レイクシアのダンジョン7
ダンジョニアの街での見学を一通り終えたわたしたちは最下層のボス部屋ことアウレリアの部屋に戻って来た。
街のお屋敷で時間を過ごしても良かったんだけど、王子やフランシスカたちと行き違いになると面倒になるのでボス部屋に戻って来たの。
わたしはダンジョニアの街の大きさを体感した興奮が冷めやらない。
「ダンジョンの中とは思えないほどのすごい規模の都市だったわね」
「すごかった」
わたしと同じく感動したといってるアイだったけど、相変わらずわたしの手を握り続けて頬ずりしている。
わたしたちが街に行く前と戻った後では大きな違いがひとつあった。
それは乙女ゲーのリルティアの中で最高レア度の装備と呼ばれる、片手剣『デスフェイト』がわたしの手の中にあり、アイの手には短剣『デスシャイン』が有ることだった。
デスフェイトと名前の付いている片手剣は名前の頭にデスが付いているけど死神専用剣というわけじゃなく、破壊を意味する『デストロイ』と運命を意味する『フェイト』から名付けられた剣で、いうならば『運命を切り裂く剣』といった意味が名付けられた剣だわ。
ウィリアム王子の攻略ルートでしか出ないウィリアム王子ルート専用剣で、デスフェイトを使ったウィリアム王子との合体必殺技でしかラスボスの防御を崩せず倒せない。
アイの手にしている短剣『デスシャイン』はクリスくんルートで出てくるクリスルート専用剣で光をも切り裂く剣と言われていてこちらも簡単には手に入らない。
こんなレア武器が店売りで手に入っちゃうって、ダンジョニアの街はどうなってるのよ?
どちらも攻略対象との親密度のパラメーターを最高まで上げて、最高難易度のマスターダンジョンに最高7回も潜ってボスを撃破し続けないと手に入らない超激レア武器なのに店売りで手に入るって……。
リルティアで苦労してたわたしはなんだったんだろう。
ダンジョンの中の街で召喚されたドワーフが営む店だったからこんなレア度の高い武器が店売り武器として手に入ったのかもしれないけど、まあなんと言うか凄すぎる。
アイもさぞかし喜んでるんだろうなと思って見てみると、アイは短剣デスシャインには全く興味が無いようで相変わらずわたしの手に頬ずりをしてヤバい顔をしていた。
レア武器よりもわたしの方がいいって、どんだけわたしのことを好きなのよ。
紅茶を飲もうとするとアウレリアが呟いた。
「来たわよ」
「来たってなにが?」
その答えをアウレリアが発するより前に、部屋の扉が激しく開け放たれた。
ウィリアム王子が部屋に飛び込んできたわ。
「アイビス! 助けに来たぞ!」
「ウィリアム。ずいぶん遅かったわね」
笑顔で手を振るわたし。
でもウイリアム王子は怯えている。
「お、お前、なにをしてるんだ?」
「なにってアウレリアとお茶を飲んでウィリアムが来るのを待っていたんだけど?」
「お前はなにと
「なにってフランシスカの同級生のアウレリアよ。彼女に敵意は全く無いし、待ってる間、色々世話になったんだから」
フランシスカが叫ぶ。
「ダメだわ。アイビスは完全に魅了されてるわね」
ウィリアム王子はわたしをアウレリアから引き剥がすと、フランシスカは魔法を唱える。
「ホーリーフィールド!」
聖なるフィールドが闇属性魔法を無効化し聖なる波動で満たし浄化する範囲治癒魔法だ。
するとアウレリアが苦痛を表情ににじませる。
「ぐあああ!」
すると、闇属性魔法を吹き飛ばされたアウレリアが姿を変えた。
「嘘?」
目の前には可憐な少女の姿のアウレリアではなく、朽ちた肉体を持つ死体がさっきまでわたしとお茶をしていたアウレリアの座っていた椅子に現れた。
言われなくてもわかった。
アウレリアは既に死んでいて、わたしはその霊体と語らっていたと言うことが……。
わたしはこの死体とお茶をしていたの?
これがアウレリアの正体だったの?
死体とお茶をしていたって、どれだけ魅了されてたのよ?
でも……、アウレリアは死んでいたとしても悪い人じゃない。
アウレリアに敵意が有るならわたしは既に呪い殺されていた。
わたしを抱きかかえていたウィリアム王子の腕を振り払い、剣を構えてアウレリアに切りかかろうとしたチャールズ王子の前に立ちはだかり攻撃を必死に止める。
「チャールズ、やめて! アウレリアは既に死んでいるかもしれないけど敵意は持っていないわ。倒すのだは止めて!」
「敵意は持ってないと言われてもアウレリアはアイビスをさらったぐらいだしなぁ。どうしたんだよ、いったい」
「お願いチャールズ、アイビス様の話を聞いて!」
アイが叫ぶとチャールズ王子は攻撃を思いとどまり、剣を鞘に納める。
「わかったから、事情を説明してくれよ」
わたしが攻撃を思い止まったチャールズ王子に事情の説明を始めようとしたけど、フランシスカは違った。
「なにアウレリアに魅了されてるのよ! 目を覚ましなさい!」
そう叫ぶとフランシスカは突如魔法を唱える。
「
天空から射す聖なる光。
そしてアウレリアから発せられる断末魔。
「フランシスカ! お前はいつもいつも!」
アウレリアは天空からの聖なる光に死体を焼かれ、本体の霊体ごと朽ちた身体を灰にした。
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