第56話 リオン

莉音がバーで働いていることを聞き、偵察に行った。

獅堂とアキさんの子だ。

まともだと信じてはいるが、身辺を探りたかった。

洋服を着てメガネをかけ、変装していく。



バーにいる莉音は爽やかだった。

動きもいいし、お客さんを楽しませつつ、踏み込みはしない。

だが、どこか表面的な気がした。

疲れも見える。



何回か通い、莉音は、優しさと劣等感から自分を不自由にしていると感じた。


翔優が言うには、同じバイトの男の子と付き合っているらしい。

性的に歪んでいる翔優の報告はにわかには信じられなかったが、オーナーすら知っているようなので、間違いないらしい。


翔優曰く、相手の男の子も優しくていい人で、莉音も恋人といると生き生きしているらしい。

それに関しては、翔優の主観を信じた。




坂上に相談した。


「君の師匠のバーで働いている橘君が、アキさんの子どものようだ。」


「え!本当に!それは……すごいことだね。身近にいたなんて。」


「概ね、良い人間だと思う。だが、万が一のことがあると大変だ。獅堂の家庭と社会的地位に影響がある。もう少し調べたい。なんとか、彼と密に接触できるように計らってくれないだろうか?」


「わかった。ちょうど、相方が休みたがってるんだ。師匠に頼んでみるよ。」


「ありがとう。恩に着るよ。」



坂上も藤波家に出入りして、獅堂を気に入っていた。

僕たちは、獅堂の仄暗い過去も含めて獅堂が好きだった。

神は、そんな獅堂に癌という新たな試練を突きつけた。



「獅堂が癌と聞いて、なぜ無駄に生まれた僕は健康で、人類の宝になりかねない獅堂が……と思ったよ。」


僕はブランデーを口にした。


「要芽らしくない。全ての人間に特別な価値は無い……んじゃなかったのか?」


「ああ、自分の信仰が揺らぐよ。僕はまだ、若いってことを自覚した。」



―――――――――――――


莉音と同棲契約をし、莉音の人間的な成長は恋人の存在にかかっていると感じた。

那央は、莉音に良く似合った若者だった。

やはり、話に聞いていた、アキさんのような明るく芯のある青年に見えた。




莉音に、獅堂の隠し子であることを打ち明け、返事を聞いた。


彼の言葉を聞いて、彼を応援しようと決めた。


実は、獅堂の容体は良くない。

獅堂は、父親が持て余した僕の人生に、根気強付き合ってくれた。


獅堂がよこした翔優。

翔優のおかげで僕は人間の弱さを理解する人間になれた。

そして、翔優が莉音を連れて来た。

莉音を援助することが、獅堂への恩返しだ。




莉音は提案を受け入れて、事は丸く収まった。

間に合って良かった。


僕は人生の大きな仕事のひとつが終わったと感じて、しばらくぼうっとした日々を送っていた。

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