レイクシアの町

 レイクシアの町を訪れたわたしとアイ。


 レイクシアの町はマリエルが主人公だったリルティアのゲームの中では訪れることが無く名前しか聞いたことが無かった。


 初めてレイクシアの町を訪れたけど、小さいけど観光地っぽくて綺麗で結構いい感じの町ね。


 日本で言ったら軽井沢とか諏訪湖に相当するのかしら?


 避暑目当ての観光客もかなり来てるみたい。


 町の規模が小さいだけで生活に必要な店は大抵揃っていて冒険者ギルドもあるわね。


 そういえば出掛けにウィリアム王子が言っていたフランシスカの「自由研究の決着」ってなんだろ?


 ボスを倒していないって言ってたし、ダンジョンの調査が全然進んで無かったのかもしれないわね。


 わたしたちが完璧な調査報告書を自由研究で提出すれば、わたしたちへの評価は揺るぎない物になるわよ。


 ダンジョンの発見者のフランシスカの功績を横取りする感じになるけど、ダンジョンの調査を途中で投げ出したフランシスカが悪いわよね。


 *


 ポーション屋に行くと居るはずのない意外な人物に出会った。


 マリエルだ。


 マリエルはポーション屋の店員をしていたわ。


「アイビス様、こんなとこで出会うとは奇遇ですね。レイクシアには避暑で訪れたのですか?」


「一応、自由研究をする為の合宿ってことで来たのよ」


「自由研究ですか。夏休みの宿題があることをすっかり忘れてました」


「マリエルこそ、なんでこんなとこで店員してるのよ?」


「夏休みのバイトです」


 アイに制服を汚損されることは無かったから、制服の再購入でアルバイトをする必要なんて無いはずなのに……。


「実家の家業が不景気なせいで仕送りが止まっちゃって学費を稼がないといけないんです。貧乏って嫌ですよね」


 あらま。


 仕送りが止まったって……。


 どうやってもマリエルは夏休みにバイトをしないといけない運命なのね。


「バイト頑張るのよ」


「はい!」


 必要なポーションや回復薬を買ったら、マリエルの仕事を邪魔しない様に退散する。


 次は武器防具屋だわ。


 ダンジョンに潜るなんて聞いてなかったので装備は全く持って来てなかったので、買うことにしたの。


 武器防具屋に行くと青年の鍛冶師の店番がいたので、声を掛ける。


 青年の名前はスミスだ。


 ダンジョン探索で使える一番いい装備を装備を見繕ってもらう。


「いい装備か……。いい装備を新調するなら俺に任せろと言いたいところなんだけど、ここんとこ観光客が町に押し寄せていい装備は全部売り切れ。普段ならオーダーメイドで装備の注文を受けたりしてるんだけど今は素材の魔鉱石も切らせてるんだよなー。普通の防具しか在庫が無いけど、こんなものでどうだ?」


 勧められたのは鋼の鎧と鋼の剣。


「どちらも物理防御力と物理攻撃力しか無い装備だけど、この辺りの敵ならこれで威力も強度も十分だと思う」


 特に反対する理由も無いのでスミスのおすすめ通り、鋼の鎧と鋼の剣を買うことにした。


 アイも同じものを買うかと聞いたけど、要らないらしい。


「アイは合宿中にチャールズ王子と組み手をするつもりだったから装備は持ってきているので要りません」


 合宿中にも剣の鍛錬を忘れないアイは偉いわね。


 帰り際にスミスがアドバイスをする。


「物理防御の鎧だけで心配なら、魔道具屋で魔法防御の付いたマントでも買ってくれ」ってことだったので次は魔道具店に。


「すいません、魔法防御の上がるマントを下さい」


「いらっしゃい……って、アイビス様? なんでレイクシアに?」


 魔道具店にいたのはクリスくんだった。


 そういえば夏休みにマリエルがクリスくんから魔法の使い方を教えて貰って魔法の才能に目覚めるってイベントが有ったけど、あれは学園の近くのお貴族様のお屋敷でマリエルがバイトをしてる時に起きるイベントだったはず。


 それなのにレイクシアにクリスくん迄現れるとは……。


 レイクシアでマリエルの魔法開眼イベント開始の条件が揃いつつある。


 わたしたちがレイクシアに来たから、それにつられてマリエルのイベントもレイクシアで起こるのかしら?


 このままわたしが介入せずに観察していたらマリエルの魔法開眼イベントがレイクシアで発生するのかが興味が有るわね。


 あと、既にマリエルはブラッドフォードとの男装騎士ルートに入ってるのにクリスくんルートの起点となる魔法開眼イベントが発生するのかも興味深い。


 わたしは二人の行く末をそっと見届けることにした。


 *


 ダンジョンの存在を確認しに来た俺とチャールズとフランシスカ。


 そして護衛の騎士も居る。


 フランシスカの言う通り、森を進むと隠されたダンジョンが見つかった。


 ダンジョンの入り口は岩の魔法で塞がれ、ぱっと見にはわからない。


「入り口を隠しておいたのか」


「このダンジョンは私自らの手で攻略するつもりだったからね」


「親友のアウレリアの敵討ちの為か」


 フランシスカはため息を吐く。


「ウィリアム王子には隠し事は出来ないですね……」


「フランシスカにはアウレリアという女生徒の親友がいたけど、その親友は一年の二学期に入る前に水晶学園を退学していた所までは調べが付いている」


「全部お見通しですか」


「アイビスの家庭教師に雇い入れる時に一通り調べさせてもらったからな」


 フランシスカは過去を隠すのを止めて全てを話す決心をした。


「私は夏休みに親友のアウレリアを誘って、レイクシア周辺にあると言われている強力な杖を作れる魔鉱石を探していたんですよ。その時、偶然にこのダンジョンを発見したの」


「冒険者ギルドにダンジョン発見の報告はしなかったのか? ダンジョン発見の報酬で杖ぐらい余裕で買えただろ?」


「もちろんアウレリアもそう言ったわ。でも、私は欲に目が眩んでしまったの」


「欲で親友を失ったか」


 フランシスカは唇を噛み締めると、それには答えず話を進めた。


「ダンジョンのお宝と初踏破の名声が欲しくて一人でもこのダンジョンに潜ると強引に主張したらアウレリアはしぶしぶついて来てくれたわ。あの頃の私は学園主席の実力で自信過剰だったから、一人でもこのダンジョンを余裕で攻略できると思ってたのよ……」


「それで親友を失ったと」


「そうだわ、笑えるでしょ。アウレリアもあの時断っておけば私が死んだだけで済んだのにね」


 そして再びため息を吐くフランシスカ。


「ダンジョンボス戦で自分の為に用意した緊急脱出用の護符をわたしに使ってね……ほんとバカよね」


 フランシスカの頬に一筋の涙が流れた。


 そこまで護衛の騎士と一緒に静かに聞いていたチャールズ王子が口を開く。


「学園主席の魔導士でもこのダンジョンのボスには敵わなかったのか?」


「ボスは死霊のリッチだったので攻撃魔法は一切効かなかったわ。それが私が死霊に効く治癒魔法使いを目指した動機よ。リッチへの復讐の為にね。まだ生きているアウレリアへの供養のためにね」


 そう言ってフランシスカは再び唇を嚙み締めた。

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