若奥様は今まで頑張り過ぎていたのです。若奥様は優秀ですから、多少手を抜いてもオルデンブルク家は回っていきますよ」
優しくニコリと笑うヨランデ。彼女の言葉もほんの少しローザリンデの自信に繋がる。
「ヨランデ、ありがとうございます。では、今日はゆっくり庭園を回りますわ」
ローザリンデはふわりと柔らかな笑みを浮かべた。
オルデンブルク城の庭園はとても広く、多種多様な花が植えてあり、手入れも行き届いている。流石筆頭公爵家である。
「若奥様、いかがですか?」
「ええ、とても美しいですわ。一日中見ていられますわね」
ローザリンデは花に囲まれうっとりしていた。
ローザリンデはヨランデと庭園を歩く。その時、ローザリンデはふと立ち止まった。
「若奥様、どうかなさいました?」
不思議そうに首を傾げるヨランデ。
「この一画は、特にお手入れが行き届いておりますわね。クロッカスやスノードロップが生き生きと咲いておりますわ。本当に、とても美しい」
ローザリンデはアンバーの目をキラキラと輝かせ、そっと白いクロッカスに触れた。
「ええ、若奥様。実はこの一画だけは別の者が手入れをしております。いずれそのお方から直接お話が聞ける日が来ると存じております」
ヨランデは意味ありげに微笑んだ。
「是非そのお方からお話を聞いてみたいですわね」
ローザリンデはふふっと楽しそうに微笑むのであった。
そしてその様子をルートヴィヒが遠くから見ているのであった。
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