第25話 藤波のマンション

夜7:30。

藤波のマンションへ行く。


街から近くて便利な立地だ。

エントランスもオートロックで、藤波の部屋と通話して解除してもらう。

全体的に、ホテルのような立派な作りだ。




部屋に着くと、浴衣姿の藤波がドアを開けた。


「ま、中に入って。」


促されて、玄関に入る。

玄関もやはり広く、廊下を歩くとリビングだ。

大きなテレビにソファ。

リビング入り口側にキッチンがある。




「ここは、見ての通りだよ。橘君の部屋はこっち。」


リビングの入り口近くの右手側に廊下が伸びていて、廊下をちょっと行くと、突き当たりと、右に2つ、左に1つ部屋がある。




藤波は右手側の手前のドアを開けた。


部屋に入ると、入ってすぐに机があり、右側奥にベッドとクローゼットがある。

綺麗なシンプルなホテルみたいだ。


「足りないものがあったら言ってね。普段は客室だから、簡素なんだ。ちなみにこの部屋の隣は家政婦の部屋だよ。」




藤波は、次に廊下の左側にあった部屋を案内してくれた。


「物置になってる。なんてことはない。」


広い部屋で、本棚と引き出しと棚が並んでいる。本や生活用品が向きの乱れもなくピシッと詰まっている。

家政婦が管理しているのかもしれない。

几帳面さが滲み出ている。




最後に奥の部屋だ。


「俺の部屋だよ。掃除とベッドメイキングをお願いしたい。」



ドアが開くと、不思議な香りがした。


「お香が好きでね。」


部屋の中央にローテーブルがあり、香炉があった。



右手側にベッドとクローゼット。

左側に机と椅子があり、横に大きな本棚が壁のように立っている。

机には、本や紙が散乱し、足元にはダンボールが積み重なっている。


「物は触らないでくれ。自分なりに、中身と場所がわかった上での配置だから。」


どこか1ヶ所でも崩れたら、全部崩れそうだ。





「早速だけど、夕食作れるかな?前もって言ってないから、本当に簡単なものでいいけど。」


「わかりました。ちょっと冷蔵庫を拝見します。」



橘はキッチンに向かった。


ダイニングキッチンでカウンターのようになっている。

椅子もあるので、そのままそこで食事をしているようだ。

藤波がカウンター席に座ると、まるでヒュッゲと同じ風景だ。




冷蔵庫を開けると、大抵のものは揃っていた。

お店のようにきちんと物が並べられていて、わかりやすいし、取り出しやすい。


冷蔵庫のドアには1週間の献立が書いてあった。

さらに冷蔵庫の脇にはノートがあり、めくると、手書きのレシピだった。



ノートを見ると、藤波の一番の好物は牛すき焼きのようだ。

ただ、今からそれではちょっと重いだろう。

パラパラめくると、鮭のホイル焼きが出て来た。

今回はこれに決めた。




「橘君も夕飯はこれから?」


「ええ、そうです。」


「じゃあ、当たり前だけど、自分の分込みで作ってね。君のことは、家政婦として雇ったんじゃないんだ。不思議な同棲相手として関わりたいんだよ。できれば、対等であってほしい。」


「ああ……はい……。」



料理をしながら曖昧に返事をする。

まだ、イメージがつかなかった。


「名前も、下の名前で呼び合おう。俺はカナメだ。橘君はリオンだったね。フランス語で”ライオン”の意味だ。」


「そうなんですね。知りませんでした。」


野菜を洗いながら答えた。

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