つかぬことをお伺いいたしますが、私はお飾りの妻ですよね?
蓮
ローザリンデ・エマ・フォン・ランツベルク
(ええっと……これは一体どういうことなのでしょうか?)
とある日の夜会にて、ローザリンデは目の前の状況に困惑していた。
彼女の目の前にいる、長身で黒褐色の髪にタンザナイトのような紫の目の美形だが目つきが悪い青年−−ルートヴィヒが頬を赤く染めながら真っ直ぐローザリンデを見つめている。
周囲は生暖かい目で二人を見守っている。
そんな中ローザリンデは勇気を振り絞りルートヴィヒに聞いてみた。
「つかぬことをお伺いいたしますが、
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
時は一年前に遡る。
この時、ローザリンデは十六歳で
ストロベリーブロンドの真っ直ぐ伸びた髪にアンバーの目、そして鼻から頬周りに薄らとそばかすがある可愛らしい顔立ちのローザリンデ。
ローザリンデは
「
ランツベルク城にて、ローザリンデは青ざめていた。
「もし
「ローザ、落ち着いて。大丈夫よ。貴女は何も失態を犯したりしていないわ。貴女は時々突拍子もないことを言うわね」
勢いよく立ち上がったローザリンデを母エマが苦笑して止める。
エマはローザリンデと同じ、ストロベリーブロンドの真っ直ぐ伸びた髪にアンバーの目で、鼻から頬周りに薄らとそばかすがある。愛嬌のある顔立ちの女性だ。
「ですがやはり何かしてしまったのではないかと不安です。それに
ローザリンデは先日の夜会で、エマが大勢の人に囲まれており彼女の周りには笑顔が絶えなかったことを思い出していた。エマには「社交界の太陽」という二つ名がある。
「ローザリンデ様、
そうローザリンデに優しく微笑むのはティアナ。ローザリンデの六つ上の兄でランツベルク辺境伯家次期当主ユリウスの妻である。彼女はローザリンデより三つ年上で今年十九歳になる。ウェーブがかったダークブロンドの髪にムーンストーンのようなグレーの目の、可愛らしい女性だ。
「ティアナお
ローザリンデはホッとしたように微笑み、ローズティーを一口飲む。優しく華やかな香りが鼻奥を掠めた。
「そうだ、ティアナお義姉様、体調は大丈夫でございますか? 出産したばかりなのに、先日夜会に出席していましたので、少し心配です」
「そうよ、ティアナさん。あまり無理はなさらないで。ご自身の体を大切にね」
ティアナは少し前に男児を産んだばかりである。
「ありがとうございます、お義母様、ローザリンデ様」
ティアナは微笑み、ローズティーを一口飲んだ。
ちなみに、現在ガーメニー王国では社交界シーズン中だがエマとティアナも領地に戻っていた。これはパトリックとユリウスが自分の妻を他の男の目に触れさせたくないという独占欲からである。辺境伯家は国境付近の警備の役割も兼ねているので社交界に出なくても問題はない。
「お母様は二週間後にはまた王都に行きますのよね?」
ローザリンデはバームクーヘンを一口食べてから聞く。
「ええ。ビスマルク侯爵家の夜会に参加する為にね。お姉様やお兄様やユリアーナ様にも会えるからとても楽しみよ」
エマはふふっと微笑む。太陽のような笑みなので、ローザリンデもティアナもつられて明るい気持ちになる。
「
ローザリンデは少し伏目がちになる。
「お母様もそうですが、お父様やユリウスお兄様やシルヴィアお姉様は社交界で上手くやっているので凄いですわ。ラファエルお兄様も、ナルフェック王国で上手くやっているみたいですし」
ローザリンデは軽くため息をついた。
ちなみにローザリンデより四つ上の兄ラファエルは、隣国ナルフェック王国との同盟強化の為、二年前にヴァンティエール侯爵家に婿入りしたのだ。ランツベルク辺境伯領は国境を挟んでナルフェックのヴァンティエール侯爵領と隣接している。
「弟のイグナーツや妹のクラリッサもお兄様やお姉様達同様優秀ですわ。エーデルトラウトは音楽の才能がありますし、ランプレヒトは絵の才能がございます。ですが、
ローザリンデのアンバーの目は憂いを帯びていた。
ローザリンデはランツベルク辺境伯家の第四子で次女として産まれた。六つ年上の兄ユリウス、二つ年上の姉シルヴィア、三つ年下の弟イグナーツ、八つ年下の妹クラリッサは優秀で、貴族としてのマナーや所作、社交の際必要な知識や他国の言語などを一発で覚えてしまう程である。ラファエルは一発とまではいかないが、ローザリンデよりもはるかに早くそれらを習得していた。五つ年下の弟エーデルトラウトと十歳も離れた弟ランプレヒトもユリウス達程ではないが割と優秀な上、音楽や絵などの突出した才能がある。
ローザリンデはユリウス達程優秀ではなく、エーデルトラウトやランプレヒトのように突出した才能もない。よって自分に自信を持てずにいた。
「ローザ、大丈夫よ。ユリウス達と比べる必要はないわ。自信を持って。貴女は聞き上手だから、相手の話をしっかり聞いてあげられている。とても素敵よ」
エマはふふっと微笑み、ローズティーを飲んだ。
「お義母様の仰る通りですわ。ローザリンデ様は聞き上手ですし、他の方々の顔と名前をすぐに覚えていらっしゃるではございませんか。一度覚えたことは決して忘れませんし」
ティアナも優しげな目をローザリンデに向けている。
「それは誇っても良いものなのでしょうか……?」
ローザリンデは自信なさげである。そんな彼女を、エマが優しく抱きしめた。
「ローザ、ローザリンデ。これだけは覚えておいて。私はどんな貴女でも愛しているわ。貴女はそのままで
「お母様……ありがとうございます。もし……もし、また王都に行くことがあれば、頑張ってみようと思います」
エマに抱きしめられたことで、ローザリンデは少しだけ前向きになれた。
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