ビリーくんの機転
ああ、こんなことになるなら、ペア別けの時にチャールズ王子とマリエル、ウィリアム王子とビリーくんを組ませておくんだった。
それならこんなことになる前にウルフハウンドの群れを撃退できたのに。
あれだけ二人が不安がっていたのに、ビリーくんとマリエルになにかあったら無理やり二人を組ませたわたしの責任よ。
自分のことだけしか考えずに決めたペアを後悔しまくっていたけど、ウィリアム王子はアイビス《わたし》の責任じゃ無いという。
「あんなモンスター、俺一人戦ってもどうにもならなかった」
わたしが現場に辿り着くと、崖前の広場には巨大な鳥の魔物が居た。
それはリルティア王国物語でおなじみの魔物『ロックバード』だ。
ゲーム終盤から登場するモンスターで地球の
けっして音楽の方のロックではないわ。
土魔法を使いちょっとした石の塊を魔法で投げてきて、ひるんだところを鋭いくちばしや
この石化魔法が厄介でね、鳴き声に石化魔法が乗っいてまともに食らうと身体が石化して身動きが取れなくなるのよ。
おまけに目の前にいるこのロックバードは固有種みたいで、明らかにひと回り身体が大きくて攻撃も強そう。
こんなヤバそうな敵、序盤で出会う敵じゃないわよ。
RPGで最初の村を出たスライムしか居ないはずの草原で、いきなり砦の
既に交戦状態に入っていたチャールズ王子は地面に倒れていて、アイがなんとか耐えている感じ。
チャールズ王子がなにか言っている。
「兄貴、こいつはヤバいぞ。強い上に石化魔法を使ってくる。早く逃げるんだ!」
「チャールズを捨てて逃げられるわけも無いだろ」
それにビリーくんとマリエルはどこに行っちゃったの?
まさか、もう食べられちゃってロックバードのお腹の中?
「ビリーくんとマリエルは?」
「それならまだ大丈夫。あの崖の辺りに隠れているみたいだ」
どうやら二人は無事らしいのでほっと胸を撫でおろすけど、今はそんなことをしている暇なんてない。
わたしはアイに指示を出す。
「アイ、もう少し頑張って! ロックバードの大声を聞いたら石化されるから、鳴いたら距離を取るのよ」
「了解!」
ウィリアム王子にも指示だ。
今は緊急事態。
男だとか王子だとかは気にしてられない。
ロックバードと戦ったことのあるわたしが仕切らなきゃ誰が仕切るのよ。
「ウィリアム、チャールズ王子を治すから連れてきて」
「わかった」
ウィリアム王子は『王子である俺が指示をだすんだ!』とか『男の俺が仕切るのが当然だ!』とかの面倒くさいことは言い出さずに素直にわたしの指示に従ってくれた。
すぐにチャールズ王子はわたしの元に連れて来られた。
チャールズ王子は今にも気を失いそうなほど弱々しげだ。
「石化してるから治癒魔法じゃ治らない。俺を捨てて逃げろ」
「石化なんてちょちょいのちょいでわたしが治すから安心して」
「石化を治せるのかよ」
「簡単にね……。その前に」
わたしは新しい指示を出す。
「アイとウイリアムの選手交代。役割を入れ替えて!」
2人はすぐに役割を入れ替える。
「アイはなにをすればいい?」
手が空いたアイが支持を仰ぐ。
「今ここで治癒魔法を使えるのはわたしとアイだけだから、アイは戦闘から外れて戦闘中のウィリアム王子の治療に専念してあげて」
「アイビス様の判断に間違いない。了解した」
「万一、石化されたらすぐに教えて。石化はアイじゃ治せないから、わたしが治すわ」
「了解!」
そしてわたしはチャールズ王子の治療を開始する。
まずは石化の治療だ。
石化が治療されて、すぐに動けるようになった。
石化が解けたチャールズ王子はやたら感心していた。
「ずいぶんと手際がいいな」
「治癒魔法と状態異常の解除魔法は一通り習ってるからね」
「そうじゃねーよ。兄貴やアイへの指示さ」
「ウィリアム王子に帝王学を無理やり教え込まれたからね」
というのは嘘でリルティアを何周もしたからね……。
ラスボス戦をやりまくったお陰で指示はお手のものよ。
わたしは引き続き治癒魔法で体力の回復を始める。
「あと少しで治癒が終わるから、治ったらチャールズ王子はロックバードの後ろから攻撃してね。ウィリアム王子と敵の前に突っ立って石化攻撃を仲良く同時に食らうことは無いわ」
「わかった」
ウィリアム王子は石化攻撃をちゃんと避けているのかアイから『石化』の報告はない。
ならば、この隙にビリーくんを助けないと……。
崖の辺りにいるって聞いたんだけど、どこにいるんだろ?
この辺りに居ると思うんだけどな……と思ったら崖の中から弱々しい声が聞こえてくる。
「助けて下さい。ビリーくんが死んじゃう!」
聞こえてきたのは女の人の声。
たぶんマリエルの声だ。
ということはマリエルは無事なのね。
崖には洞窟があったらしく、入り口を土魔法で封じて有った。
土魔法の呪符で出す手のひら大の石で洞窟の入り口に壁を作って封じたのね。
ビリーくん、なかなかやるじゃない。
入り口にはロックバードがついばんだ痕があるけど、呪符を全部使って壁を築きあげたみたいでもう少しの時間を耐えられそうだった。
土魔法の呪符を攻撃手段じゃなく機転を利かせて防御手段として使うとはビリーくんらしいアイデアね……。
と、感心している暇はない。
ビリーくんが死にそうなんだった。
わたしは洞窟の封印をとき、中からビリーくんとマリエルを助け出す。
マリエルは泣きじゃくっていた。
「ビリーくんがわたしを守ろうとして石化してしまって……呼吸が止まりそうで今にも死にそうなんです」
確かに身体の殆どが石化していて心臓まで石化したら死んでしまう。
死ねばもう治すことは出来ない。
「大丈夫だから、下がって」
わたしは石化解除をするとビリーくんの顔に血色が戻って来た。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
マリエルはビリーくんを抱きしめて泣きじゃくっている。
そんなマリエルをビリーくんはなだめた。
「いや、あれは僕のミスですよ。洞窟の入り口を土魔法の呪符で封印したから入り口にもたれ掛って安心しきっていたら、まさか石化魔法の鳴き声が岩を貫通するとはね」
ビリーくんが笑うと、マリエルもつられて笑っていた。
「今はロックバードとウィリアム王子とチャールズ王子が交戦しているけど、かなり厳しい戦いになりそうだから今のうちに逃げておくのよ」
「わかりました」
マリエルが深く頭を下げる。
ここは二人に任せて、ウィリアム王子の治癒のサポートに戻らないと。
ウィリアム王子の元に戻ったらとんでもない事になっていた。
ロックバードが狂化していたのだ。
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