第49話 チャリティコンサート

ベルナール婦人主催のチャリティコンサートは、午前からだ。

チケットをもらった人が来て、わずかな入場料を払う。

例のお店の人たちの顔触れも多かった。

募金箱や、物々交換用の棚や、フリーマーケットもある。


笑顔が溢れていた。

慈善の喜びが当たり前に満ちている。




「ショウユウ、みんな日本の箏に興味があるよ。シンプルで美しい楽器だね。」


イザークが言う。

至るところに細かで煌びやかな装飾が施されるヨーロッパの文化からすれば、確かに日本の侘び寂びに心惹かれるのもわかる。



「箏は、龍に見立てた名前がついています。こちらが龍頭、こちらが龍尾で……。」


と、翔優が楽器の説明をし始めた。

みんな興味深そうに聞いている。



コンサートが始まった。

歌やピアノ。

珍しいところではリュートも出た。

そして、いよいよ翔優の箏だ。


曲はパーティーの時と一緒だが、心なし、軽やかに聞こえた。


ここでも拍手喝采だ。


翔優はお菓子や、ちょっとした小物をプレゼントされていた。

翔優が、微笑んでいた。



――――――――――――


夜になり、部屋に帰ってから翔優に聞いた。


「今日のコンサートは、どうだったんだ?」


「はい……。楽しかったです。みんな、喜んでいて。」



「昨日だって、みんな喜んでいたよ。でも、今日の翔優は昨日と違ったように感じた。何か、違いがあるのかい?」


「……パーティーは、ちゃんと演奏しなきゃ、と思っていました。コンサートは、みんなを楽しませたいと思っていました。演奏しか、してないですけど。」


翔優の関心が、”演奏”から、目の前の”人間”に移ったのだ。



「そういう意識が変わって、翔優自身は、楽しめたのかい?」


「……はい。コンサートでは、みなさんと気持ちが通じあっているように感じました。」


「それは、僕も感じたよ。見えない誰かの幸せを願う気持ちは尊いね。僕たちにも、その祈りが降り注いだ気がしたよ。」



僕はいつも、自分の中に冷え冷えとした湖があるように感じていた。

どんなことがあっても、ただそこに波紋が広がるだけで、何も変わらない。

だが、今日、僕は初めて”温かい気持ち”と表現されるようなものを感じた。



―――――――――――――


その日の夜も、翔優は僕のベッドに入ってきた。

どういうつもりか聞くか迷ったが、聞くのはやめた。


聞いたところで、期待に応えることはできないから、聞くだけ無駄だ。


翔優はいつもよりもピッタリと背中にくっ付いてくる。


坂上だったら……

相手にその気があって、ここがフランスであることをいいことに、手を出すかもしれない。


残念だったな。

僕は女にも男にも性愛を感じない。

自分は、そういう感情がすっぽりと欠けている人間だと、自覚が出て来ていた。

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